田嶋会長「勝つ可能性を追い求めた結果」 ハリルホジッチ監督解任に関する記者会見

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日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督との契約解除、西野朗技術委員長の監督就任を発表したJFAの田嶋幸三会長 【スポーツナビ】

 日本サッカー協会(JFA)は9日、都内で記者会見を行い、日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督との契約を7日付で解除し、後任に技術委員長の西野朗氏が就任することを発表した。6月14日のワールドカップ(W杯)本大会開幕まで約2カ月の段階での監督交代となった。

 登壇した田嶋幸三会長は「(3月の)マリ戦、ウクライナ戦の後、選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきました。今までのさまざまなことを総合的に評価し、この結論に達しました。私は1パーセントでも2パーセントでも、W杯で勝つ可能性を追い求めていきたい」と監督解任に至った理由を説明。

 後任人事については、「新監督には内部からの昇格しかないと考えました。W杯までたった2カ月であるということを考え、内部で一番このチームを見てきた方、西野(朗)氏を監督に決定いたしました」と語った。

 新体制の発表会見は12日に行われる予定。

選手とコミュニケーションや信頼関係が薄れてきた

登壇者:
田嶋幸三(日本サッカー協会 会長)

 皆さん、こんにちは。JFA(日本サッカー協会)会長の田嶋です。本日はご多忙のところ、また急なお知らせにもかかわらずお集まりいただき、ありがとうございます。

 このたび、日本サッカー協会は、4月7日付で、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督との契約を解除いたしました。ハリルホジッチ監督には、前任の(ハビエル・)アギーレ監督解任の後、非常に短い時間でチームを作り、そして見事にW杯予選突破を実行してくれました。皆さんもご存知のように、彼は非常に真面目な性格で、サッカーに熱い情熱を持ち、誰よりもサッカーを愛し、多くの時間をサッカーに割き、ピッチの上ではその熱い気持ちを選手にぶつけてくれました。「デュエル(球際の競り合い)」という言葉。まさに日本サッカーに必要だった言葉を、彼が植えつけてくれたと思っています。

 しかしながら、W杯出場権獲得の後、さまざまな試合を行い、そして最終的には、一昨日の契約解除という結果になってしまいました。試合の勝ち負けだけで監督更迭を決めているわけではありません。皆さんのご意見があったから、それで決めたわけでもありません。選手やさまざまな方の意見は聞きましたが、もちろんそれで決めているわけでもありません。ただマリ戦、ウクライナ戦の後、選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきたということ。そして、今までのさまざまなことを総合的に評価して、この結論に達しました。私は、1パーセントでも、2パーセントでも、W杯で勝つ可能性を追い求めていきたいと思っています。そのために、この決断をいたしました。

 新しい監督については、内部からの昇格しかないと考えました。(W杯まで)わずか2カ月しかないということで、ずっとこのチームを見てきた方、西野(朗)氏を監督と決定しました。

 西野氏については、皆さんに説明するまでもありませんが、アトランタ五輪、柏レイソル、ガンバ大阪、ACLでの戦いなど、さまざまな国際経験を積んできていらっしゃいます。大会までたった2カ月という期間でありますが、現在、西野監督はスタッフを編成中であります。今週木曜日(12日)に、すべてのスタッフの編成、さまざまなスケジュールの決定を経て、皆さんにまたこの場で、記者会見をしたいと考えています。

 これから新しい体制に移行するわけですが、われわれサッカー協会は、スムーズに新体制をスタートすることに全力を尽くします。今、われわれがしなければいけないことは、日本サッカー界で結束し、監督、選手、コーチ陣、スタッフ、かかわる全ての人々を全力でサポートすることだと思っています。そしてW杯という檜舞台で、彼らが120パーセントの力を発揮できるよう準備していくことです。

 今こそ、これまで日本サッカー界が蓄積してきたスカウティング、コンディショニング、メディカルなどの英知を結集し、サポートすべきだと考えています。時間はありませんが、私はこういうときこそ、日本人は力を発揮できるものと信じています。多くのサポーターやファンの皆さんにはご心配をおかけしています。そしてサッカーファミリーの皆さん、スポンサー・パートナーの皆さん、そして日本代表を支えている報道陣の皆さん、国民の皆さん、多くの方々の厚い期待に沿えるように、私たちは全面的なサポートを惜しみません。皆さんとともに、ロシアW杯に臨むチームを支えていきます。引き続き、熱い応援をよろしくお願いします。

ハリルホジッチ監督はやはりビックリしていた

パリでハリルホジッチ監督に解任を伝えたという田嶋会長。「直接言ったときの状況で言えば、やはりビックリしていた、というのが私の印象」 【写真:Newspix/Shutterstock/アフロ】

――ベルギー遠征が終わって、一時は西野さんが現体制を続けていくことを明言した。それから10日あまりでこのような決断になった経緯は?

