長岡望悠が1年ぶりのコートで感じたこと 変化を楽しみながら、新しい自分へ
江畑との「エース勝負」で取り戻した感覚
江畑との「エース勝負」で長岡は、試合だからこそ味わえる感覚を取り戻した 【写真:アフロスポーツ】
コンビ練習で1本スパイクを打つだけならば難なくこなせても、ブロックが付いて、レシーブがいて、攻守を瞬時に繰り返す試合の中では咄嗟(とっさ)の判断が遅れることもある。初戦を終えた時点で納得できたのは試合終盤にレフトから放った1本のスパイクだけで、「満足いくプレーは10パーセントもなかった」と振り返った。
だが、それも想定通りのことなのだと長岡は言う。
「嗅覚とか、それは試合の中で研ぎ澄ませていかないと培っていけないもの。前の自分に戻そうという気持ちでやるのではなくて、体も心も新しくなっているので、新しい自分を作っていくイメージで試合をしながら、納得できる1本をひとつでも多く増やしていけたらいいなと思っています」
試合を重ねるごとに、少しずつ感覚が研ぎ澄まされ、試合勘とともに、勝負勘もよみがえる。予選リーグ2戦目のPFUブルーキャッツ戦は、まさにそんな試合となった。
元全日本のエース、江畑幸子を攻撃の中心に据えるPFUに対し、久光製薬も長岡を中心に応戦。セッターの栄絵里香が「今までのように、どんな状況でも『望悠、お願い』と託すのではなく、うまく他に散らしながら。でも勝負どころでは望悠に(トスを)上げたかった」と言うように、ルーキー中川美柚の攻撃もうまく織り交ぜながら、ラリーの最後は長岡に上げる。
江畑、長岡の打ち合いは堂々の「エース勝負」と言えるものであり、長岡も「久しぶりの“戦い”という感じで楽しかった」と振り返る。またひとつ、試合だからこそ味わえる感覚を取り戻した。
そしてそれは、長岡自身のみならず、打ち合いを繰り広げた江畑も同様だ。
「お互いけがをして、同じようにリハビリを経て、こういう試合ができて、すごく楽しかったです。膝のけがはリハビリも大変だっただろうけれど、でも今日見ている限りでは、いいスパイクをバンバン打ってきていたので、もともと持っているものはもちろん、ここまで来るために、さらに努力したんだな、と。試合に出られるのは当たり前のことじゃない。コートに立てる喜びを、私ももっと出していきたいと思いました」(編注:江畑は15年に右アキレス腱の部分断裂を経験)
「世界選手権に一番良い形で臨みたい」
日本代表への復帰も期待される長岡。「世界選手権に一番良い形で臨みたい」と抱負を語った 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】
「今は段階を踏んでいる感じですね。1本ずつ、判断もそうだし、外から見ていた時には『こんなふうにしてみよう』と思っていたけれど、頭と目と体が一致していないから読みが甘かったり。とにかく今は『勘』と『感』をつかみたいし、そのためには少しずつでも試合に出ないと始まらないと思うので、本当にこれから。1本1本を無駄にしたくないです」
けがをしたことは事実であり、感覚もまだ研ぎ澄まされているというレベルではないかもしれない。事実、今はまだ1本のスパイクも、サーブも、1つずつ確認をしながらプレーしている段階。久光製薬の酒井新悟監督も、まだ完全に復帰したというには早計だと話す。
「自分のスキルで勝負できた時が、本当の復帰だと思います。何かを確認しながらプレーするのではなく、あれが良かった、勝負できた。この1本をこのサーブで取ってやろう、というものが何本も何本も出てくるようになった時が、本当の復帰なのではないでしょうか。だから今は、そこに近づいていくために、1つずつやっていけばいい。彼女にとって一番大事なのは、前に戻そうと考えることではなく、今、勝負することですから」
けがをする前と今。同じバレーボール選手であることに変わりはなくても、感覚も、考え方も、意識もすべてが違う。だが、それは決して悲観するものではなく、むしろ喜びであり、新しい自分に誰よりも「ワクワクする」と言うのは長岡自身だ。
「今は今だから、常に自然体でいいかな。微調整をしながらバランスを整えて、(9・10月の)世界選手権に一番良い形で臨みたいし、日本のチームの一員として戦いたいです」
今はまだ一歩ずつ。再びあの場所で、世界と戦う。変化を受け止め、楽しみながら、長岡望悠が新たなスタートを踏み出した。