ガーナ戦の日本は「組織を感じなかった」 戸田和幸がスイス戦で期待すること

スポーツナビ

気になったのはシャドーのポジショニング

ガーナ戦、本田圭佑のプレーエリア 【データ提供:データスタジアム】

――チームとして連動性や意図を感じたプレーはありましたか?

 単発では見られましたが、それが意図していたものかどうかは何とも言えないですね。この試合ではシャドーのポジションにも注目していたんですけど、大迫に対して宇佐美貴史と本田という組み合わせが果たして効果的なのかという疑問を持ちました。

 ポストプレーヤーに対してのシャドーという「ユニット」として考えると、決して相性はよくないと思いますし、本田・宇佐美共に大迫を越えて飛び出す動きはなく、ボールを受けに中盤まで下がっていく動きが多かったことも、ビルドアップ・アタッキングサードでの攻撃共にうまくいかなかった原因だと思います。

 基本的に前3人の距離は遠く、動きが連動する場面もありませんでした。前半はとにかくボールを保持する方向に傾いた感があります。たとえば長友が敵陣サイドでボールを持っても、宇佐美・本田共にゴールから離れてボールを受けにいき、結果的にボックス内へと侵入していくチャンスを逃してロストしてしまう。そういう場面が見られました。

ガーナ戦、宇佐美貴史のプレーエリア 【データ提供:データスタジアム】

 右シャドーの位置にいたはずの本田は左サイドで12%も受けている。シャドーの選手にある程度の動きの幅があるのは良いことですが、それはあくまでもゴールに向かっていくという前提がなくてはなりません。

 ゴールを目指す前提でのポゼッションであり、そのためのポジショニングが必要です。宇佐美の方がバランスは良かったと思いますが、ハーフウェーラインの手前で11%のエリアが2つもある。ということは、やはり下がって受ける傾向は強いということ。シャドーの選手は自分が受けることだけではなく、もう1列下の選手、この試合では大島と山口蛍になりますが、彼らへのプレスを止めるという意味でもライン間、相手の中盤の後ろにポジションを取ってもらいつつ、常に大迫との連係を頭に描きながら準備をしてもらいたいですね。

ガーナ戦、香川真司のプレーエリア 【データ提供:データスタジアム】

――シャドーの位置には後半から香川と岡崎慎司が入りました。

 香川が入ってからはスタートポジションをライン間、ハーフスペースにしっかり取るようになったので、長友から効果的なボールがいくつも入るようになりましたね。相手のアンカー(ジェセフラーウェー・アッタマー)の両脇にあるスペースをうまく使ってアタッキングサードまでスムースにボールを運ぶことができるようになりました。データを見ても13%、8%と相手ゴール前の高い位置でもプレーできています。岡崎も2トップでの起用だったとは思いますが、武藤嘉紀に対して角度をつけることを意識しながら、右シャドーの位置でプレーしパスルートを作っていました。

 守備については、ビハインドの展開だったことも背景にはあったと思いますが、香川がスイッチを入れるチェイシングを行っていましたね。あの動きは彼がドルトムントでずっとやってきていることで、スプリントに近いスピードで相手のアンカーへのパスコースを消しながら出ていき、それに後ろの選手が連動して奪いにいくシーンがありました。

――香川がクラブでやっていることをやっただけで、チームとしての決まりはなかった?

 何とも言えないですね。宇佐美と本田は香川のような動きは見せませんでしたが、後半から戦術変更があったのかもしれません。ただ、W杯を戦う上で、それがハイプレスであろうがブロックであろうが、いわゆる「強度」は絶対に必要になります。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は、守備でのタスクをできるだけ簡単に、そして明確にするために「マンマーク」を取り入れたのだと思います。西野監督はどのように守備を構築するのか。どのエリアでボールを奪いにいくのかは監督、もしくは状況で変わるとはいえ、ガーナ戦でははっきりとしたものは見ることができませんでした。絶対に必要なことは「奪う」という気概と「強度」です。

大島も柴崎も守備の意識をしっかりと持っている

戸田さんは大島(右)と柴崎の守備面も評価した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――ボランチは後半途中から山口に代わって柴崎岳が入りました。柴崎はもともと大島に代える予定だったのが、山口との交代になりました。

