原口元気がフォルトゥナで取り戻した感覚 「ここでは信頼してもらっている」

島崎英純

ブンデス1部昇格を果たしたフォルトゥナ。原口は「ホッとした」と胸をなで下ろした 【写真:アフロ】

 血気盛んだった若者は、辛苦のときを経て思慮深い青年へと成長した。原口元気が自らを客観視できるようになったのは、歴戦の中で挫折と悔恨を繰り返し、もう一度立ち上がって見果てぬ夢を目指そうと心に決めたからだ。埼玉からヨーロッパへ勇猛果敢に駆け抜けた日々を過ぎ、今の彼は明確に直近の目標を見据えている。この世界で生きる存在意義を見いだした今、彼は己のサッカー人生最大の勝負に打って出る。柔和な笑みを浮かべるその表情の裏で、燃え上がる魂を備えながら。(取材日:5月2日)

昇格は絶対に成し遂げなきゃいけないと思っていた

原口は「ここでは久しぶりに信頼してもらってサッカーができている」とフォルトゥナでの日々を振り返った 【写真:アフロ】

――フォルトゥナ・デュッセルドルフのブンデスリーガ1部昇格が決まりました。今の気持ちは?

 ここに来るときに、(フリートヘルム・)フンケル監督と話した中で、「1部に上がる手助けをしてほしい」と言われました。10試合と少しですけれど、チームのために、昇格のためにやれたというのは、すごく良い経験になりました。正直、ホッとした部分もあります。ここに来た以上は、昇格は絶対に成し遂げなければいけないと思っていたので。

――原口選手が加入した時点で、デュッセルドルフは2部の首位に立っていました。そのときから1部に上がれるポテンシャルを感じていましたか?

 他の2部のチームのことは分からなかったんですけれど、デュッセルドルフは、選手層に関してはそれほど厚いとは思いませんでした。でも、軸となる選手たちは1部でもスタメンを争える能力があると思いました。だから、1部昇格は十分狙えるだろうなと。

――監督からは、どんなオーダーを受けてプレーしていたのでしょうか?

 経験を生かしてほしいと。このチームには1部でプレーした経験のある選手が少ないですから、その部分で自分が引っ張る。また、もちろん攻撃の部分で貢献してくれとは言われましたね。

――ポジションは左、右、そしてトップ下のような位置でもプレーしました。試合ごとに役割が異なっていたのでしょうか?

 いろいろな役割を与えられました。誰か選手が欠けたら、そのポジションに入ったり。攻撃も守備も信頼してもらっているので、ここでは、久しぶりに信頼してもらってサッカーができているなという実感がありました。

ヘルタでは「リスクを負える立場ではなかった」

原口はヘルタとフォルトゥナでの立場の違いを口にした 【写真:アフロ】

――ヘルタ・ベルリン時代とは異なる感覚だったのでしょうか?

 ヘルタでも試合に出場していた時期はあったんですけれど、ここではリーダー的な役割を担えているので、その違いはありますね。1つの駒ではなくて、チームをけん引する存在。その立場でプレーできたので、そこは大きな違いでした。

――責任を負うことで、良い結果を生み出せると実感できたのでしょうか?

 責任を負って、サッカーを楽しめていました。それはとても大きなことだと思いました。

――ヘルタでのプレーは窮屈でしたか?

 窮屈ではなかったのですが、リスクを負える立場ではなかった。でも、デュッセルドルフではどんどんチャレンジしていいと言われて、その立場の違いは大きかったです。

――そのチャレンジ精神は、若いころは攻撃面に特化していましたが、今は守備面にも波及しているように見えます。

 何でもやれることが今の強みになっていますよね。でも、何でもやりすぎてゴール前で集中できないというのが今の悩みでもあります。もっとゴールに集中したいけれど、チームのことを考えるとチャンスメークもしなければならないし、守備もしなければならない。ゴール前のことだけを考えるのは、この立場になるとできないとも思う。今、伸ばさなきゃいけないのはゴール前のクオリティーなんですが、そこは難しいですね。ただ、何でもできるというのは、間違いなく今の僕の強みではある。

