錦織圭が悔やむ第4セットでのミス 優勝候補との一戦を機に「もっと上へ」
「何もうまくいかない状態」だった序盤戦
錦織圭(右)はティエムに屈し、4回戦敗退に終わった 【写真:ロイター/アフロ】
彼がこれまで全仏オープンのセンターコートでプレーしたのは、いずれもラファエル・ナダル(スペイン)が相手の時だ。だが今年の4回戦の錦織戦は、自らの実績と知名度で立った舞台。その地位に自分がふさわしいことを証明しようとするかのように、彼は試合立ち上がりから、右腕を振り抜きスピンの掛かった重いボールを錦織のコートへと打ち込んだ。
相手が前に出てくれば、鋭くパッシングショットをたたき込む。第3ゲームをブレークすると、そのまま主導権を掌握。「圭は踏み込み、早いタイミングでボールを捕らえるのがうまい。僕はクレーの特性を生かし、彼を押し込みたい」と試合前に語っていたティエムが、第1セットを6−2で奪った。
「彼も良かったは良かったですが、自分のミスがほとんどだった。ボールも浅くなったり、基本的に何もできていなかった」
試合後の錦織は、この序盤戦の劣勢を悔いた。
「足が動いていなかった。彼の高く重いボールに、雑な入り方をしていたので……」
焦り、そして「彼の高いボールに付き合いたくない」との思いがあったことも、錦織は認めている。今大会、錦織がここまで対戦してきた3選手はいずれも、回転の少ないボールを打つタイプ。それだけに、久々に相対する高く弾む重いボールに、錦織の身体は戸惑いを覚えたかもしれない。またこの日のティエムはサーブが絶好調で、第2セットでは92%の高確率でファーストサーブを入れ、100%のファーストサーブ獲得率をたたき出す。
「何もうまくいかない状態」だった錦織は、1つのゲームも奪うことなく第2セットも失った。
第3セットを奪い返したが……
2セットを連取された錦織だが、第3セットでは反撃ののろしを上げ、ティエムに食い下がった 【写真:アフロ】
「もう少しじっくりプレーする。彼の重いボールをなるべく下がって打ち、無駄なミスを減らす」
それらを心掛け入った第3セットでは、ネットプレーやドロップショットなど、プレーのバリエーションも増やしていった。さらには第3ゲームでバックのウィナーを決めた時は、自ら闘志をかき立てるように、この日最初のガッツポーズを振り上げる。プレーの精度と気力を引き上げる錦織に重圧を覚えたか、ティエムはセット終盤の第12ゲームで、4本のミスを連ね落とした。試合開始から約1時間50分……錦織が反撃の狼煙(のろし)を上げるかのように、第3セットを奪い返した。
第4セットも、前のセットから引き続き、張り詰めた空気がセンターコートを覆う。錦織は自身の3つのサービスゲームで、失ったポイントはわずかに1。対するティエムも、ダブルフォルトを除けば1つしかポイントを落とさず、3つのサービスゲームをキープした。
そして迎えた、第7ゲーム――。最初のポイントで錦織が放ったバックのショットは、意志なくラインを割っていった。テニスの試合では、力の拮抗(きっこう)した者同士が集中力を研ぎ澄まし長時間戦った時、ふと気が緩む時間帯が必ずある。この錦織のミスショットは、そのような時に起こる類のものだった。その後もミスを重ねる錦織を見て、ティエムもここを勝機と見ただろう。リターンウィナーでブレークされたこのゲームが、試合を決することとなった。
勝敗を分けた実戦経験の少なさ
復帰後初のグランドスラムは4回戦で幕を閉じた。しかし、この敗戦は錦織が目指す「もっと上」への足がかりとなる 【写真:ロイター/アフロ】
「チャンスがあった分、どうしても5セット目に持っていきたかった……」。深い後悔の背景には、勝利の可能性への手触りがあった。
ケガからの復帰後、最初のグランドスラムを終えた錦織は、勝負勘においては「そこの心配は、ほぼない」と言う。ただ「今日みたいに気持ちがアップダウンする面も少しまだある。そこを無くせば、もっと上に行けるのかな」とも続けた。
今回の試合では、まだ本格的なツアー復帰から日が浅いため、種々のスタイルを持つトッププレーヤーとの実戦経験が少なかったことが、勝敗を分けた一つの要因だと言えるだろう。だからこそ、優勝候補の一角にも数えられるティエムと戦った4セットは、彼が目指す「もっと上」への足がかりとなる。
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