彦根東、元投手が配球読んで逆転弾 真っ赤なアルプスの大声援も後押し
サインに首振ったのを見て直球狙いへ
元投手らしく、マウンド上の慶応・生井の2回の首振りからストレートに絞って逆転3ランを放った高内。後ろに見える真っ赤なアルプスの大応援団も後押しした 【写真は共同】
「すごい応援。力をもらおう」
彦根東(滋賀)のモットーは、“赤鬼魂”だ。彦根藩祖・井伊直政が赤い鎧兜で軍勢を率い、“赤鬼”と恐れられたのが由来。彦根東は彦根藩藩校だった「稽古館」(のちに弘道館に改称)の流れを汲み、校舎が彦根城の敷地内にある。だから、ぎっしりのアルプスが赤く染まっているのだ。
場面は、逆転され、1点を追う8回2死一、三塁。2ボール2ストライクから、高内は慶応(神奈川)の投手・生井惇己が2回、サインに首を振るのを見た。昨年の6月、投手から捕手に転向した高内。バッテリー心理はよくわかる。
「強気な投手。首を振るのは、得意な球を投げたいということだ。よしっ、内角ストレート狙い」
読みどおり、やや甘い131キロを強振すると、打球は左翼ポール際に飛び込んだ。逆転3ラン――。
進学校、左腕エースと似たもの対決
「伝統校で、はつらつと試合を楽しみながらやっている印象。いいチームと試合をさせていただけるのは喜びです」(村中監督)
両校はほかにも、9年ぶりの出場でともに進学校というのも共通点。彦根東の2017年度の進学実績では京都大5人、大阪大11人など、現役で国公立に149人が合格している。慶応は同じ年度、ほとんどすべての卒業生が慶応大に推薦合格した。
就任後初めての甲子園出場という慶応・森林貴彦監督は、「進学校で、頭を使いながら野球をするという部分は同じなのかな、と思います。ただ、(データなどに)頼りすぎたら感性が鈍る。情報におぼれず、感性を大事にしていきたいです」。
左腕エース、というのも似通っている。慶応の生井は、130キロ台後半のストレートとスライダー、チェンジアップのコンビネーションが武器。昨秋の公式戦ではイニング以上の三振を奪い、防御率2.15と安定している。彦根東の増居翔太は、昨夏の甲子園、開幕戦という緊張がありながら波佐見(長崎)に5失点完投勝利。最速138キロだが、京都大志望という明晰な頭脳も、投球術にはプラスだろう。ちなみにその増居、大会期間中も時間を見つけて勉強をしているとか。
甲子園での実績は、慶応が上か。1888年創部で、普通部、商工時代を含めて夏は17回出場のうち1916年には優勝を飾り、20年にも準優勝を果たした。春は9回目の出場で、2回のベスト8がある。彦根東は、甲子園出場が春夏6回目。ただ彦根東は、昨夏甲子園初勝利を記録しており、チームとしては初の2季連続出場と充実ぶりが著しい。
エース増居も一冬越えて140キロ
彦根東の増居−高内バッテリーの真骨頂はここからだ。なおも無死一、三塁のピンチに、まず生井をオール直球で空振り三振。「増居が一番自信を持っている球を信じました。変化球を打たれたら、悔いが残りますから」とは高内だ。もともと、スピン量が多いという増居のストレート。慶応の森林監督が「球速以上にいい」と見たように、終わってみれば9三振を奪うことになる。
さらに、なおも続く1死一、三塁のピンチ。彦根東は、「このチームは終盤に得点できる自信がある。だから1点を惜しむ前進守備ではなく、中間守備で」(今井怜央遊撃手)と併殺網を敷くと、1番の宮尾将をまんまとセカンドゴロ併殺打に打ち取った。ピンチを脱した8回には、今井の自信どおりの逆転劇だ。進学校らしい野球IQで配球を読んだ殊勲の3ランを、高内が振り返る。
「昨夏は、甲子園直前でベンチから外れた悔しさがありました。センバツの初勝利で、新しい歴史を作れたと思います」
ここのところの不調もあり、この日は秋の4番から6番に降格。だが村中監督は、やってくれそうな予感があったという。
「1打席目からタイミングが合っていましたし、これまでにないスイングをしていた。昨日までとは別人でした。また増居も、冬のトレーニングや理学療法士の指導でフォームが安定した。この大舞台で、いままで見たことない140キロですから」
結局、4対3。伝統校・進学校対決を制した彦根東の次戦は第9日、相手は花巻東だ。
「2013年の夏に先輩たちが対戦し、負けている相手。やりたいな、と思っていたので、うれしいです」
キャプテンでもある高内が、満面の笑顔で締めくくった。
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