堀内恒夫氏が語る吉川尚輝の可能性 堅実さと華麗さを併せ持つ二塁手に

週刊ベースボールONLINE

広い守備範囲と俊敏な動き

4月21日の阪神戦の4回裏、好プレーを見せた吉川尚(左)。巨人OBの堀内氏も今後の活躍に大きな期待を寄せる 【写真=BBM】

 わが巨人軍の後輩、吉川尚輝君の評判がすこぶるよろしいようで。開幕から2番に定着して、無難につなぎ役を務めている。左に打てる器用さもあれば、右に引っ張る力も持っている。さすがに昨年のドラフト1位だ。

 しかし、それよりも特筆すべきはセカンドの守りで、スピードを生かした守備範囲の広さと俊敏な動きで再三投手を救っている。印象的なシーンがあった。4月21日の阪神戦の4回、表の攻撃で3点を取った直後の守り。2死満塁で大山悠輔の一、二塁間を抜けそうになるゴロに追いつき、1回転しながらファースト・岡本和真に送球した。このプレーは視線がぶれて悪送球するケースが多いのだが、見事にアウトにした。抜けていれば確実に2点が入って、なおピンチが続いていたところだった。「広島・菊池涼介級の守り」とスポーツ紙が絶賛したビッグプレーだった。

 ドラフト1位で入った昨年は、いきなり上半身のコンディション不良とかで、自主トレから別メニュー。キャンプも3軍スタートだった。「スカウトはどんな目をしてるんだよ」という声が周囲から起きても仕方がない状況ではあった。しかし、やはり素材は良かったんだな。2年目の今年は見違えるほど体も動いている。巨人はこのところ、セカンドに人材が不足していた。昨年などは攻撃優先でマギーを起用するなど苦労していたが、ようやく適任者が現れたようだ。

坂本勇人が引き出した守備の成長

 吉川尚はこの1年、セカンドを守るための努力を相当したはずだ。セカンドというポジションは野手の中で最も動かなければならず、最も頭を使う難しいポジションだ。特に、巨人では坂本勇人という12球団の中でも最もうまいショートがいる。その超一流のショートとコンビネーションを合わすためのレベルアップをしなければならない。逆に言えば、今年の吉川尚の守備の成長は、坂本が引き出していると言ってもいい。申し訳ないが、ほかのセカンドだったら、坂本のレベルの高さについていけてなかっただろう。坂本のレベルに合う選手がいるとすれば、広島・菊池くらいだ。

 私の現役時代、セカンドと言えば、土井正三さんだった。肩は強くなかったが、堅実。打球方向の読みが抜群だった。投手の投げる球、コースによって、守備位置を変えるテクニックが土井さんにはあった。最近でこういう芸当ができたのは篠塚和典、仁志敏久くらいか。篠塚には土井さんにはなかった「華麗さ」もあった。

 私の現役時代は、守備で「名人」と言われる人の多くがセカンドだった。阪神・鎌田実さん、広島・古葉竹識さん、中日・高木守道さんらだ。こうして見ると、野球の守りで最も大事だと言われるセンターラインで、外野手へサインの伝達もやれば、送球のカバーにも走るセカンドの役割が大きいことがよく分かると思う。

 吉川尚はまだもっとうまくなる。今は坂本とのタイミングを図るのに必死になっている状態だと思うが、このままいけば、土井さんの堅実さと篠塚の華麗さを併せ持ったセカンドになる可能性を秘めている。楽しみな選手が出て来た。
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