八重樫東、再起戦快勝も不安を残す Sフライ転級に頭と体のギャップ感じる

船橋真二郎

2回TKOの快勝も「思ったように動けなかった」

10カ月ぶりの再起戦は2回TKOの快勝となった八重樫(左)。しかし、本人は不満も残った 【写真は共同】

 10カ月ぶりのリングはほろ苦かった。プロボクシングの元世界3階級制覇王者、八重樫東(大橋)が3月26日、東京・後楽園ホールで行われた再起戦に2ラウンド2分24秒TKO勝ち。インドネシア・フライ級王者の肩書きを持つフランス・ダムール・パルーを2ラウンドに3度倒し、戦線復帰を果たした。

「今日はやりたいこともできなくて、練習してきたこともできなくて、硬かったですね。怖くもあり、いろいろなことを考えちゃって……。でも、こうやって戻ってこられて、すごく楽しいところだなというのを思いますし、やっぱりリングはいいですね」

 試合直後、久しぶりの『アキラ・コール』に包まれながらリング上で行われたインタビューと同様、八重樫の動きはどこか歯切れが悪かった。

 前に出てくる相手に対し、1ラウンドは足を使いながら探るように試合を進め、2ラウンドからは足を止めて接近戦で攻め落とした。ボディを効かせ、打ち下ろすような右でキャンバスに這わせると、再開後、さらにロープに詰めて連打でダウンを追加。最後は左ボディで沈め、レフェリーがストップしたが、「力技ですよね。思いのほか、思ったように動けなかった自分自身に情けなさを感じました」と苦笑いを浮かべた。

「ずっと出入りのボクシングを練習してきたので、それをやりたかったんですけど……。調整段階では、すごく上手くいって、自分に期待感もあったのでガッカリ……」

スーパーフライ転級で「伸びしろ」を感じていた

 昨年5月、ミラン・メリンド(フィリピン)の前に立て続けに3度のダウンを喫し、まさかの1ラウンドTKO負け。IBF世界ライトフライ級王座から陥落した。八重樫自身はすぐに練習を再開し、現役続行の意欲を示したが、“激闘王”の長年のダメージの蓄積を心配する声も少なくなかった。

 八重樫の思いをくみ取りながらも大橋秀行会長は結論を保留。時間をかけて八重樫の動きを確認し、スパーリングの中でダメージを慎重に見極めた。現役続行を正式に発表したのは昨年10月。同時に2階級上げて、スーパーフライ級で日本人初となる4階級制覇を目指すことを宣言し、今回がその第一歩だった。

 とはいえ、相手は生粋のスーパーフライ級ではなく、20勝(12KO)18敗2分の戦績が示すように力の差は明白。相手どうこうではなく、「明日は自分の体の動きを確認したいのが一番」と八重樫も話していた。ライトフライ級では「筋肉を削る部分が多少あった」と厳しい減量を強いられたが、階級を上げたことで前日計量後の表情は明るかった。

「体重の心配がないので最後までしっかりトレーニングできたし、いろいろ試したかったこともできて、収穫があった」

「筋量(を増やすこと)もそうだし、まだやれることがある」と、スーパーフライ級への適応はこれからとしながらも調整に手応えを感じ、その“これから”という部分、つまり伸びしろがあることにも喜びを感じている様子だった。

1/2ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント