【全日本プロレス】ノア丸藤がCC初出場初優勝の快挙 史上初の三冠王座&GHC同時戴冠へ

高木裕美

ノア丸藤がCC初参戦で初優勝の快挙を達成 【写真:SHUHEI YOKOTA】

 全日本プロレスの春の祭典「2018 チャンピオン・カーニバル」(CC)最終戦となる30日の東京・後楽園ホール大会では、超満員札止めとなる1697人を動員した。

 メインイベントの「2018 チャンピオン・カーニバル」優勝決定戦では、プロレスリング・ノアの丸藤正道が、現三冠ヘビー級王者である宮原健斗を破り、かつての古巣で初出場初優勝の快挙を達成。試合後は三冠王座奪取への意欲も見せ、すでに決定した5.29ノア後楽園ホール大会での王者・杉浦貴とのGHCヘビー級王座戦と共に、史上初の三冠&GHCの2冠王も視野に入れた。

ノアで若手時代を過ごした2人が決勝の舞台で激突

ノアで若手時代を過ごした2人が全日本のメインで再び激突 【写真:SHUHEI YOKOTA】

 今年、デビュー20周年を迎える“方舟の天才”が、師匠・三沢光晴さんもきっと予想もしなかったような、空前絶後の「総獲り」プランをブチ上げた。

 丸藤は高校卒業後、全日本に入門し、1998年にデビュー。2000年には三沢さんらと共に新団体プロレスリング・ノアに移籍すると、06年までに団体の至宝であるGHC全タイトル(ヘビー、ジュニア、タッグ、ジュニアタッグ、ハードコア)を制覇。デビュー10周年を迎えた08年には古巣・全日本で世界ジュニアヘビー級王座を獲得し、10年には新日本のIWGPジュニアヘビー級王座を戴冠。史上初のメジャー3団体ジュニア王座制覇を成し遂げた。また、新日本の真夏の祭典「G1 CLIMAX」には2度出場し、12年には棚橋弘至、16年はオカダ・カズチカといずれも当時のIWGPヘビー級王者から勝利している。

 一方、宮原は08年2月に健介オフィスでデビュー後、わずか半年でノアの「日テレ杯争奪ジュニアヘビー級タッグリーグ戦」に丸藤とのタッグでエントリーするも、8チーム中最下位とふがいない結果に。だが、このリーグ戦で丸藤に毎回のように叱咤激励を受け、プロ初勝利をつかむこともできた。

 両者のシングルマッチは過去2戦。同年のSEM10.2ディファ有明大会では、15分7秒、腕極め顔面絞めで丸藤が勝利。10年2.14ノア前橋大会でも、9分49秒、不知火で丸藤が白星を挙げている。

 その後、宮原はノアと全日本を股にかけ、ヒールに転向するなど自らの道に迷いながらも、13年にフリーに転向し、全日本を主戦場とすることを決意。14年からは全日本所属となり、16年2月には平成生まれ初の三冠ヘビー級王者として、団体を牽引。「最高!」のかけ合いで会場に新たな空気を呼び込んだ。

 だが、三冠王者として臨んだCCでは、2年連続、決勝進出すらできず。3年目にしてついに決勝戦への切符をつかんだ宮原は「三冠王者がチャンピオン・カーニバルを制したのはおよそ17年前。ただ、そんな当たり前はオレには通用しない」と、ジャンボ鶴田さん(91年)、スタン・ハンセン(92年)、三沢光晴さん(98年)、ベイダー(99年)、小橋健太(建太=00年)、天龍源一郎(01年)に続く、17年ぶり7人目の三冠ヘビー級王者としてのCC優勝達成を堂々と予告。「丸藤は一流だが、オレは超一流」と、かつてタッグパートナーとして自分の原点を築き上げてくれた“師匠”超えを誓っていた。

丸藤「ワガママに行く。今年は全部もらう」

最後はポールシフト式エメラルドフロウジョンで3カウントを奪取 【写真:SHUHEI YOKOTA】

 ゴングと同時に両者への声援が交錯する中、まずは宮原がエプロンからのフェースバスターを見舞うと、丸藤も鉄柱への誤爆を誘っての鉄柱越しトラースキック。さらに丸藤は10分過ぎ、顔面ステップキックからエプロンサイドへのパイルドライバー、フロムコーナートゥコーナーとたたみかけると、宮原も不知火を阻止してジャーマンスープレックス、ブラックアウト、ブレーンバスターで反撃。

