見る者の胸を打ったイラン対モロッコ 過酷な消耗戦で見せた限界のプレー

中田徹

最後まで衰えなかったスピードとパワー

イランとモロッコの試合は1−0でイランが勝利。見る者の胸を打った 【Getty Images】

 現地時間15日に行われたワールドカップ(W杯)ロシア大会のグループB第1節で、イランが1−0でモロッコを下した。その瞬間、クリーンシートを達成したGKアリレザ・ベイランバンドを祝福するために駆け寄るチームメートがいた。一方で、両チームの選手がピッチのいたるところで倒れ込んだり座り込んだりする姿もまた、非常に印象深いゲームだった。

 モロッコの攻撃的な強度、イランの守備的な強度――。そのせめぎ合いは過酷な消耗戦となり負傷交代者を何人か出してしまったが、それでも両チームのスピードとパワーは最後まで衰えることはなかった。

モロッコは国外で生まれ育った選手が多い

モロッコはオランダ育ちの選手が多く、オランダ人から高い期待を集めている 【Getty Images】

 私が今大会、注目しているのはペルーとモロッコだ。共に攻撃的なサッカーが魅力的なチームである。モロッコに関して言えば、23人中17人が国外で生まれ育った選手で、その内訳はフランス8人、オランダ5人、スペイン2人、ベルギー1人、カナダ1人と多岐に渡る。サッカー先進国で育成を受け、プロとしてのキャリアを積みつつ、モロッコ人としてのアイデンティティーを失わなかった者の集まりが今大会のモロッコ代表である。

 私の住むオランダには40万人ものモロッコ人・モロッコ系オランダ人が生活している。そこから生まれたサッカー選手たちは「うまい」「プレーに意外性がある」「見ていて楽しい」という共通点を持っている。

 その上でカリム・エル・アフマディ(フェイエノールト)の「飛び抜けたポゼッション能力」「ボール奪取からキラーパスへつなげるスタンディングタックル」、ハキム・ツィエク(アヤックス)の「左足一本で局面を変えるプレー」、ノルディン・アムラバト(元VVV、PSVなど)の「本能のプレー」、その弟ソフィアン・アムラバト(フェイエノールト)の「賢いプレー」といった個性を加えているのだ。

 W杯前のモロッコ代表の親善試合を見ていると、中盤でのパスワークに秀でており、ボールを失った直後のプレッシングも強い。立ち上がりから敵陣内でハーフコートサッカーを展開していた。90分間、試合をマネジメントするという点では物足りないものの、かなりオランダ人好みの冒険的で攻撃的なサッカーをする国である。

オランダのレジェンドたちはモロッコを応援

 オランダ育ちの選手が多いこともあり、オランダのレジェンドたちはモロッコの言葉で下記のような動画をアップしている。

「“アトラスの獅子”モロッコの成功を祈る。頑張れ!」(ルイ・ファン・ハール)
「頑張れ、モロッコ。オランダは君たちの味方だ。成功を祈る」(ルート・ファン・ニステルローイ)
「アトラスの獅子よ、勝利に向かえ」(パトリック・クライファート)
「モロッコよ、自分たちの力を見せつけるんだ。成功を祈っている」(ウェズレイ・スナイデル)

 もちろん、オランダ社会とモロッコ人コミュニティーの関係には影の面もあるのだが、オランダ代表がW杯に出られない今、モロッコ代表はオランダ人から高い期待を集めているのである。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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