スイスに完敗、見えない日本代表の完成形 W杯本番まで忍耐の日々は続く

宇都宮徹壱

終わってみればスイスがあっさり快勝

2−0というスコア以上の実力差を見せつけられ、日本はスイスに完敗した 【写真:ロイター/アフロ】

 序盤、日本が警戒しなければならなかったのが、リヒトシュタイナーとシャキリが並ぶ相手の右サイドであった。これに対して日本は、対面する長友だけでなく、前線からの積極的なディフェンスで対応。トップ下の本田も、相手のパスコースを限定させようと精力的な動きを見せていた。前半6分には、日本に最初のチャンスが訪れる。長友が中央に切れ込んで供給したクロスは、大迫の頭上をかすめてこぼれたところを原口がシュート。弾道は惜しくもGK正面となったが、入り方としては悪くない。

 しかし38分、日本に突然のアクシデント。大迫が腰を押さえて、突然ピッチ上に座り込んでしまう。結局、スタッフに抱えられるようにしてピッチを離れ、代わって武藤嘉紀がピッチに送り込まれた。試合が動いたのは、その3分後のこと。左サイドに張っていたブリール・エンボロにボールが入り、相対する酒井高が一瞬でかわされてしまう。ドリブルで加速しながら、ペナルティーエリアに侵入するエンボロ。これに対し、吉田が身体を張って止めに入るが、不用意に倒してPKを献上してしまう。これをリカルド・ロドリゲスに決められ、スイスが先制(記録は42分)。前半はスイスの1点リードで終了する。

 後半の日本ベンチは、システムをそのままに選手を入れ替えながら、何とか勝機を見いだすことに腐心する。後半11分、宇佐美と酒井高を下げて乾貴士と酒井宏樹を投入。後半25分には大島OUT/柴崎岳IN、さらに31分には本田OUT/香川真司IN。確かに酒井宏が入った最終ラインは落ち着きを取り戻したし、乾のドリブルが加わることで攻撃にも多少のバリエーションが付加された。しかし、前線でのパス交換で呼吸が合わないシーンが続出。西野監督は「ボールを奪ってからの連動性」をこのチームのテーマに掲げているが、W杯で通用するだけの完成度を得るには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 そうこうするうちに後半37分、ここまで固い守りを見せていたスイスが底力を見せる。後方からのロングボールをシャキリが左サイドで受けて、ブレリム・ジェマイリとのワンツーを挟んでクロスを供給。これをフランソワ・ムバンジェがヘッドで折り返し、最後はハリス・セフェロビッチがボレーで日本ゴールを揺さぶる。シャキリ以外、いずれも途中出場の選手が関与してのゴールに、ペトコビッチ監督も大喜び。結局、2−0というスコア以上の実力差を見せて、地元のスイスが日本にあっさり快勝した。

「決定力不足」ではなく「決定機不足」では?

西野監督がイメージするチームの完成形はまだ見えない 【写真:ロイター/アフロ】

 正直なところ、スイスに敗れたこと自体については衝撃を受けていない。相手は普通に強かったし、本大会に向けてチームの完成度も非常に高かったからだ。対する日本は、地力で劣っていることに加えて、新チームになってこれが2試合目。チームとしての完成度はおろか、いまだに課題の洗い出しをしている段階だ。そんな状況でスイスに勝ってしまったら、それこそ「奇跡」である(そうした「奇跡」は本大会までとっておいてほしい)。ここで考えるべきは、勝ち負けでなくチャレンジの検証であろう。

 まず、3バックから4バックに戻したことについて。少なくとも守備面では、ガーナ戦と比べてはるかに安定した。3バックの中央で起用されていた長谷部も、やはり本職の守備的MFのほうが生きるし、大島とのコンビも悪くなかった。一方、本田のトップ下については、いささか微妙。西野監督は「ディフェンスに入る意識、連動していこうとする意欲、守から攻に切り替わるところのつなぎ」で評価していたが、決定的な仕事がほとんど見られなかったのも事実だ。それにしても4年前のブラジル大会で、ものの見事に粉砕されたシステムが、なぜこのタイミングで復活したのだろうか。

 もうひとつ理解に苦しんだのが、西野監督が課題として「決定力」を挙げていたこと。いわく「ガーナ戦に続いて決定力(の問題)になるんですが、そこまでの流れについては、決してアプローチは悪くなかったと思います」。とはいえ、これまで日本代表が問題になっていた「決定力(不足)」とは、たとえばアジア予選のようにポゼッションでもシュート数でも、相手を圧倒することが前提であった。しかし今回は、決定的なチャンスをほとんど作れず、しかも5本の枠内シュートはいずれもGK正面。これを「決定力」の問題とした西野監督の総括に、違和感を覚えたのは私だけではないと思う。

 いずれにせよ、西野体制になってからの2試合は連敗に終わり、依然としてノーゴールが続いている。本番までに残すは12日のパラグアイ戦のみ。試合後のミックスゾーンで本田は「10試合あっても1試合でも一緒かなとも思います。(中略)もうあと1試合しかないですけれど、前向きに捉えています」と語っていた。一方、指揮官は次のパラグアイ戦について、「いろいろな可能性を求めて」これまで控えに回っていた選手たちを起用することを示唆している。システムもメンバーもあえて固定せず、コロンビア戦に臨む戦い方をギリギリまで模索するというのは、いかにもこの人らしい慎重な判断ではある。

 JFA(日本サッカー協会)の田嶋幸三会長は、この試合を中継したNHKに出演した際に「西野監督がやりたいサッカーが見えてきた」と語っていたという。申し訳ないが、私には指揮官がイメージするチームの完成形が、最後までよく分からなかった。次のパラグアイ戦も、われわれは勝敗を度外視で見守る必要がありそうだ。忍耐の日々は続く。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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