マイコラスが学んだ精神的落ち着き 「日本で先発投手として確立できた」

杉浦大介

「やりたかったことができている」

口ひげを蓄えワイルド感も増したマイコラス 【Getty Images】

“サプライズプレーヤー”の台頭もスポーツの醍醐味だが、今季からカージナルスでプレーするマイルズ・マイコラスもその中の一人に違いない。

 昨季まで3年間は巨人で活躍した29歳の右腕は、昨年12月にカージナルスと2年1550万ドル(約17億円)で契約。今季はここまで14試合で7勝2敗、防御率2.69と優れた成績を残し、オールスター候補にすら挙げられている。(成績は現地6月20日時点)

「米国に戻ってきて、やりたかったことができている。ここまでは実際に好調で、それだけの結果が数字として残っている。自分を信じてやってきたから、自身の成功に驚いてはいないよ」

 マイコラス本人は笑顔でそう語ってはいるものの、周囲にとってはやはりサプライズだろう。日本では3年間プレーし、62試合で31勝13敗、防御率2.18と大活躍したが、そこに至るまでにメジャーでの実績は乏しかった。日本での働きをほとんどそのままメジャーに持ち越したマイコラスは、カージナルスにとってのうれしい誤算になっていると言っていい。

 4シームの平均球速は90マイル台中盤(150キロ前後)とMLBでは必ずしも速球派とはいえないマイコラスにとって、最大の武器は制球力。今季は90回1/3を投げて10四球のみで、与四球率1.00はナ・リーグ1位。K/BBも6.60でマックス・シャーザー(ナショナルズ)に次ぐ同2位と見事な数字が残っている。

投手コーチ「成功のレシピを実践している」

「質の高いストライクが投げられて、それを繰り返すことができる。おかげで素早くアウトを稼ぎ、球数を減らし、長いイニングが投げられる。古典的な成功のレシピを実践している。そういった意味で、過去のベースボールを思い返せるようなタイプのピッチャーだ」

 カージナルスのマイク・マダックス投手コーチがそう述べる通り、日本のファンにもおなじみのマイコラスの持ち味は米国でも生きている。テンポのいい投球は、マダックス投手コーチの弟であり、稀代の制球力を誇ったグレッグ・マダックスを彷彿(ほうふつ)とさせると言ったら褒めすぎか。近年流行りの速球派とは一線を画すスタイルには、実際にどこかオールドファッションな魅力がある。

 2014年は50イニング以上を投げた332人の投手中、防御率329位だったマイコラスが、今季はリーグトップクラスの防御率(ナ・リーグ6位)、WHIP(同2位)を残すようになった。これほどの向上を見れば、日本でその投球を開花させる変化が起こったと考えたくもなる。巨人時代に制球を安定させるフォームを身につけたのか? 新たな変化球でも手に入れたのか?

 しかし、レンジャーズ時代の14年からマイコラスのことをよく知るマダックス投手コーチによれば、フォームや球種よりも、異国で手に入れた最大の収穫はメンタル面の成長だったようである。

「日本に行ったことは間違いなく助けになったはずだ。異国で自身と向き合う機会が増え、人間的に成長できた。新しい環境では他に頼れる人がいなくなり、自分自身で責任を持たなければいけないもの。成功も失敗も自分次第。そんな時間を持つことで、自らを確立できたのだろう。投手としてだけでなく、人間としても必要な時間だったはずだ」

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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