田中将大が示した“先輩”としての貫禄 大谷を特筆しない、それこそがリスペクト

杉浦大介

周囲は喧騒も…一歩引いていた田中

現地27日の試合前、握手をする田中(写真右)と大谷 【写真は共同】

 こうして田中が“田中らしさ”を取り戻したのを見て、なおさら大谷との一騎打ちが見たかったと感じたファンは多かったのかもしれない。

 当の大谷も、今日の試合後には「なかなか直接打席の中で(田中の)ボールを見るという機会はない。必ず自分にとってプラスになるので、そういう意味でも楽しみにしていた」と述べていた。もっとも、主役の一人であるはずの田中は、騒ぎを煽ろうとする周囲の喧騒(けんそう)からは常に一歩引いていた感があった。 

「(大谷は)ラインアップの中の一人というのが正直なところ。もちろん見る側の人、書く側の人たちは注目してくれているのもわかるんですけど、そこだけじゃないし、(自分は)9人を相手にしないといけない」

 基本的にリップサービスを好まない田中のコメントはほぼすべて本音であり、今日の試合後の言葉にも嘘は感じられなかった。こうして必要以上の興味を示さないからといって、大谷を軽視しているわけではあるまい。マイク・トラウト、プホルス、イアン・キンズラーといったビッグネームがそろう打線の中で、大谷だけを特筆しなかった。何より、そのことこそが、生き馬の目を抜くようなメジャーという同じ舞台に立った後輩へのリスペクトにも思えてくるのである。

「皆さんもよくご存知と思いますけど、継続して活躍して認められる。もちろんそういう時期(良い時期)があるだけでも凄いですけど、本当に認められるっていうのは、やっぱり1シーズンを戦ってというところだと僕は思っています」 

 大谷が注目の対決の舞台に立つことすら叶わなかった後では、エンゼルス戦前日の田中のそんな言葉は余計に意味を持って響いてくる。

何年もプレーすることに価値がある

 当の田中にも、2014年の米デビュー時にはいきなり11勝1敗という好スタートでセンセーションになった経験がある。しかし、以降はさまざまな形で紆余曲折を味わってきた。1年目半ばに右ひじの靭帯部分断裂で離脱を余儀なくされ、昨季中には未曾有の不振にも見舞われた。

 そんな中でも適応の術を見つけてきた29歳は、MLB特有の厳しい日程の中で健康を保ち、結果を出し続けることの難しさをすでに熟知している。だからこそ、後輩との一度目の対決は“大きな到達点”などではなかったのだろう。

「長くプレーしていけば必ず当たる。今回はこういう形になりましたけど、1カ月後またどうかわからない。何年も同じリーグ、同じ舞台でプレーしていけば対戦する機会はある。その時はくると思いますけどね」

 入団当初の田中よりも遥かに大きな脚光を浴びる大谷にも、メジャーでは今後さまざまな試練が訪れるに違いない。それほど厳しいリーグで、何年も同じ舞台でプレーしていくことに価値がある。そう語って当たり前のようにゲームに臨み、淡々と勝利を手にした今回の田中の言葉と背中からは、すでに多くを経験してきたものが知る重みが確かに感じられたのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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