セネガルと真っ向勝負で渡り合った日本 大きな収穫はリバウンドメンタリティー

宇都宮徹壱

フィジカルやスピードだけではないセネガル

セネガルは欧州仕込みの規律や戦術を併せ持った「新しいアフリカのナショナルチーム」だった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 会見の空気を微妙に変える質問というものがある。6月23日(現地時間、以下同)に行われた、セネガル対日本の前日会見。セネガル代表のアリュー・シセ監督に対する、日本のメディアからの質問がまさにそんな感じだった。質問の内容は「日本はセネガルのディシプリン(規律)を警戒していた。それが自分のチームの特徴だと思うか?」。シセ監督は「変わった質問だね」と前置きしながら、少し声のトーンを変えてこう続けた。

「アフリカのチームにもディシプリンはある。ヨーロッパや日本の方に、それがあるとは言えない。そもそもサッカーには、チームも個人も含めて規律は必要だ。今大会でも、さまざまことを改善してきたし、選手も私の指示に従ってトレーニングを続けてくれた。セネガルは国外でプレーする選手が多く、チームをひとつにまとめるのは難しいかもしれない。それでも選手は(チームのために)正しくプレーしている」

 セネガルがワールドカップ(W杯)本大会に出場するのは、2002年の日韓大会以来、4大会ぶり2回目である。この時は、開幕戦で前回王者のフランスを1−0で破るセンセーションを起こすと、デンマークとウルグアイにも引き分けてグループを2位通過。さらにスウェーデンにも2−1で勝利して、初出場ながらベスト8の快挙を成し遂げた。この時、チームを率いていたのはフランス人のブルーノ・メツ(故人)で、シセはキャプテンだった。現在42歳。セネガルの五輪代表監督を経て、3年前から現職である。

 われわれがイメージするアフリカのサッカーというと、やはり「フィジカル」「スピード」「自由奔放」といったものが一般的であろう。逆に、厳格な規律や高度な戦術理解といったものから縁遠い、という偏見めいた思い込みがあるのも事実。それは、カメルーンがアフリカ勢として初めてベスト8に到達した90年大会から、ほとんど変わっていないように感じられる。しかし、あれから30年近くが経過した。アフリカのタレントたちの多くは、欧州でのプレーを通じて規律や戦術をたたき込まれている。そこで得た経験や知識が、祖国の代表にフィードバックされ、自国から優秀な監督が出てきても何ら不思議はない。

 今大会のセネガルは、これまでのフィジカルやスピードに加えて、欧州仕込みの規律や戦術を併せ持った「新しいアフリカのナショナルチーム」を見る思いがする。初戦でポーランドに2−1で競り勝ったセネガルの指揮官は、「少なくとも02年と同じくらいの成績を収めたい」と、意気軒昂(いきけんこう)だ。日本にとってはコロンビアとは違った意味で、実にやっかいな相手と言って間違いないだろう。

ゴール前でミスが重なり先制を許す

日本は初戦のコロンビア戦とまったく同じスターティングラインナップで臨んだ 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 日本との時差は4時間、モスクワとは2時間。この日、2試合目となる日本対セネガルのキックオフは、エカテリンブルクの現地時間20時に設定された。ちなみにカザンで行われる、コロンビア対ポーランドのキックオフは3時間後。よって日本もセネガルも、裏のゲームを意識することなく、目前の相手に集中することができる。天候は晴れ。気温は24度。こうした理想的な環境に加えて日本にとっては、サランスクでのコロンビア戦に比べてサポーターの数が増えたのも好材料だ。

 この日の日本のスターティングイレブンは、以下のとおり。GK川島永嗣。DFは右から酒井宏樹、吉田麻也、昌子源、長友佑都。中盤はボランチに柴崎岳と長谷部誠、右に原口元気、左に乾貴士、トップ下に香川真司。そしてワントップには大迫勇也。西野朗監督は早い段階から「コロンビア戦をベースに」と明言していたが、結果としてまったく同じラインナップとなった。勝っているチームをいじらないのは、ある意味で鉄則ではある。とはいえ、コロンビア戦に続いて原口と乾にハードワークを求めるのは、この先がいささか心配だ。勝ち点3は手にしているものの、依然として日本にはあまり余裕が感じられない。

 対するセネガルは、10番を付けた左ウィングのサディオ・マネをはじめ、不動のセンターバックのカリドゥ・クリバリ、そしてポーランド戦で抜てきされた20歳のイスマイラ・サールがスタメンで名を連ねる。初戦からのメンバー変更は1人のみ。2トップの一角を担ったFWのマメ・ビラム・ディウフに代わり、旺盛な運動量と視野の広いパスが持ち味のパパ・アリウヌ・エンディアイエが入った。この結果、システムはポーランド戦での4−4−2の布陣から4−3−3に変更。日本戦を意識した布陣であることは間違いない。戦術の引き出しと戦力の幅に関しては、どうやら相手のほうに分がありそうだ。

 序盤からペースをつかんだのがセネガル。スタンドでサポーターたちが奏でる、激しいパーカッションのリズムに合わせるかのように、日本陣内で長短のパスをテンポよく織り交ぜながらチャンスを探っていく。そして前半11分、右サイドでのパス交換からムサ・ワゲがクロスを供給すると、原口の中途半端なクリアボールをユスフ・サバリが拾ってシュート。ここで川島はパンチングを選択するも、ボールがマネに当たってゴールネットに吸い込まれる。ゴール前でミスが2つも重なれば、失点するのは必定。日本にとっては、実に悔やまれる試合の入り方であった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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