黄金世代擁するベルギーは早くも臨戦態勢 W杯に向け絶好調のエース、不安は守備か

中田徹

代表チームでのデ・ブライネは「仕事過多」!?

ゴールから遠いところでのプレーが多いデ・ブライネ。代表チームでは仕事過多の状況に陥っている 【写真:ロイター/アフロ】

 エジプト戦後の記者会見では、ベルギー人記者が「今日のデ・ブライネは、ラストパスの精度に苦しんでいたが」という質問をした。あまり選手のことを公に否定することのないマルティネス監督は「いや、今日のデ・ブライネは素晴らしかったよ」と答え、別のベルギー人記者が「それじゃあ、今日のベルギー代表は全員が素晴らしかったことになる」と(比喩ではなく本当に)ため息をついていた。

 デ・ブライネは多機能プレーヤーとして知られている。ゴール、アシストという決定的な仕事のみならず、ゴールの2つ、3つ手前のパスを出し、守備での汚れ仕事もし、ボックス・トゥ・ボックスの運動量もある。だからこそ、マルティネス監督はデ・ブライネを中盤の引き気味のポジションに置き、そこから攻守をつなぐプレーを要求している。その結果、どうしてもゴールから遠いところでのプレーが多くなり、マンチェスター・シティで見せているほどの決定的なプレーが出せなくなっている。

 代表チームでのデ・ブライネは明らかに仕事過多だ。幸い、G組のベルギーは初戦まで時間はあるから、デ・ブライネの仕事をよりシンプルに整理しておきたい。

 今回のベルギー代表は「黄金世代」が2014年W杯ブラジル大会、16年欧州選手権(ユーロ)で経験を積んだこともあって優勝を期待されているが、一方では「ベスト8止まりだろう」という意見も多い。イングランドとともに、ベルギーのグループリーグ突破はまず固い。決勝トーナメント1回戦はH組のチームが相手だから勝てるはず(とベルギー人は楽観的に見ているが、私はそうは思わない)。しかし、準々決勝の相手はブラジル(E組)、ドイツ(F組)になる公算大とあって「ここで負ける」と悲観的かつ現実的に見ているベルギー人はかなりいるのだ。

ベスト8止まりか優勝か。地元記者の予想は半々

マルティネス監督は「世界一になることをトライするために、ロシアに行く」と控えめにW杯への思いを口にする 【写真:ロイター/アフロ】

 エジプト戦後、夜遅くまで記者室に残って談笑している記者4人に今回のW杯のベルギーを占ってもらったところ「私は優勝すると思う」と答えたのが2人、「いや、ベスト8で負ける」と答えたのが2人と、見事に半々に分かれた。

「準々決勝で負ける」と答えた記者は予想の理由をこう教えてくれた。

「ベルギーより強い国が4つあるから、準々決勝で負けるだろう。優勝するには相手チームが腹を壊すのを期待するしかない。相手(になる可能性が高いブラジル、ドイツ)が強いんだから、ベルギーがベスト8で散っても仕方のないこと。ウェールズに負けてしまった(16年の)ユーロとはぜんぜん違う。あのときは悪夢だった」

 ロベルト・マルティネス監督や選手たちが狙うのは当然、W杯の戴冠だ。少しニュアンスを柔らかめに、マルティネス監督はこう宣言する。

「W杯には32カ国が参加し、そのうち1カ国が優勝できる。ベルギーは参加しているから、オランダ、イタリアと違ってそのチャンスはある。われわれは世界一になるためにロシアに行くのではない。世界一になることをトライするために、ロシアに行くのだ」 

 今回のメンバーの中にはユーリ・ティーレマンス、レアンデル・デンドンケルという若手2人が入ったことにも注目したい。W杯前にマルティネス監督との契約を2年延長したベルギーサッカー協会への批判もあるが、この結果、20年に行われるユーロも見越した「未来枠」が実現したのである。

 ティーレマンスは中盤の全ポジション、デンドンケルはCBとMFをこなせる多機能プレーヤーであり、チームのハプニングに対応する能力と賢さを備えた選手だ。この2人には、目先の勝ち負け以上の何かが残るだろう。

2/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント