屈辱から奇跡へ、リベンジを果たした日本 運を呼び込んだ「受け身にならない」意志
指揮官の指示を遂行し、貴重な勝ち点3を獲得
10人のコロンビアは後半14分、満を持してロドリゲス(右)を送り込んできたが…… 【写真:ロイター/アフロ】
果たしてペケルマン監督は、この状況をどう修正してくるのだろう。最初のベンチワークは前半31分。それまで長友とマッチアップしていたクアドラードを下げ、代わって入ったのはつぶし屋タイプのウィルマル・バリオスであった。バリオスが中盤の底に入り、押し出されるようにキンテーロが右にスライドしたことで、コロンビアの中盤は落ち着きを取り戻す。そして39分、そのキンテーロがFKのチャンスで見事なゴールを決めた。グラウンダー気味のボールは、壁の下を抜けてゴール右へ。川島がかき出したかに見えたが、その前にゴールラインを割っていた。前半は1−1で終了する。
前半の日本の戦いを受けて、西野監督は「すべてが数的優位ではなくて、ポジショニングでの優位というのを持たないといけない」とハーフタイムで選手に伝えたという。攻守において「何となく」アドバンテージがある状況に警鐘を鳴らしつつ、数的優位よりもポジショニングでの優位を高めることを目指した。それが実現できれば、自ずと日本のポゼッションは上がっていき、人数の少ない相手をさらに消耗させられるという考え方だ。後半の日本は、この指揮官の指示を完璧に近い形で遂行し、次第にゲームの主導権を握るようになっていく。
コロンビアは後半14分、疲れの見えるキンテーロに代えて、満を持してハメス・ロドリゲスを送り込んできた。しかし。この日のハメスは明らかにコンディションに難があり、その彼に周囲が依存したことで、コロンビアの停滞感に拍車がかかる。さらに後半25分、両チームは相次いで選手交代。コロンビアは、ホセ・イスキエルドOUT/ カルロス・バッカIN、日本は香川OUT/本田圭佑IN。 いずれも攻撃的な選手の投入だったが、結果を残したのは後者だった。交代から3分後の後半28分、本田からのCKに大迫が頭で合わせ、これが決勝ゴールとなる。かくして日本は、4年越しのコロンビアとの再戦に見事勝利。貴重な勝ち点3を手にすることとなった。
「サランスクの奇跡」として記憶される一戦
決勝点を挙げた大迫(右端)が「運も味方して勝ち点3を取れたと思います」と語るなど、試合後の選手たちのコメントは実に冷静だった 【写真:ロイター/アフロ】
試合後のペケルマン監督の談話である。ハーフタイムでの修正が功を奏し、日本は得意とするパスサッカーを駆使しながら、相手を消耗させることに成功した。そして何より、敵将が語るように「自信を持って」ミッションを遂行できたことが大きかった。思い返せば過去5大会の初戦で、これほど日本が自信あふれるプレーを見せたことは記憶にない。日本がW杯で初めて南米勢に勝利したこと(しかもアジア勢としても初の快挙)は、確かに素晴らしいことだ。しかし、日本が初戦で自信あふれるプレーを見せたことは、それと同じくらい価値のある快挙と言えよう。
もちろん、日本のポゼッションサッカーが機能したのも、自信を持ってプレーを続けることができたのも、すべては前半3分のサンチェスの退場が契機となっている。あのシーンがなかったら、まったく違った試合展開になっていただろう。しかし、だからといって今回の勝利そのものがおとしめられるべきではない。明暗を分けた前半3分のシーンは、序盤から「決して受け身にはならない」という西野監督の意志が形になり、思わぬ幸運に結びついたものだ。ラッキーといえばラッキー。だが運を呼び込むには、明確な意志に基づいたチャレンジは不可欠である。この日の日本には、確実にそれがあった。
試合後の選手たちのコメントが、実に冷静だったのも好ましい。自身、W杯初ゴールとなる決勝点を挙げた大迫は「本当に今日は、運も味方して勝ち点3を取れたと思います」と語り、決定機を逃した乾も「この勝ちを無駄にしないためにも、次のセネガル戦が大事になってくる」と気を引き締めている。この日、18時に行われた裏の試合では、セネガルがポーランドに2−1で勝利。この結果、24日のエカテリンブルクでのセネガル戦は、グループ突破に向けた山場となった。これに勝利すれば、1位通過も夢ではない。
今回のコロンビア戦の勝利は、いずれ「サランスクの奇跡」として記憶されることだろう。正直なところ、4年前の「クイアバの屈辱」が、このような形でひとつの完結を見るとは思わなかった。もちろん日本代表が勝利したうれしさもあるが、相変わらず複雑な気持ちが拭えずにいる自分もいる。だが、少なくともわれわれは、グループリーグ第3戦まで、存分に楽しめる権利を獲得することができたのだ。新たな「思い出の地」となったサランスクを去るにあたり、今はそのありがたみをひとりかみしめることにしたい。