セネガルと真っ向勝負で渡り合った日本 大きな収穫はリバウンドメンタリティー

宇都宮徹壱

「あくまで勝ち点3を」というメッセージ

前半34分、日本は柴崎のロングフィードから長友、乾とつなぎ、乾がゴール右隅に同点ゴールを突き刺す 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし、ここで折れる日本ではなかった。前半34分、反撃の糸口となったのは、自陣深くからのロングフィード。放ったのは柴崎の右足だった。これをペナルティーエリア左で長友が受け、トラップで1人かわすと、ボールホルダーは乾にスイッチする。乾は迷うことなく右足を振り抜き、カディム・エンディアイエが守るゴールの右隅を突き刺した。当人は「シュートも少ない時間帯だったので、思い切って打った結果」と語っていたが、これがうれしいW杯での初ゴール。その直後、セネガルはエムバイエ・ニアンがドリブルで持ち込んでGKと1対1になるが、ここは川島が冷静にクリアした。前半は1−1で終了。

 ハーフタイム。西野監督によれば「選手たちは非常に自信に満ちていた」とのこと。その上で、コロンビア戦と同様「勝ち切らないといけない」ことを再確認し、選手をピッチに送り出す。指揮官の言葉を受けて、日本は立て続けに決定的なチャンス演出した。後半15分、原口からボールを受けた柴崎が右サイドの深い位置からグラウンダーのクロスを入れ、これに大迫が反応するもわずかに足が届かず。さらにその4分後には、クサビに入った原口のラストパスを乾が狙うも、弾道はクロスバーをたたいてゴールならず。

 そうこうするうちに後半26分、再びセネガルの攻撃が猛威を振るった。マネからのパスをペナルティーエリア内の左で受けたサバリが、反転しながら柴崎の股間を抜いて低いクロスを供給。中央のニアンが昌子を引きつけ、フリーで走り込んできたワゲが右足ダイレクトでたたき込む。再び、日本を突き放しにかかったセネガル。すかさず日本のベンチも動く。香川を下げて本田圭佑、さらに30分には原口に代わって岡崎慎司を投入。本田がトップ下かと思ったら、2トップに大迫と岡崎、本田は右に張り出す形になった。そしてこの交代が、見事に実を結ぶ。

 後半33分、大迫の右からのクロスが、競り合った岡崎の頭上をかすめて逆サイドへ流れる。これを乾が折り返すと、ゴール前の本田が左足ワンタッチでネットを揺らした。同点ゴールを決めた本田、アシストした乾、いずれも素晴らしかった。しかしこの時、つぶれ役となって相手GKの動きを封じた、岡崎の献身を忘れるべきではないだろう。そして後半42分には乾を下げて、代わりに入ったのが宇佐美貴史。守備固めではなく、オフェンシブな選手を投入するところに、「あくまで勝ち点3を取りにいく」という指揮官のメッセージが込められている。試合はそのまま2−2のドローで終了。日本とセネガルは、激闘の末に勝ち点1を分け合うこととなった。

セネガル戦での収穫は何か?

セネガル戦でいくつかの収穫を得た日本。ポーランド戦では、さらに自信とたくましさを増した戦いぶりを期待したい 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 その後、カザンで行われたポーランドとコロンビアのゲームは、日本戦での失意を払拭したコロンビアが3−0で完勝した。これでグループHは、日本とセネガルが勝ち点4(得失点差+1)、コロンビアが勝ち点3(同+2)、ポーランドが勝ち点0(同−4)となった。FIFA(国際サッカー連盟)ランキング6位(17年10月16日付)でポット1だったポーランドは、グループリーグ敗退が決定。そのポーランドとの第3戦に、日本が引き分け以上なら無条件でラウンド16に進出できる。また敗れたとしても、セネガルがコロンビアに勝利すればグループ2位通過が決定。コロンビアが勝ったとしても、可能性は残る。そうして考えると、このセネガル戦で積み重ねた勝ち点1の重みが、あらためて理解できよう。

「タフなゲームを想定していたし、事実そういう内容、結果になってしまった」──。セネガル戦を終えた会見で、そう実感をこめて語る西野監督。その上で「勝ちにいきたいという選択をした上での勝ち点1なので、それは高く評価したいと思います」と、素直に心境を吐露している。相手はフィジカルやスピードに加えて、規律や戦術にも長けた「新しいアフリカのナショナルチーム」。しかも前半11分に先制され、後半26分に勝ち越されながらも手にした勝ち点1なのだ。「高く評価したい」という発言は、口下手な指揮官の最高の賛辞だったのかもしれない。

 さて、この試合での日本のリバウンドメンタリティー(逆境に打ち勝つ精神力)は、確かに1つの大きな収穫である。だがそれ以外にも、いくつかの収穫(あるいは確認できたこと)があった。選手でいえば、まず柴崎。この日はゴールもアシストもなかったものの、彼が日本の攻撃のタクトを振っていたことは、誰もが認めるところであろう。とりわけ1点目のロングフィードについては、「佑都さんがいい飛び出しをしてくれたし、あっちのサイドバックがあんまりいい対応をしていなかったので」とサラリとコメント。気がつけば今の日本代表は、確実に「柴崎のチーム」となりつつある。

 もう1つの収穫については、シセ監督の会見から見いだすことができる。守備の要であるクリバリのプレーが今ひとつだったことについて、敵将は「15番(大迫)が、われわれのディフェンスに大きなプレッシャーをかけていたから」と語っていた。アフリカのナショナルチームの監督から、日本の選手がこのような評価が得られたのは、ちょっと記憶にない。とはいえ試合を通してみれば、セネガルに対して堂々とフィジカルで真っ向勝負していたのは、決して大迫だけではなかった。相手のプレッシャーをテクニックでいなすのではなく、戦うべきところではきっちり戦っていた日本代表。28日のポーランド戦では、さらに自信とたくましさを増した戦いぶりを期待したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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