 15分過ぎ、先に丸藤の不知火が火を噴くが、宮原もブラックアウトからの二段式ジャーマンスープレックス。20分過ぎ、ブラックアウトと虎王、2人の得意技であるヒザ蹴りが相打ちとなり、両者ダウン。宮原は再度のジャーマンからフィニッシュホールドであるシャットダウンスープレックスを狙うも 、丸藤は腕をつかんで切り返すと、トラースキック、虎王、カカト落とし、虎王2連発から後頭部へも虎王を繰り出すと、ポールシフト式エメラルドフロウジョンで3カウントを奪取。95年と98年に2度栄冠をつかんでいる師匠にゆかりの深い技で、三冠王者から勝利するという劇的なドラマによって、CC初優勝を決めた。

 かつて、若手時代にあこがれていた大トロフィーを手中に収めた丸藤は、「今回のCCの目的は2つ。秋山準を倒すこと。優勝すること。だから、三冠には興味がない」と言い切るも、「……と、言いたいところだが、先ほどの宮原健斗、三冠チャンピオンらしいじゃないか。ってことは、勝てるんじゃないかな」とニヤリ。「おい、全日本が問題なければ、そして、宮原がおまえの大事な物を賭ける気があるなら、もう1回やろう」と、ベルトを賭けての再戦を要求。そして、「最後に、優勝したんだから、これぐらい言わせてくれ。みんな、ノアにも来てくれ。ありがとう」と、チャンスに乗じて自身の団体の営業活動まで行った。

 この不遜な“外敵”に対し、観客は大「丸藤」コールで優勝を祝福。16年の関本大介(大日本プロレス)、17年の石川修司(フリー)に続き、3年連続で外敵の優勝となったが、場内はハッピーな高揚感に包まれていた。

 丸藤は約10年ぶりに一騎打ちを行った宮原について「成長しているし、お客さんもついて来ているし、今、全日本を引っ張っている最高のレスラーであると感じた」と、エースとして評価。CC参加当初は「興味がない」と言っていた三冠王座については「ツンデレじゃないけど、『興味ない』って言ったって、無いわけないだろ。生まれた団体の最高峰のベルト。でも、秋山と優勝、この2つを叶えるために、軸をぶらせたくなかった」と、ノドから手が出るほど欲しい存在であると激白した。

 とはいえ、丸藤は三冠よりひと足早く、前日のノア新潟大会で、自らGHCヘビー級王者・杉浦に挑戦を直訴。ノア5.29後楽園大会でGHC王座に挑戦することが決定済みだ。CC決勝戦の結果を待たずに起こしたこの行動について、ファンからは批判や疑問の声も挙がっているが、丸藤は「今のオレは欲しがり屋さん。いろいろ言いたいヤツはいるかもしれないけど、やるのはオレだし、結果を出すのもオレ。ワガママに行く。今年は全部もらう。丸藤正道が全部もらう」と、堂々と言い切ってみせた。

 9月1日には自身のデビュー20周年記念興行である東京・両国国技館大会の開催が決定。「夢かと思われるような人にもオファーを出していきたい」と予告していた通り、全日本のOBであり、現在はセミリタイア中の“デンジャラスK”川田利明にも出場を依頼するなど、精力的に動き出している。

 過去には、05年2月に当時全日本所属であった小島聡が、天山広吉とのダブルタイトル戦を制し、三冠と新日本のIWGPヘビー級王座を同時に戴冠。また、08年9月には、IWGP王者であった武藤敬司の“悪の化身”グレート・ムタが三冠王座を戴冠し、別人格で“4冠王”となることはあったが、三冠&GHC王座の同時戴冠となれば史上初。もし、この偉業達成となれば、今年のプロレス大賞MVP獲得も夢ではない。2010年の杉浦以降、7年連続で新日本勢が独占してきたプロレス界の座を奪い取り、全日本、そしてノアに大いなる「飛翔」をもたらすことができるか。これまでも常識や予想をくつがえし、団体の枠を飛び越え、強敵を次々と撃破してきた天才が、またしてもプロレス界に新たな歴史を作るのか。その目撃者になるのは、今だ。

 もちろん、3年連続で三冠王者としてのCC優勝を逃し、外敵の優勝を許してしまった宮原にも、“健斗重来”ならぬ捲土重来を期待したいところ。優勝した丸藤に「最高!」の決め台詞まで奪われた三冠王者が、かつての“師匠”に三冠戦の大舞台でリベンジを果たし、今度こそ「満場一致で全日本の最高のエース」に君臨できるか。

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著者プロフィール

静岡県沼津市出身。埼玉大学教養学部卒業後、新聞社に勤務し、プロレス&格闘技を担当。退社後、フリーライターとなる。スポーツナビではメジャーからインディー、デスマッチからお笑いまで幅広くプロレス団体を取材し、 年間で約100大会を観戦している 。最も深く影響を受けたのは、 1990年代の全日本プロレスの四天王プロレス。

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