「若者に人気がある種目が伸びていく」 スポーツクライミングが示す五輪の新潮流

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“新しい五輪の楽しみ方”を提案

 スポーツクライミングが注目されるのにはもう1つ、競技とは別の理由がある。

 国際オリンピック委員会(IOC)は、若年層の五輪離れなどを懸念し、14年に中長期改革「アジェンダ2020」を発表した。その目玉施策の1つが、開催地の提案による種目追加だった。今回スポーツクライミングやスケートボード、サーフィンなどが採用されたのには、若者への五輪の普及を図りたいIOCの意向が色濃く反映されている。いわば、五輪の未来が託された存在なのだ。

 実際、スポーツクライミングは競技性の高いスポーツでありながら、ライティングや音楽による演出などエンターテインメント性を兼ね備えており、既存の五輪スポーツにはない魅力がある。それは、新採用された他のアーバンスポーツも同じだ。若者を振り向かせる試みは、同時に“新しい五輪の楽しみ方”を提案していくことにもつながる。

ライティングや音楽による演出が行われるのもスポーツクライミングの魅力の一つだ 【写真:アフロスポーツ】

 果たしてIOCの思惑通りとなるか。鍵となるのは、現在IOC調整委員会が東京2020大会組織委員会と検討している「アーバンクラスター構想」だ。アーバンスポーツを都心臨海部に集めて若年層を中心としたにぎわいを生み出す計画で、フランスで行われた「FISE(エクストリームスポーツ国際フェスティバル)」をモデルとしている。東京五輪では、青海エリアにスポーツクライミングとバスケットボール3人制、隣接する有明エリアにスケートボードとBMXスタイルフリーの会場を集結させる予定。尾形氏は「まさしく(IOCの)トーマス・バッハ会長が言うように、若者に人気がある、こういう種目がどんどん伸びていくのではないでしょうか」と述べた上で、五輪そのものが転換期を迎えていると話す。

「われわれの世代では、冬季五輪と言ったら大回転やアルペンがメインだったのが、いまやスノーボードで考えられないようなアクロバティックなことをやりますよね。流れはそう来ているのかなと思います。だから、スポーツクライミングも『えー! こんなところを!?』というのが見る人の関心ではないかと。
 1956年の戦後復興間もないころに、猪谷千春さんが(コルチナ・ダンペッツォ五輪の)アルペンスキー男子回転で銀メダルを取り、その年に日本山岳会が(ヒマラヤ山脈で未踏の8000メートル峰だった)マナスルに登頂した時代から60年以上過ぎましたが、五輪そのものも変わるのは仕方のないことです。だから、バッハ会長も真剣に考えて、アーバンスポーツを取り入れたのではないでしょうか」

すべて東京五輪に懸かっている

ヒマラヤを駆け抜けたアルピニストでもある尾形氏。2021年以降も見据えて「すべて東京五輪に懸かっている」と語る 【スポーツナビ】

 スポーツクライミングの実施が決まっているのは、20年東京のみ。ただし続く24年パリ、28年ロサンゼルスは、ともに開催国がスポーツクライミングの強豪。東京五輪で成功を収めれば、2都市とも開催地の追加種目として提案する可能性が十分にある。

 尾形氏は、国際スポーツクライミング連盟としては、願わくは本来のリード、ボルダリング、スピードの種目別での正式競技入りも念頭に入れているのではとの見方を示す。そうなれば、選手も専門種目に専念できるし、スポーツクライミングの五輪における存在感も高まる。そのためには、東京五輪を成功させることが絶対条件だ。

「その分、プレッシャーはかかりますよ。すべて東京五輪に懸かっていますから」

 こうしてスポーツクライミングを取り巻く状況を見てみると、さまざまな人たちの期待と思惑の中で、2020年が五輪全体の一つの分岐点に位置付けられている様子が分かる。東京でどんな成果が残せるか。それが2021年以降のスポーツクライミングの、そして120年以上続く近代五輪の新たな未来を形作ることになるだろう。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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