チームを救った豊川雄太が見据える先 一発屋から「ストライカー」になるために

中田徹

試合直前の練習で負傷も「当たり前」

試合直前の練習で負傷するも、「あそこまでやらなければよかったとは思わない」と豊川は話す 【写真は共同】

 レギュラーシーズンが終わり、オイペンはヨーロッパリーグ出場権につながる「プレーオフ2」を戦っている。4月21日のシント・トロイデン(STVV)戦では、スルーパスが相手DFに引っかかってしまったのを諦めずに追い、最後はGKをかわしてゴール。5月5日のSTVV戦でも、味方からのクロスを巧みに合わせてゴールを決めた。「オイペンを救った一発屋」ではなく「コンスタントにゴールを奪えるストライカー」になるため、豊川は日々の練習に取り組んでいる。

 4月28日のオイペンvs.ロケレン戦で配られたメンバー表には、豊川の名前がスタメンとして記されていた。だが、ウォーミングアップが始まってしばらくすると、プレスオフィサーが「豊川はけがをしたから、メンバーから外れる」と告げに来た。

 実は、豊川はウォーミングアップでけがをしたのではなく、試合前日の練習で打撲をしており、試合直前のチェックで腫れが引いてなかったため、急きょ出場をとりやめたという経緯があった。

「練習のミニゲームとかバッチバチなんです。全員、まず見るところはゴール。日本では『シュート打てよ!』という声が出るじゃないですか。だけど、こっちではシュートを打つのが当たり前だから、そういう声がないんです。

 逆に球際に厳しく行かずに1対1に負けて失点したら、ものすごく言われます。頑張りすぎてけがをするのも当たり前。だから俺も昨日、けがをした。だけど、俺はその激しさを求めてヨーロッパに来たから、『試合前日だから、あそこまでやらなければよかった』とは思いません。試合になれば、もっと激しいわけですから。

 ミニゲームをやる小さなピッチの中で、激しい当たりを経験しながら、ボールに触れる回数が増えたり、ゴールを決める回数が増えたりとか。少しずつ、できることが見つかってくると『成長したな』と感じるんです」

「リオ五輪のメンバーとA代表でプレーしたい」

リオ五輪最終予選を共に戦った植田(右)らはA代表でプレーしている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 豊川は「心も体も前重心」という言葉を心に刻んでいる。

「鹿島(アントラーズ)と(ファジアーノ)岡山でお世話になった岩政大樹さん(現東京ユナイテッドFC)に言われた言葉です。こっちに来て、それはすごく大事だなと思いました。人間だから、俺もたまに消極的なプレーをすることもある。だけど、ちょっとでも弱気なプレーをするとパスミスをしたり、相手に激しく来られてボールを失ったりする。

 でも、気持ちを常に前に置いておくと、自分発信でいろいろなことをしようとするから、全てが積極的になって『前に、前に』という意識が強くなる。それでムスクロン戦の3点目や、STVV戦のようなゴールが生まれたんだと思うんですよね」

 オープンな性格は、海外向きなのかもしれない。日本で流行ったピコ太郎の歌をチームメートに披露して「なんや、この歌は?」と笑わせるなど、すっかりチームになじんでいるという。「こんな性格で良かった」という言葉は、堂安律(フローニンゲン)と全く同じものだ。

 リオデジャネイロ五輪のアジア予選をともに戦った中島翔哉、久保裕也、井手口陽介、植田直通、遠藤航、大島僚太、浅野拓磨はすでにA代表入りを果たしている。

「彼らが代表で試合に出ているのを見て、『このままではいけない』とすごく刺激になっています。ロンドン五輪は、大津高校時代に遠征先で見ていて『スペインに勝った!』と喜んでいたんです。夢見ていた(リオ五輪の)舞台に、自分は立つことができなかった。だけど、そこで人生は終わりじゃないですし、実際に終わっていなかった。現に、今はこうやってプレーできていますしね。

 リオ五輪のメンバーに落ちた時、長澤徹さん(岡山監督)があの人らしく、俺に『おめでとう』と言ってきたんですよ。お前のサッカー人生に絶対に生きてくるから。お前の人生、終わりじゃないから、と。それは忘れないですね。これからも俺は自分らしく一歩ずつ、前に進んでいきます。そしてリオ五輪のメンバーと一緒に、A代表でプレーしたいです」

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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