美しく強い、スペイン代表の変わらない形 新世代の台頭により高まる期待

この先何年も強いスペインが見られる!?

スペイン代表にはイスコ(写真)やアセンシオ、モラタら新たなタレントが台頭している 【Getty Images】

 かつて “フリア・ロハ(激情の赤)”と呼ばれていた頃、スペイン代表は長年にわたって明確なプレースタイルを持たぬまま、ハードワークと激しいフィジカルコンタクトを頼りに戦っていた。国内リーグには世界中からスター選手たちが集まっていたが、地元選手の出場機会を奪う彼らの存在は、代表チームの強化を妨げる要因にもなっていた。

 だが今日、それらの問題はまるで遠い昔の出来事のように奇麗さっぱり忘れ去られた感がある。今や“ラ・ロハ”はエリート階層の一員として、世界中からリスペクトされるようになっただけでなく、6月に開幕するワールドカップ(W杯)ロシア大会に向けても、確固たる優勝候補の一角とみなされている。

 10年前にルイス・アラゴネスが確立した美しく強いプレースタイルは、その後ビセンテ・デルボスケの手で8年にわたって継続され、現在はフレン・ロペテギへと受け継がれてきた。

 その間、欧州選手権(ユーロ)2008と2010年のW杯南アフリカ大会を制したメンバーの多くは代表を去っている。セルヒオ・ラモスとジェラール・ピケを除いてディフェンスラインの顔ぶれは変わり、中盤を支えたシャビ・エルナンデスとシャビ・アロンソ、得点源のフェルナンド・トーレス、ダビド・ビジャらもいなくなった。

 それでもスペインフットボール界はW杯ブラジル大会とユーロ2016の惨敗を乗り越え、トップクラスの地位を維持することに成功している。さらにはイスコやマルコ・アセンシオ、アルバロ・モラタら新たなタレントの台頭により、この先何年も強いラ・ロハを見続けられる期待感まで高まっている。

最大の特徴は揺るぎないプレースタイル

ドイツとの親善試合で、勝敗以上に説得力のある内容を示したスペイン 【写真:ロイター/アフロ】

 敵地デュッセルドルフで臨んだ世界王者ドイツとの親善試合(1−1)にて、スペインは勝敗以上に説得力のある内容を示した。試合時間の大半にわたってゲームを支配し続け、ライバルにボールを奪うチャンスを与えなかった。この日のプレーレベルは、まるでW杯本番の試合かと思わせるほどに高かった。

 スペイン代表の最大の特徴はそのプレースタイルにある。

「スペイン代表は闘牛を操るマタドール(闘牛士)になりたいのか、それともマタドールに翻弄(ほんろう)される闘牛のままでいたいのか」

 アルゼンチン代表を率いて1978年のW杯アルゼンチン大会を制したセサル・ルイス・メノッティは04年、そう言って“激情”に任せたフットボールを続けるのか、ボールを支配下に置き能動的にゲームをコントロールするスタイルの確立を目指すのかを問い掛けた。

 その答えを導き出したのがアラゴネスだった。彼はフランク・ライカールトの指揮下で美しく機能していたバルセロナのフットボールをモデルにすべきと考え、テクニックに優れ、テンポよく正確にパスをつなぐプレーを志向し、何のために長時間ボールを保持するのか、明確に理解している選手たちを主役に据えた。

 その結果、スペインは08年から12年にかけて2つのユーロとW杯のタイトルを勝ち取った。いずれも試合内容ではっきりとレベルの差を見せつける、王者にふさわしい戦いぶりで制した3大会を経て、現在のプレースタイルは揺るぎなきアイデンティティーとしてこの国のフットボールに根付いた。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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