 まず、メディアの皆さんにうそをつくわけではありませんが、私たちは、どの監督であったとしても、常にさまざまなことが起こるのを想定して、さまざまなことを考えた上で議論をしています。契約解除という最終的な決断になるまでに、W杯予選突破後はもちろん、その前も含め、ずっと議論をしてきました。西野技術委員長、スタッフ、岡田(武史)副会長(当時)とも議論をしながら、私たちはこのチームが最善の方向にいくよう努力をしてきました。

 そういう中で、マリ戦、ウクライナ戦という3月のベルギー遠征は、W杯に向けて最後の重要な遠征でした。そこでもっと、このハリルホジッチ・ジャパンがいい方向へいくきっかけにしたいと、西野技術委員長は最後まで努力をしていた。これは皆さんもご存知のとおりです。ただ最終的に、コミュニケーションや信頼関係の部分がベルギー遠征後に出てきてしまった。それが最終的なきっかけになったのは事実です。

 そして西野監督は先週、日本サッカー協会の理事、技術委員長、Jリーグの理事を辞任されました。そして、私が西野監督を、この緊急の状況で監督として選びました。どのようなスタッフにするのか、という部分は監督に一任しているところです。

――田嶋会長がハリルホジッチ監督に直接解任を伝えたと思うが、その反応は?

 4月7日、フランス時間の18時に、パリのホテルで直接会いました。今まで彼とは多くのミーティングをしてきましたが、皆さんからのさまざまな報道にすごく敏感な方で、そのたびに私と話をしてきました。ずいぶん前ですけれども、私は彼に言いました。メディアを通じて、あなたに解任だとかの情報を伝えるつもりは一切ない。言うなら直接伝えますと言いました。

 その上で、法務関係もしっかりやった上でフランスに渡ったわけです。(解任を伝えるのは)紙一枚でも構わないんだとも言われましたが、彼が必死になって日本代表を強くしようとし、W杯出場権を獲得したという実績も考慮し、私は礼を尽くし、直接言うことを選びました。

 直接言ったときの状況で言えば、やはりビックリしていた、というのが私の印象です。まさかそれを言われるとは、ということで、動揺も怒りもあったでしょう。「どうしてなんだ」と理由も聞かれました。ただ、そこであれがあった、これがあった、と羅列するつもりはありませんでした。事実として、契約を解除するということを伝えました。もちろん、選手とのコミュニケーションが足りないというようなことはお伝えしましたが、辞めていただく方を傷つけるというよりは、われわれはしっかりと線を引いたのだと伝えるのが大事だと思い、今のように伝えました。

 彼としては、「満足ではない」「なぜこの時期に」ということはおっしゃいましたが、私としては、少しでも日本が勝てるようにしたいという気持ちから、この決断に至ったことは、彼に伝えました。

――信頼関係、コミュニケーションのあたりを判断したとのことだが、確かに、選手もいろいろな表現でチームに意見をしていたが、必ずしもネガティブではなく、建設的に、ポジティブにという感じだった。W杯予選突破の時点では、多くの選手がハリルホジッチ監督の戦術に共感していたのも事実だと思う。不安要素と、ポジティブな要素のバランスが、3月の時点で結局どうなってしまったと捉えているのか? また、コミュニケーションの溝がここまで深まってしまう前に、協会、または西野技術委員長の職務として、何かできなかったのか。

 もちろんさまざまな意見があって、私たちは皆さん以上に、その状況は把握していたつもりです。それは予選を突破する前からずっと。コミュニケーションがこうあって、信頼する選手がいた、というのが、逆転してしまったのが3月のマリ戦、ウクライナ戦だったと思います。

 西野技術委員長を含め、さまざまなスタッフが、状況を打開しよう、新たな方法を取り入れようと議論し、努力してきたと私は報告を受けています。それは事実ですし、ハリルホジッチ監督が、しっかりとそれを自分の方法であるとおっしゃっていたのも事実です。そういう繰り返しの中で、しっかりと溝を埋めるまでには至らなかった。できなかったということは事実として認めますが、実際にトライしてきたことも間違いないことだと捉えています。

――あと2カ月というタイミングでの解任は、デメリットが多いと思う。それ以上に、今変えなければいけないという状況に追い込まれていたということか?

 その通りです。間違いありません。逆に言うと、このタイミングだからこそ西野監督になった。もっと前なら西野監督ではなかったかもしれません。でもこの時期で、残り2カ月しかないことを考えると、この時期だからこそ、この状況でこの決断をした。それくらいの状況に陥っていたと、私は認識しています。

――欧州遠征の前とか、もっと早くジャッジできた可能性は?

