西野監督に課せられた「無理筋」のプラン ガーナ戦の敗北で見えたのは厳しい現実

宇都宮徹壱

壮行試合にして初陣となったガーナ戦

ガーナ戦は壮行試合であると同時に、西野新体制の初陣でもあった 【写真:つのだよしお/アフロ】

 5月30日、横浜の日産スタジアムで行われた日本代表の壮行試合は、あいにくの雨模様となった。昨年12月16日のEAFF E-1サッカー選手権の韓国戦以来となる、国内での代表戦。ただしE−1は国内組のみの大会だったので、欧州組が参加する代表戦となると10月10日のハイチ戦以来ということになる(この時も会場は横浜だった)。この日の前売りチケットはソールドアウト。公式入場者数は6万4520人と発表された。代表戦でこれほどスタンドが埋まるのは、それこそワールドカップ(W杯)出場を決めた8月31日(オーストラリア戦)以来のことである。

 今回、惜しくも4大会連続W杯出場を逃した「ブラックスターズ」ことガーナ代表を迎えての壮行試合。だが、最近の日本代表をめぐる報道からは、W杯開幕直前の高揚感というものがまったく感じられない。ヴァイッド・ハリルホジッチ前監督の突然の解任、技術委員長だった西野朗氏が新監督に就任する不可解な人事、そして「過去の実績」を重視したかのような27名の代表候補メンバー発表、などなど。それでも雨の中、これだけの観客が集まってくるのだから、代表人気は依然として健在であると言えよう。

 あらためて、今回の壮行試合の位置付けについて確認しておきたい。この試合は実のところ、さまざまな意味合いを持っている。まず、この試合は壮行試合でありながら、西野新体制の初陣である、ということだ。事前合宿でのトレーニング内容から、3バックシステムが採用されることや、27名の候補の序列も何となく見えてきた。それでも西野新体制となった日本代表が、どんなサッカーを披露するのか、前体制から何を引き継いで何を捨てるのか、このガーナ戦を見てみるまでは誰にも分からないという状況であった。

 また、23名のW杯メンバー発表前に行われる「見極めの試合」であること、そしてW杯2戦目で対戦するセネガルをイメージした対戦相手であることも重要なポイントだ。だが個人的に気になっていたのが、いわゆる「西野ジャパン」が国内で見られるのは、おそらくこれが最初で最後である、ということ。多くのサッカーファンは、西野監督の実績と経歴をある程度は知っている。だが、その「西野監督が率いる日本代表」というものを、W杯に行くことのないライト層がスタジアムで見るのは、(よほどのことがない限り)このガーナ戦が唯一の機会となる。ゆえにこの試合の結果は、ロシアに挑む日本代表のイメージを決定的なものにするくらい、重い意味を持っているのである。

西野体制の肝となった長谷部の起用方法

ハリル体制時はボランチが定位置だった長谷部。ガーナ戦では3バックの真ん中を担った 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 キックオフ1時間前に発表された、日本代表のスターティングイレブンは以下の通り。GKは川島永嗣。3バックは右から、吉田麻也、長谷部誠、槙野智章。両ワイドは右に原口元気、左に長友佑都。ボランチは山口蛍と大島僚太。インサイドハーフは本田圭佑と宇佐美貴史。そしてワントップには大迫勇也という布陣である。顔ぶれ自体は、さほどの驚きはない。これが現時点で、西野監督が考えるファーストチョイスなのだろう。メンバー交代は6人。前日会見で西野監督は「明日の1試合だけでリストに挙げるということではない」と語っているが、この日のベンチワークで27人の序列がさらに明確になるはずだ。

 この3バックの布陣から見えてくる、新チームの方向性を考えてみたい。まず目を引くのが、代表ではずっとボランチが定位置だった長谷部を、3バックの真ん中に置いたこと。西野体制での一番の肝は、まさにここにあると言ってよい。所属クラブではセンターバックも経験しているので、適性という面では問題ない。ただしこれまでの日本代表は、中盤の底とキャプテンシーを長谷部ひとりに依存してきた歴史がある。そこを度外視してまで、西野監督は背番号17にこのポジションを託している。もうひとつ気になるのが、3バックの真ん中を任せられる人間が、長谷部以外には吉田くらいしか見当たらないこと。となると、西野監督が考える3バックは「長谷部ありき」と考えるのが自然であろう。

 一方、これまで長谷部とボランチのコンビを組んでいた山口は、新たなパートナーに大島を迎えることになる。このコンビは今回が初めて。これまではボール奪取を得意とする山口に対し、長谷部がバランサーとパッサーの役割を果たしてきたが、大島が引き継ぐことを西野監督は期待しているようだ。そしてもうひとつ目新しさが感じられたのが、右のワイドに原口が起用されたこと。従来の4バックであれば、右サイドバックの酒井宏樹が攻守において存在感を示していた。しかしこのシステムでは、より攻撃的な選手がワイドのポジションにチョイスされる傾向がある。そこで指揮官が選んだのが原口であった。

 もっとも西野監督は、本大会は3バックで戦うと決めたわけでもなさそうだ。前日会見でも「3バックの良い感触をそれまでにチームの中で得られればいいし、(6月の直前合宿では)4バックを思い出させる、そういうトレーングもあると思います」と語っている。つまり、3バックはオプションのひとつでしかなく、状況に応じては4バックにシステム変更することもあり得るということだ。本番前のテストが限られていることを考えれば、この試合の中で3バックから4バックのシステム変更が試されるだろう。そのタイミングと4バックの陣容にも注目したい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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