――バランスを取れることが強みになったと同時に、新たな悩みにもなったと。

 本当はたくさん点を取りたいし、浦和レッズに在籍していた時代のように攻撃のことだけを考えてプレーしたいとも思います。でも、それは難しいですよね。

攻撃面で足りないのは「シュート」

攻撃面での課題を「シュート」と言い切った原口。「とにかく練習するしかない」と前を向く 【写真:アフロ】

――世間一般での現在の原口選手への評価は、攻撃と同じく、守備でも頑張る選手というものですが……。

 守備を頑張るというか、攻守全般で影響を及ぼしたいと思っています。例えば味方のパスコースを作るために動き出しをして、相手にボールを取られないようにするプレーなども、よく見ている方には評価していただけるんじゃないかなとは思っています。

――攻撃も守備もつながっているという意識でプレーをしているんですね。ただ、その上で数字上の結果も残したいところですよね。デュッセルドルフでは1得点4アシストでした。

 この数字には満足していません。得点、アシストを合わせて10ポイントを目指していましたから。あと5ポイント足りなかった。

――攻撃面で自らに足りない部分は、何か感じているのでしょうか?

 シュートですね。今のチームには(宇佐美)貴史がいますけれど、彼はシュートがうまい。日々、居残りで一緒にシュート練習をするんですけれど、彼のシュートは特別で、自分にはない武器を持っている。それを見ていると、自分にもシュートのレベルを引き上げられる要素があると思いました。彼から盗みたい部分はそこですね。貴史はシュートスピードが速いんですよ。そして、足の振りも僕より速い。シュート精度ももちろん高い。だから相手DFやGKが反応できない。

 一方で、僕のシュートは振りかぶり過ぎている。貴史はドリブルしながらシュートを打てるけれど、僕はボールをポンとどこかへ置いて「1、2、3」で打つ。そこは大きな違いで、貴史のようなタイミングでシュートを打たないと、なかなか得点できないと思いました。デュッセルドルフに来てからはシュートチャンスが増えて、打つ機会も多くなったんですけれど、あと少しのところでGKにセーブされたり、ポストに当たったりしてしまう。

 でも、ゴール前でのプレーというのは一番難しいところですからね。これだけいろいろなことをして、それで数字も付いてきたら、僕はここにいないかもしれない。それができないから、今の立場があるとも思っているんです。ドリブルの技術や守備面での貢献、また90分間走り続ける体力には自信があって、もっとハイレベルなクラブでもプレーできるとは思っています。ですが、数字を挙げる部分が足りない。とにかく練習するしかないですよ。

――ただ、原口選手は日々の練習に関しては他の選手以上に長い時間、また内容の濃いものにトライしていますよね。その中で、どこまで自分を追い込めば一層のレベルアップを図れると考えているのでしょうか。

 貴史とは技術的なことをよく話すんですけれど、例えばシュートに関しては練習でも試合でも打ち込み続けるしかない。今までの自分の蹴り方だけではない、新しい形も取り入れなきゃならない。研究しなきゃいけない部分はたくさんあって、それを追求する余地は今でもまだまだあると思っています。

 その鍛錬の中で、シーズンで1本でもその成果が出れば一歩前へ進める。前線の選手にとってゴールは“良薬”のようなもので、入れば他の部分にも良い影響を及ぼすんです。だから、練習することはまったく苦じゃないですよ。成果があれば手応えを得られる。ヘルタ時代は全体練習後の自主トレーニングをあまりやらせてもらえなかったんですけれど、デュッセルドルフではある程度、自主練が許されています。結構フリーで、好きなように練習できるんです。僕にとっては、それがいい。いつになるか分からないですけども、1本くらい、ペナルティーエリアの外からシュートを決めたいですね。

――確かに、最近は原口選手のミドルシュートが決まったのを見ていません。

 ですよね(笑)。浦和時代はあったんですけれども、ドイツに来てからはないし、代表の試合でもミドルシュートを決めていない。何とか1本、形にしたいですね。デュッセルドルフに来てからは相当シュートを打ち込んでいるので、その成果を示したいと思っています。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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