 監督を代えることのリスクもありますが、代えないリスクもあります。それのを常に比べながら、われわれは議論をしてきました。代えれば必ずよくなるという魔法があるなら、それをやったかもしれません。ただ、さまざまな観点からリスクを考え、議論をしてきました。予選中から、ハリルホジッチ監督をサポートする、というのは変わらずに。

 それが最後の最後のところで、逆転して変わってしまった。確かにタイミングとしては遅いのかもしれないですけれども、最後まで、ハリルホジッチ監督のチームを、グッと固まれるようなものにしたいと、3月も努力を続けてきました。しかし、残念ながらそれが実現できなかったということです。

日本らしいサッカーをやりたい

――西野新監督には、これまでやってきたことを踏襲してもらうのか、ガラリと変えるのか、どういった日本サッカーを構築していくべきだと考えているか?

 まさに日本サッカーと言ってくれましたが、その部分は最も大事にしなければいけません。もちろん、これまでやってきたことを全否定することはできません。ただ、西野監督がやりたいことを全面的にサポートしていきます。そしてわれわれが築き上げてきた、スカウティングだったり、コレクティブに戦う日本の選手たちの能力であったり、そういうものをしっかりと出していける、日本らしいサッカーをやりたいと思っています。そのあたりは木曜にぜひ同じ質問をしていてだければと思います。

――西野さんの他に後任候補はいたのか。ハリルホジッチ監督の在任中から考えていた候補はいなかったのか。

 最終的に、この段階では内部からと考えていました。西野監督、手倉森(誠)監督、そのあたりになってくるかな、と。それまでにいなかったのか、という部分では、常に考えておかなければいけないことだと思っていましたが、今ここで名前を出すべきではないと思っています。

――ハリルホジッチ監督の資質として、直前の準備、具体的な対戦相手に対する緻密な戦略立てなど、最終の準備のエキスパートであったと思う。結果的に、彼の一番いい面を発揮する前に辞めてもらうことになったと思う。西野監督については、実績のある方で能力に疑いはないが、この短い期間で準備をしたことはない。実質的にやれるのは3週間だが、どう考慮した?(田村修一/フリーランス)

 最終的にいいチームにするというところで言うと、チームが一緒になって、お互い信頼し合い、コミュニケーションを取り合ってやるからこそ、できることだと思います。それができないと判断したから、この決断に達しました。ベースはそこだと考えています。

 緊急事態ということで西野さんにお願いしたわけですが、ここまでの準備を知っていた人がやるべきだと思ったからです。3週間が短いか長いかは分かりません。短い期間だからこそ、みんなが集中できるかもしれない。長かったら、また別の摩擦が生まれていたかもしれない。この短い時期だからこそ、西野さんにお願いした部分があります。得手不得手はあるかもしれませんが、最後の3週間で、やれることをすべてやるということで、この体制になりました。具体的なスタッフ編成については、あらためて木曜日に話したいと思います。

――会長から法務とも話をしてフランスに渡ったとのことだったが、契約解除の内容について何を相談したか。また、交代するスタッフは?

 まず法務と相談したのは、どういう形で解除の手続きが完結するのか、われわれが契約を途中で切るときに、どのような義務が発生するのか。そういったことを理解した上でなければいけませんので、ウクライナ戦の後に時間を要したのはそういうところです。

 そして、現在のところハリルホジッチ監督と本人に伝えたのは、コーチのジャッキー・ボヌベーさん、フィジカルコーチのシリル・モワンヌさん、GKコーチのエンヴェル・ルグシッチさん。この3名については、契約を解除いたしました。

――日本サッカーが目指すべき道。これまでハリル監督の下でやってきたもの、この先に続いていくもの、どんなサッカーを目指すかが分かりにくくなっているが、どう考えているか。

 もちろん、基本的な戦術やベースは一緒。ただ、監督によってやり方が違うのも事実です。実際に、ハリルホジッチ監督がやろうとした縦に速い攻撃もありました。それが必要なのも分かっていますが、それを選手たちが全うできるかどうか。そういうことを踏まえながら、また今までW杯で通用したもの、しなかったもの、今のサッカーに合うもの、合わないものをしっかり分析して、われわれはチームを作らなければなりません。

 最近はやるサッカーに大きな差はなくなってきています。監督の指示だけでなく、自分たちがその場その場で判断する、そいうプレーを期待したいと思います。もちろん西野監督がやりたいサッカーはあると思いますが、具体的なことは木曜に聞いてほしいと思います。私としては、日本らしい、しっかりボールをつないでいくサッカーを志向してほしい。これは私の意見ですから、監督がどう考えているかはまた聞いていただきたい。

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