大谷翔平が3勝目で見せた適応力 それでもまだまだ未完成の4シーム

丹羽政善

マリナーズ打線も戸惑ったスライダー

エンゼルス大谷は現地時間6日のマリナーズ戦に7回途中2失点で3勝目を挙げた 【Photo by Lindsey Wasson/Getty Images】

 現地時間6日、マリナーズvs.エンゼルスの3回、大谷翔平は左のベン・ギャメルに対して1ボール1ストライクからの3球目にバックフットスライダーを投げた。そして、続く4球目も内角低めのスライダー。この球にギャメルのバットが空を切ったが、これにはマリナーズの左打者が、一様に顔を見合わせたのではないか。

 今季のこれまでを振り返ると、若干の誤差はあるかもしれないが、大谷が左打者に対してスライダーを投げたのは、わずか2球(0.58%)。

 もちろん、スカウティングリポートにはそのことが触れられており、マリナーズの左打者は、「初球にカーブが来ることがあるが(大谷が左打者にカーブを投げたのは10球。そのうち8球が初球)、それ以外は4シームとフォーク」という情報をインプットして打席に入っていた。よって、彼らにとってはスライダーが来ること自体が想定外であり、ましてや、連続で来ることなど、頭の片隅にすらなかった……。

 大谷は、続く左のディー・ゴードンに対しても、1ボール2ストライクと追い込んでからスライダーでライトフライに仕留めている。ゴードンが泳ぐようなスイングになったことからも、彼もまた、別の球種をイメージしていたのだろう。

 この点について大谷に聞くと、「その方が抑えられると思ったので」と短く答えたが、にわかには信じがたい面もある。

 それまで左打者とはのべ33回対戦しているが、それまではスライダーが有効と思える打者がいなかったということにもなる。

 その点は改めて検証したいが、では、「なぜこれまで投げなかったのか?」と聞くと、大谷は、「各球団、各バッター、特徴があるので、それは日本でもアメリカでも、変わらないですし、僕には僕のバッティングの特徴があるように、個人個人、特徴が違う」と説明し、続けた。

「それを捉えていければ、各配球、どういうカウントでどういうボールを投げるのかというところにつながるんじゃないかなと思います」

今までの裏をかいた大谷の投球

 確かにそういう面もある。この日実は、4人の左打者全員(ゴードン、ロビンソン・カノ、カイル・シーガー、ギャメル)が、それぞれ1回ずつスライダーで打ち取られた。

 以下に右投手のスライダーに対する4人の打率をまとめると、こうなる。

ゴードン:148打数33安打 打率2割2分3厘
ギャメル:63打数9安打 打率1割4分3厘
シーガー:124打数15安打 打率1割2分1厘
カノー:141打数39安打 2割7分7厘
※2015年〜2018年5月5日現在

 投手によって軌道も違うので、単純比較は出来ないが、ギャメルやシーガーには確かにスライダーが有効のよう。しかし、参考までにその4人のスプリット/フォークの打率も調べると、こうなった。

ゴードン:18打数3安打 打率1割6分7厘
ギャメル:28打数3安打 打率1割0分7厘
シーガー:41打数4安打 打率0割9分8厘
カノー:54打数19安打 打率3割5分2厘
※2015年〜2018年5月5日現在

 カノーには投げないほうがいいが、あとの3人にはスライダーよりフォークのほうがリスクは少ない。

 ということは、単純に個々の特徴を意識した配球ではないともいえる。結局のところ、裏をかいたと言えるのではないか。これまでの4試合すべてが伏線となり、相手の狙いを読み、パターンを変える。3勝目を挙げた今回の件で次回以降、さらに相手は迷うことになるが、大谷自身、そういう狙いがあったことを否定していない。

「今までは、自分がしっかりやってきたものが出せれば、負けないと思ってやってきた。でも、やっぱりそれだけでは補えないものがあったりとか、いっぱいデータがある中で、それを活用しない手はないなと思った」

 無論、これまでのスタイルを変えることにはリスクを伴うが、それが出来てしまうところに、彼の非凡さがうかがえる。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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