中島のデビュー弾もかすむ深刻な課題 テスト重視で試合のテーマ設定が曖昧に

宇都宮徹壱

「仮想セネガル」としてのマリについて

「仮想セネガル」として行われたマリ戦。観客もまばらな平日午後のスタジアムで日本が突きつけられたものとは? 【Getty Images】

「仮想セネガル」、そして「仮想ポーランド」──ベルギーはリエージュにて日本代表が対戦するマリとウクライナは、そのように位置づけられている。「仮想××」というのは、ワールドカップ(W杯)の組み合わせが決まり、3月のマッチメークをする際の重要なキーワードだ。ちなみに日本と同じグループHのライバルたちの対戦カードは、セネガルがウズベキスタンとボスニア・ヘルツェゴビナ、ポーランドがナイジェリアと韓国、そしてコロンビアがフランスとオーストラリアとなっている。

 このうちセネガルとポーランドは、グループHのライバルを意識していることがうかがえる。しかしコロンビアについては、本大会に出場する強豪と積極的に力試しをしようとする意図が明確だ。日本が今回重視したのは、本大会での対戦相手にできるだけ似たタイプとのマッチメーク。そんな中、「仮想セネガル」としてマリを選んだのは、絶妙なチョイスであった。W杯出場経験の有無という違いはあるものの、同じ西アフリカのフランス語圏でイスラム教徒が多いなど、セネガルとマリの共通点は少なくない。ちなみにサッカーのシステムも、現在は両チームとも4−3−3を採用している。

 もっとも、こうした類似性はあっても、サッカーの実力となると話は別だ。最新のFIFA(国際サッカー連盟)ランキング(3月15日付)によればセネガルが27位、マリはかなり落ちて67位。今回のW杯最終予選でセネガルはグループ首位で4大会ぶりの出場権を獲得したが、マリはグループ最下位で予選敗退。モロッコやコートジボワール、そして侮り難いガボンと同じグループに組み込まれ、実力相応の結果に終わった。

 今回のメンバーには、モウサ・マレガ(FCポルト/ポルトガル)やバカリ・サコ(クリスタル・パレス/イングランド)といった主力をけがで欠いていることもあり、若手主体のメンバー構成となっている。スターティングイレブンの平均年齢は22.8歳。チームを率いるモハメド・マガスバ監督は、「われわれのU−17代表はアフリカで2度優勝していて、U−17W杯でも2度ベスト4に入る結果を残している(いずれも2015年、17年)。チームは若いタレントがそろっており、モチベーションも高いので、次の4年間はさらに良くなるだろう」と前日会見で語っている。果たしてこの試合では、どれだけの野心をもって日本に挑んでくるのだろうか。

「予定していた選手」の不在がもたらしたもの

スタメンは全体的に「テスト」の要素が強い顔ぶれが並んだ 【写真:高須力】

 試合が行われたのは、スタンダール・リエージュのホームグラウンド、スタッド・モーリス・デュフランである。キャパシティーは2万7670人だが、金曜日の13時20分キックオフなので、当然ながらスタンドはガラガラ。記者席から見て左側のゴール裏は、日本代表のサポーターが陣取っていたが、もちろん大人数というわけではない。マリのサポーターも、目視した限りではほぼゼロ。バックスタンドにちらほら観客の姿が見えたが、双眼鏡で確認すると、ほとんどが日本人であった。ざっと見たところ、この日の入場者数は300人くらいだろうか。日本の視聴者に合わせて、この時間に設定されたことは重々承知している。それでも、現場の生ぬるい空気感が何とも気になって仕方がなかった。

 前述のとおり、この試合を臨むにあたっての日本の一番のテーマは「仮想セネガル」である。しかし一方で、メンバー選考の場というもうひとつの重要なテーマも見逃せない。もっともそのテーマは、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督にとって決して望ましいものではなかった。それは「4〜5人ほど予定していた選手が来られなかったので、今いる選手で戦わないといけない」という発言からも明らかである。「予定していた選手」とは、負傷のために招集が見送られた、吉田麻也であり、酒井宏樹であり、そして香川真司であろう。そうした中、指揮官が選んだスターティングイレブンは、以下のとおり。

 GK中村航輔。DFは右から宇賀神友弥、昌子源、槙野智章、長友佑都。中盤は守備的な位置に長谷部誠と大島僚太、右に久保裕也、左に宇佐美貴史、トップ下に森岡亮太。そしてワントップに大迫勇也。全体的に「テスト」の要素が強い顔ぶれだ。とりわけ右サイドバック(SB)で重用されてきた酒井宏の不在が、指揮官を大いに悩ませたことは容易に想像できる。導き出された結論は、左サイドが主戦場だった宇賀神を右に回すことであった。おそらく当人も驚いたことだろう。それでも、30歳の誕生日に訪れた代表デビューのチャンス。ポジティブに受け止めてほしいところだ。

 右SB以外にも、ゴールマウスに収まった中村、昌子と槙野のセンターバックコンビ、W杯最終予選の初戦以来となる長谷部と大島の組み合わせにも、「この機会に試しておきたい」という指揮官の強い意図が感じられた。さらに言えば、久々に代表に復帰した長谷部と宇佐美をスタメンで起用し、本田圭佑をサブに回すあたりにも、本大会を見据えたハリルホジッチ監督の優先順位を見て取ることができる。「仮想セネガル」と「新戦力の発掘」に加えて、チーム内の序列の再構築という点においても、このマリ戦は極めて興味深い一戦となるはずであった。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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