エース復活の東北福祉大が全国制覇 元西武・大塚光二監督「選手に感謝」

松倉雄太

プロ野球・西武でも活躍した大塚監督率いる東北福祉大が14年ぶり3回目の全国制覇を遂げた 【写真は共同】

<全日本大学野球選手権決勝>
東北福祉大 6対2 国際武道大


国:020 000 000=2
東:230 001 00X=6

(国)青野、林、伊藤将、吉田、北村−鮎ヶ瀬
(東)藤川、三浦、椋木、津森−岩崎、笹谷

【本塁打】深江(東)

中盤に欲しかった1点を追加

 東北福祉大(仙台六大学)vs.国際武道大(千葉県大学)による春の大学野球日本一を決める第67回全日本大学野球選手権大会決勝が17日に行われ、序盤のリードを守り切った東北福祉大が6対2と勝利し、14年ぶり3回目の優勝を果たした。元プロ野球・西武で活躍した大塚光二監督は選手1人1人とがっちり握手。西武の現役時代にはリーグ優勝7度、日本一3度を経験しているが、「プレーヤーのほうが自分で責任が取れる分楽。今のほうが1000倍うれしい」と感激を口にした。

 東北福祉大は1回裏に4番・深江大晟(4年/八戸学院光星)が先制2ラン。直後に追いつかれたが、2回裏に1番・吉田隼(4年/国士舘)のタイムリーで勝ち越し。2番・中野拓夢(4年/日大山形)にもタイムリーが飛び出し、国際武道大の先発・青野善行(4年/市立船橋)をマウンドから引きずり下ろすなど3点を追加した。

 中盤、両チームのリリーフ投手の踏ん張りで5対2のまま流れが止まる。どちらが『次の1点』を取るかがポイントになった。動いたのは6回。国際武道大のマウンドが本来のエース・伊藤将司(4年/横浜)に代わった場面だ。1死から連続四球と安打で満塁のチャンスを作った東北福祉大は2番・中野がライト前へ貴重な追加点となるタイムリー。

 欲しかった『次の1点』を取ったところで、大塚監督は津森宥紀(3年/和歌山東)をマウンドに送った。「最後は津森」。そう決めた指揮官の期待に、今季ケガで苦しんできたエースが応える。残り3イニングを1安打に抑え、優勝投手に輝いた。「みんなでここまで目指してきた。やっと監督を男にできたなと思えました」と、優勝投手になった津森は喜びに浸った。

全国大会で防御率0.00と完全復活

春のリーグ戦はケガでほとんど登板がなかったエース津森が全国大会で復活。2勝、防御率0.00の活躍でチームを優勝に導いた 【写真は共同】

 エースとして春のリーグ戦で期待されていた津森だが、2試合4イニングしか投げていない。アクシデントに見舞われたのは3月下旬のJR東日本とのオープン戦。「登板後のアイシング中に座っていたベンチの中の椅子が急に崩れて、右手中指が挟まれた。ツメが剥がれて、血だらけになりました」。剥離骨折もしており、リーグ戦での柱を失った。その間に支えてきたのが、2試合で先発した山野太一(2年/高川学園)、決勝で先発した藤川昂蓮(4年/京都外大西)らの投手陣。大塚監督が、「リーグ戦で先発経験のある投手を(今大会では)多くベンチに入れた」と話すように、全員が先発できる形を整えて、エースの復活を待った。

「リーグ戦ではみんなの力になれなかった分、全国ではみんなに力を貸そうと思って。絶対に日本一になる。勝つことにしか頭になかった」と、今大会は18回3分の2を投げて、2勝、防御率0.00。エースは神宮のマウンドで復活を遂げ、今大会の最優秀投手を獲得した。14年ぶりの優勝に貢献し、大学日本代表候補選考合宿に追加招集も決まった。次の大きな目標は春秋全国大会連覇。「秋も1つずつ必ず勝って、もう1回ここでこんな思いをしたい」と秋への闘志を燃やした。

選手の主体性に任せる指導

「大学4年間でプロに行かせてもらった。大学に恩返しをしたかった」とは大塚監督。優勝会見では元プロに関する質問も飛んだが、「プロは負けても次がある。学生野球では2連敗すると全国に行けないし、全国大会では負けたら終わり。1勝の重さがプロとは全然違う」と学生野球ならではの厳しさを口にした。

 西武黄金期に活躍したことで特別な指導があるのではと思われがちだが、基本は選手の主体性に任せている。全国大会に入ってから準々決勝の白鴎大(関甲新学生)戦では延長10回タイブレークの末のサヨナラ勝ち、準決勝の慶應義塾大(東京六大学)戦では逆転勝ちと日々選手が成長していることを実感。決勝前も「特別なことは言っていない。僕はがんばろうと言っただけ。余計なことを言って流れを止めたくなかった」と選手への強い信頼をうかがわせた。

 バッターボックスで一度しゃがんでから体を伸ばして打つ独特のフォームの吉田も「僕は打ち方は人とは違うけど、それでやってきたなら変える必要はないよと言ってもらった。伸び伸びやらせてもらっている」と大塚監督に感謝を述べた。今大会では切り込み隊長として2試合連続本塁打を含む18打数8安打6打点と結果を出し、MVPを獲得した。

 技術を教えることより、選手と一緒に野球に取り組むことに学生野球の指導者としてのやりがいを感じるという大塚監督。東北福祉大監督就任3年目にして最高の結果を出し、「選手に感謝している」と胸にぶら下げた優勝メダルをしみじみと眺めた。

■東北福祉大、優勝の軌跡

1回戦:広島大 8対3
2回戦:東海大北海道 不戦勝
準々決勝:白鴎大 2対1
準決勝:慶應義塾大 7対3
決勝:国際武道大 6対2
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著者プロフィール

 1980年12月5日生まれ。小学校時代はリトルリーグでプレーしていたが、中学時代からは野球観戦に没頭。極端な言い方をすれば、野球を観戦するためならば、どこへでも行ってしまう。2004年からスポーツライターとなり、野球雑誌『ホームラン』などに寄稿している。また、2005年からはABCテレビ『速報甲子園への道』のリサーチャーとしても活動中。

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