西野ジャパンのベースは「臨機応変」  紅白戦で見えた5つ目のオプション

飯尾篤史

香川が思い返す、4年前のドログバの姿

4年前のブラジル大会。ドログバが交代出場した後のコートジボワールは、雰囲気が一変。日本は逆転負けを喫した 【写真は共同】

 そこで思い出したのが、香川が前日の練習後に発したコメントである。チームの平均年齢が高いことについて聞かれた香川は、こう答えていた。

「4年前の(ディディエ・)ドログバじゃないですけど、そういう選手が入ってきて彼ら(コートジボワール)は生き返った。そういう経験をしたので、実績のある選手、経験のある選手は重要になってくるんじゃないかと思います」

 香川が語ったのは、言うまでもなく4年前のワールドカップ・ブラジル大会初戦の悪夢のことである。1点をリードして後半を迎えたが、相手のエースが途中出場でピッチに登場した瞬間にスタジアムの雰囲気が一変。その雰囲気にのまれた日本は立て続けに2ゴールを許し、逆転負けを喫した。

 いかに経験豊富なベテランの存在が重要か――。その例として香川はドログバを挙げたわけだが、5月21日から始まった国内キャンプからここまで、一貫してサブ組でのプレーが続くだけに、チーム内における自身の立ち位置も見えているに違いない。それゆえ、途中出場でスタジアムの雰囲気を一変させるほどの存在感を放ったドログバに、自身を重ねているのかもしれない。

付け焼刃のシステム変更がW杯で通用するのか

「試合の状況に応じていろいろな形でやれるのが、一番の強みになる」と川島は語るが…… 【写真は共同】

 話を紅白戦に戻せば、興味深かったのは2本目の「ビブス着用組」である。2トップは大迫と岡崎慎司。トップ下には香川。右に本田、左に宇佐美、アンカーに大島が入る4−4−2の中盤ダイヤモンド型が初めて採用されたのだ。これは、ガーナ戦で試された3−4−2−1、3−4−1−2、4−4−2、この日に採用された4−2−3−1に続く5つ目のオプションということになる。

 実際、西野監督がかつてガンバ大阪を率いていたときも、4バックと3バックを使い分け、選手の起用ポジションもさまざまだった。ボランチの遠藤保仁をトップ下やサイドハーフで起用しただけでなく、FWとしてピッチに送り出したことさえあった。

 川崎フロンターレと対戦した2007年のナビスコカップ決勝では4−4−2でスタートしたが、試合途中で右SBの加地亮を右ストッパーに、左SBの安田理大を左ウイングバックに、右ボランチの橋本英郎を右ウイングバックに移して3−5−2にシフトチェンジ。これで攻勢に出たガンバ大阪は安田が決勝ゴールを決めて、西野体制2つ目のタイトルを手に入れている。

「試合の状況に応じていろいろな形でやれるのが、一番の強みになってくると思います」

 そう語るのは、川島である。相手や戦況に応じて形を変えて戦っていく――これが、W杯における西野ジャパンのベースになるのは確かだろう。

 だが、果たして付け焼き刃のシステム変更がW杯の舞台で通用するのかどうか……。むしろ、共感できたのは、柴崎岳が発したこの言葉のほうだ。

「チームとしてのベースをもっと固めないといけないかなと思います。どっちをやるにせよ、フォーメーションではない部分が大事になってくると思う」

 システムを破綻なく機能させる方ばかりに意識が傾いているようだと、簡単に足をすくわれかねない。ゼーフェルトキャンプは始まったばかりだが、W杯の開幕は刻一刻と近づいている。まずは現地時間8日に行われるスイスとの親善試合までにチーム作りをどこまで進められるか、注目したい。

2/2ページ

著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント