W杯前年「やっとジェイミージャパンに」 ラグビー日本代表、価値ある1勝1敗

斉藤健仁

相手と競るキックを効果的に使う

HO堀江が投げ入れるラインアウトの成功率も安定していた 【斉藤健仁】

 ゲームプランは2試合ともに相手の大きなFWを背走させて疲れさせるために、ボールインタイムを増やす狙いで、自陣からでもタッチラインの外に出さずに真っすぐ蹴るシーンが多かった。実際に1試合目のキック数は40回ほど、ボールインタイムは狙い通り、ジェイミー・ジャパンの試合では最も多い40分ほどになった。

 ジェイミー・ジャパンのアタックは「アンストラクチャーをストラクチャー化(陣形が崩れた局面を組織的に生み出す)」するため、コンテスト(相手と競る)キックを用いる。その中で、イタリア戦で目立ったのは、SHからのボックスキックだけでなく、自陣からSOが蹴るオープンサイドのハイパントだった。エリアも取ることができ、しっかりとWTBを競らせることができる有効なコンテストキックである。また敵陣に入ってからもキックパスやグラバー(転がす)キックでトライを演出した。

攻撃の形も変化、インサイドCTBが重要に

インサイドCTBのラファエレ(左)から、後ろに立つSO田村(右)へのパスなど多くの選択肢がある 【斉藤健仁】

 ジェイミー・ジャパンの4つのユニットに分かれた「ポッド・アタック」の形もやや変化。昨秋やサンウルブズでは2番、8番をフリーマンとして、ラックに対して外から内側にえぐるように走り込ませていた。だがイタリア代表戦は、大外(エッジ)でラックができると、そこから一度FWを当ててラックを作り、その横にインサイドCTB(ラファエレ ティモシーか中村亮土)とFW2人でシェイプを作った。その後ろにSOを立たせて、SOの横にもFWとBK一体となったアタックラインを形成する。

 インサイドCTBはSHから見て浅めに立つことで、ランもできれば、横に立っているFWにショートパスもでき(パスの後、密集で相手をスイープもする)、裏のSOにもパスが選択できる。裏のSOから見れば前のランナーがデコイ(おとり)の役割もするというわけだ。
 今後、おそらく立川理道もインサイドCTBでプレーする可能性があり、ラファエレ、中村、立川とランもパスといったスキルに長け、人にも強い選手がそろうからこその戦術であろう。またSOに裏から的確な判断をさせることも狙っている。

 またHO(堀江/庭井祐輔)とNo.8(マフィ/姫野和樹)は内側をえぐるように走り込む回数は減り、HOはインサイドCTBの横に3人目として立ち、No.8は大外のアタックラインに入るシーンが多かった。現に1試合目の先制トライは、CTBラファエレからFWシェイプの3人目に立っていたHO堀江へ、その堀江からSO田村へバックフリップパス、さらにアタックラインにはNo.8マフィ、FLリーチ マイケル、WTB福岡堅樹の3人のランナーがいてトライを取り切った。

第2戦ではキックの精度が落ちてしまう

第2戦の後半から出場したSH流は、素早いパスで攻撃にリズムを与えた 【築田純】

「アンストラクチャーからのアタックは誇り」というジョセフHCは、1戦目はターンオーバーからトライまで結びつけることができなかったため、2戦目は崩れた形からのアタックに主眼を置いて試合に臨んだ。だが規律が良くなかったことや、相手のプレッシャーやボールキープに主眼を置いた戦略もあり、前半はほとんど攻める時間はなかった。

 試合開始直後にオープンサイドにハイパントを蹴ったが、SO田村のキックは長くて競ることができなかった。また前半18分にはコンテストキックでもいいところを大外のWTB福岡まで回してからキックし、そのキックが起点となって先制トライを献上。22分には相手のキックに対してカウンターアタックを仕掛けたが、大外で反則し、その後のラインアウトからトライを許してしまい、ゲームを難しくしてしまった。

 結局、後半もキックを蹴ったが機能せず、2試合目のキック回数は1試合目の半減の21本となった。相手のプレッシャーもあってSO田村の判断があまり良くなかったことやSH、FBも含めてキックの精度が1試合目より落ちてしまったことは今後の課題であろう。

 ただ、後半から入ったSH流大、そして残り20分から入ったSO松田力也、CTB中村が短い時間の中でも機能し、3トライを挙げたことは今後の日本代表にとってはプラスとなろう。「松田、中村を入れてゲームのテンポを上げることができた。スペースに対してもアタックができた。彼らはゲームの流れを読みながら、チームを立て直すところまで引っ張ってくれた」と指揮官も目を細めた。

W杯までにどこまでチーム力を上げられるか

試合後の会見に臨むジョセフHC。さらなる強化を見据えている 【斉藤健仁】

 いずれにせよ昨年6月はアイルランド代表に連敗し、昨秋は世界選抜とオーストラリア代表に連敗したころと比べれば、日本はチームとして十分に強豪と戦える姿を国内のファンに見せて、ジョセフHC就任後初めて「ティア1」に勝利したことは一定の評価はできよう。ただ武器であるはずのアンストラクチャーからのアタック、キックの使い方、そしてタックル成功率は80%前後とまだまだ改善の余地がある。

 本番まで450日あまり、テストマッチは多く見積もって15試合、スーパーラグビーも18〜20試合ほど。残り35試合ほどの中で、どこまでチーム力を上げることができるか、コーチ陣の手腕が問われることになる。ただ、6月のイタリアとの連戦で、W杯で戦うための大きな収穫を得たことは間違いない。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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