 大島のパフォーマンスレベルを考えると、代える必要がなかったというか代えたくなかったのでしょう。彼は判断が伴った上でプレースピードが早い。ポジショニングについてはまだまだ改善の余地はありますが、近くまで敵が来ても怖がらずに前へ運んでいく技術がある。前半から良い出来でしたが、柴崎が入ってからは、さらにやりやすくなったように見えました。以前から期待されてきた選手でしたが、ここにきてボランチは「(軸は大島で)決まったな」と。

 中盤2人の組み合わせについては、1人が守備的、もう1人が攻撃的である必要は実はないんです。すべてはプレーモデル次第で、チームとしてどういうサッカーがしたいのかが重要となり全てを決めます。

 大島は所属クラブにおいても、役割として与えられているメーンの仕事がプレーメークなので、守備のことはあまり触れられませんが、意識はしっかりと持っていますし、体も強く、また強度も出せます。これについては柴崎も同様です。ヘタフェでは主に1つ前で起用されてきましたが、それはあくまでもリーガ・エスパニョーラの今季8位のチームでの話です。

 サッカーにおいてはボールを失わなければイコール守備をしていることになります。香川のポジショニングとオフザボールの動き、それから柴崎が入ったことで効果的なボール保持からの攻撃は確実に増えました。ゴールを目指す武藤の動きもうまくリンクしましたし、後半のほうがよくなったのは間違いありません。

チームとしてベースを持っておいた方がいい

オーストリアで合宿を行った日本は、ガーナ戦の課題をスイス戦で改善できるか 【写真:ロイター/アフロ】

――次のスイス戦に向けて期待することは?

 ガーナ戦をトータルで振り返ると、このシステムを採用する理由、意図する部分は分かりにくかったです。もし仮に具体的な狙いがなかったとなると、当然、各選手に要求することもぼやけます。

 合宿が始まった当初から、監督と選手が積極的にコミュニケーションをとり、選手同士でもたくさん話をしているようですので、それ自体は非常にポジティブではありますが、ここで気になるのは「いろいろなことをやりたい」という話が出ているということ。W杯で結果を残すためには、まずしっかりとした1つ目を持つことだと思います。いろいろなことを用意することができる段階ではないですし、1つ目から派生して2つ目、可能であれば3つ目までいきたいところです。

 そういう意味では、しっかりとした1つ目も構築し切れずに臨んだのがガーナ戦ではないでしょうか。特に2シャドーのポジショニングと役割、数的優位な場面でのウイングバックのポジショニングを見ていると、チームとしての戦い方に曖昧さを感じました。

――柔軟にシステムを使い分けることを目指すよりは1つ目のシステムをしっかりと固める方が優先ということですね。

 4バックとしてのベースと、3バックとしてのベースをそれぞれ持っておいた方がいいと思います。また、「ハイプレス」「ブロック」「リトリート」というそれぞれの局面での振る舞い方もしっかり持っておくこと、それからショートカウンターをメーンとしたゴールを目指すイメージの共有も、時間は限られますが図りたいところです。

――そういった決まりはまだ作れるものでしょうか?

 簡単ではありませんが、不可能だとも思いません。もちろん何年にもわたって継続してチーム作りを行ってきたところと比較すれば、非常に難しく苦しいのが実際のところです。だからこそ、常日ごろから世界のサッカーのトレンド、方法論、トレーニングについて研究を重ねてきているはずの監督をはじめとするコーチングスタッフによって導き出されるプレーモデル、進むべき方向性をしっかりと示すことが本当に重要となります。

 少なくとも「3−4−3」を採用する、そして最終ラインに長谷部を起用する明確な理由と意図は示す必要がありました。国内合宿の10日間で長谷部を置く布陣を採用するのであれば、もっと具体的なものを用意していると思っていましたので、ガーナ戦を見る限り、確かに不安は募ります。

 しっかりとしたベースを作った上でも「それでもうまくいかない場面」が出てくるのがサッカーです。相手の並びが違う、どうしても止められない選手がいるといった、実際に試合が始まってみないと出て来ない要素があります。ガーナ戦では残念ながらまず1つ目のしっかりとした組織を見ることはできませんでした。次のスイス戦では改善され、チームとしてより具体的なものを見せてくれることを期待しています。

※敬称略。本スタッツデータは公式とは異なる場合があります。

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