無風で終わったW杯前の「国民的行事」 日本代表23名のリストから感じる不安

宇都宮徹壱

さまざまなサプライズやドラマがあった「国民的行事」

「国民的行事」となったメンバー発表では、さまざまなサプライズやドラマがあった 【写真は共同】

 ワールドカップ(W杯)メンバー発表が4年に一度の「国民的行事」となったのは、2002年の日韓大会が起点となっている。その4年前、1998年のフランス大会では、25名のメンバー候補がスイスで合宿を行い、現地での囲み取材で岡田武史監督(当時)が「外れるのはカズ、三浦カズ」と発表している(ちなみにこの大会の登録メンバーは22名だったので、三浦知良、北澤豪、そして市川大祐が選外となった)。

 都内のホテルでの会見形式が定着したのが02年だったが、当時のフィリップ・トルシエ監督は海外視察のため不在。代わってメンバーリストを読み上げたのは、日本選手団団長の木之本興三氏(故人)であった。「国民的関心事」となっていた中村俊輔の落選について、記者から質問攻めにあった木之本氏が「私が決めたわけではないので」と困惑気味の表情を浮かべていたことは、今でもよく覚えている。

 JFA(日本サッカー協会)会長同席のもと、代表監督がメンバーを読み上げる形式となったのは06年のドイツ大会から(登壇したのはジーコ監督と川淵三郎会長=いずれも当時)。現在は、これに技術委員長も加わった3名による会見が定着している。この間、巻誠一郎の選出(06年)、川口能活の4大会連続メンバー入り(10年)、代表から遠ざかっていた大久保嘉人の復帰(14年)と、さまざまなサプライズやドラマがあった。そして回を重ねる中で、メンバー発表は「国民的行事」としての地位を確立してゆく。

 私自身、W杯のメンバー発表取材は02年から続けていて、今回が5回目。毎回、選手やファンとは違った意味での緊張感を覚えながら、取材会場へと向かう。W杯のメンバー23名の選定は、単に当落だけの話にとどまらない。選ぶ側にとってはさまざまなリスクを吟味した上での究極の選択だろうし、選ばれる側も単にW杯への切望だけでなく、今後のキャリアが大きく左右される。チームにとっても個人にとっても、まさに「運命の岐路」。ゆえにメディアも、この「国民的行事」にこぞって注目するのである。

 さて、5月31日に行われた今回のメンバー発表会見は、サプライズやドラマとは無縁の無風状態のままに終わった。すでに18日の時点で、メンバー候補27名が発表されていたことも大きかっただろう。この時「サプライズ扱い」とされた青山敏弘は、直後にけがのため離脱。これに浅野拓磨(ガーナ戦での背番号25)、三竿健斗(同26)、井手口陽介(同27)が外れることとなった。彼らの背番号を見れば、実は最初から序列が決まっていたのかもしれない。その意味でも、サプライズなきメンバー発表であった。

気になる年齢層の高さとコンディションの考え方

長谷部や本田、岡崎などは8年前の南アフリカ大会から3大会連続出場となっている 【写真:ロイター/アフロ】

 西野朗監督が「この選考に携われることをうれしく思っていますし、自信を持って23名をリストに挙げたいと思います」と語ったメンバーは、熟慮の末の結論であったはず。その点はまず尊重すべきであろう。また、選ばれた個々の選手についても、これまでの実績や技量を鑑みれば、W杯のピッチにふさわしくない選手は誰一人としていない。その点もきちんと踏まえた上で、今回の23名を俯瞰してみることにしたい。

 まず気になるのが、(すでに多くの指摘がなされているが)年齢の高さである。キャプテンの長谷部誠や本田圭佑、岡崎慎司など、8年前の南アフリカから3大会連続出場となるのが5名(サポートメンバーだった香川真司、酒井高徳を含めると7名)。一方、初出場となったのは12名だが、その中で最年少は中村航輔の23歳、最年長の東口順昭は32歳にして初のW杯である。23名の平均年齢は28.2歳。歴代W杯メンバーで最も高い(28歳を超えたのは今回が初めて)。ベテラン偏重の批判は免れないだろう。

 できることなら戦術的な意図とは別に、将来を見据えて東京五輪世代も1、2名は加えて良かったようにも思う。だが年齢以上にバランスの悪さを感じるのが、代表キャップ数に格差があることだ。23名のキャップ数の平均は43.6。このうち80以上のキャップ数を誇るベテランが7名いる一方、キャップ数が20以下の選手も7名いる(このうち1桁キャップは4名)。平均年齢が高いわりには、代表での経験が不足している選手が少なくないのである。このところ存在感を高めつつある大島僚太も、先日のガーナ戦でようやく4。けがに苦しんだ時期があったとはいえ、25歳という年齢を考えると寂しい数字だ。

 もうひとつ気になったのが、コンディションの考え方。今回、選から漏れた3名のうち、井手口と浅野に関して西野監督は「(足りなかったのは)ゲーム勘だけ」としながらも、「ここから2週間でトップフォームにもってこられるか、確証が持てませんでした」としている。一方、合宿ではずっと別メニューでガーナ戦にも出場しなかった乾貴士については「彼のああいうスタイルは代表チームには少ないので」(西野監督)と言及、今後の回復を確信した上で選出したとしている。

「ああいうスタイル」というのは、もちろんドリブラーとしての際立った面を言っていると思われる。そういった特殊技能を評価したという点では、ある程度は納得できる判断だったと言える。とはいえ、ゲーム勘やコンディションが戻っていないのは、香川や岡崎についても同様。そこはやはり、指揮官の「実績重視」の考えが背景にあったのだろう。しかし同時に、ベテランを脅かすような若手が現れなかったことも、キャップ数の格差を見れば明らかである。ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督は、若手を積極的に起用してきたが、今回のメンバーを見る限り世代交代の停滞感は否めない。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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