パラグアイ戦でのメンバー刷新の効果は? W杯初戦まで1週間、最後のテストに臨む

宇都宮徹壱

パラグアイ戦が行われるインスブルックにて

パラグアイ戦が行われるチボリ・シュタディオン。巨大なユニホームバナーがスタンドに貼られていた 【宇都宮徹壱】

 日本代表の合宿地であるオーストリアのゼーフェルトから、列車に揺られること40分弱。6月12日(現地時間、以下同)にパラグアイ戦が行われる、インスブルックの中央駅に到着したのは前日の11日のことである。日本代表が祖国を発って、すでに10日余り。その間、6月8日にルガーノで行われたスイス戦では、0−2とスコア以上の力の差を見せつけられて完敗している。今回のパラグアイ戦は、コロンビアとのワールドカップ(W杯)本大会初戦から逆算して、ちょうど1週間前。これが日本にとって、最後のテストの場となる。

 その舞台となるインスブルックは、アルプス山脈の東部に位置するチロル州の州都で、人口は約13万人。過去2回の冬季五輪(1964年と76年)が開催された、ウインタースポーツの聖地でもある。それにしてもなぜ、わずか12年の間に当地で2度の冬季五輪が開催されたのだろうか? 実は当初、76年の開催地は米国のデンバーで決定していた。ところが地元住民の反対運動によって、直前に開催権を返上。代替地としてインスブルックが選ばれ、大会ロゴは12年前のものをほぼ流用することとなった。

 パラグアイ戦が行われるのは、インスブルック中央駅からバスで15分ほどの距離にある、チボリ・シュタディオン。当地を本拠とする、FCバッカー・インスブルックのホームグラウンドで、約1万7000人収容である。国内リーグで10回優勝している強豪だが、欧州全体ではさほど知名度があるわけではない。2002年にクラブは経営破綻。一時は3部リーグから出直すという苦難の歴史も経験している。そんな中で注目すべきは、このクラブが数多くの名将を輩出していることだ。

 メディアセンターに向かう階段を登っていく際、壁に掲げられた2枚のポートレートに思わず目が留まった。1人はオーストリアの伝説的な指導者で、ウィーンにあるナショナルスタジアムの名前にもなっている、エルンスト・ハッペル(1992年没)。そしてその隣には、現ドイツ代表監督のヨアヒム・レーブの顔も見える。世界王者の指揮官は01−02シーズンの優勝監督。この他にも、浦和レッズで指揮を執ったホルスト・ケッペル、現ロシア代表監督のスタニスラフ・チェルチェソフも、このクラブを率いている。

現時点ではまるで予想できない日本の陣容

パラグアイ戦での出場が有力視されているGKの東口。「流れが変わるきっかけに」と秘めた思いを語った 【宇都宮徹壱】

 そのレーブ率いるドイツ代表を、6月2日の親善試合で32年ぶりに破ったオーストリア代表だが、残念ながら今回のW杯には出場しない。インスブルックの街を歩いていても、間もなく始まるW杯を想起させるような映像や印刷物を見かけることはなかった。加えて対戦相手のパラグアイもまた、今回の南米予選は7位に終わり、前回のブラジル大会に続いて本大会への道を断たれている。W杯への関心が薄い第三国で、火曜日の15時05分に開催される対パラグアイ戦。3月のベルギー遠征のように、空席が多いことが予想されるこの試合で、日本は何を追求すべきなのか。西野朗監督は、前日会見でこう述べている。

「あらかじめ伝えているとおり、(これまで)起用の少なかった選手を明日使いたい。スタートメンバーやシステムを固定しているわけでなく、この(ガーナ、スイス、パラグアイとの)3試合でシステムをトライし、キャスティングもトライしながら、明日のゲームに入っていきたい。新しい可能性を高いレベル(の試合の中)で求めたいです」

 西野体制になって、いまだに出番がない選手は5名。内訳はGKが2名(東口順昭、中村航輔)、DFが3名(昌子源、遠藤航、植田直通)である。ナショナルチームの場合、ディフェンスの選手が入れ替わることは少ない(W杯直前ならなおさらだ)。しかし指揮官は、この機会に全員にチャンスを与えることを第一に考えている。コアとなるメンバーやシステム、そして戦術を固定して精度を上げるのではなく、本大会前の3試合を使って可能な限りトライしていく。つまり1週間後のコロンビア戦が始まるまで、われわれは(そして対戦相手も)どんな日本代表を目撃できるのか、現時点ではまるで予想できないのである。

 チャンスが与えられそうな選手のコメントは、以下の通り。「出番があるとしたらサイドバックでしょうね」と語る遠藤は、「戦術を気にしすぎても仕方がない。ある意味、考えすぎずに自分の良さを出してチームとして戦えればいいのかなと思います」。植田は「(1対1の)局面に対して、もっと自分が止めてやると思うことひとつで変わってくる。そういったものが大事だと僕は思います」。そして東口は「この前と違うメンバーが出るとしたら、しっかり勝つことでチームの底上げにはなると思うし、流れが変わるきっかけになると思う。すごく大事な試合になると思います」。

 スターティングイレブンの入れ替えは、ここまでの嫌な流れを刷新するという意味でも、効果が期待できるかもしれない。ここで思い出されるのが、8年前の南アフリカ大会直前。くしくも同じオーストリアのグラーツで、岡田武史監督率いる日本代表がイングランド代表と対戦した際、メンバーとシステムを刷新して本大会で戦う基盤ができた(長谷部誠がキャプテンマークを巻き、川島永嗣が守護神となったのもこの試合からだ)。もしもパラグアイ戦のメンバーが結果を出したなら、これを基にコロンビア戦の陣容を固めてブラッシュアップしていくのだろうか。そうした可能性も見据えながら、本番前の最後のトライを見守りたい。
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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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