成田緑夢、大一番で働いた競技者の勘 金メダル獲得で「人の光になれれば」

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成田緑夢(写真)がスノーボードのバンクドスラロームで金メダルを獲得。パラリンピック初出場ながら主役の一人となった 【写真は共同】

 平昌の地で、グリム伝説が生まれた。

 16日に行われた当地でのパラリンピック、スノーボードのバンクドスラロームで、成田緑夢(近畿医療専門学校)が優勝。今大会における日本勢2個目の金メダルを獲得した。ベストタイムは48秒68。

 成田は今大会がパラ初出場にもかかわらず、12日のスノーボードクロスで銅メダルに輝くと、上記のとおり2種目めでは表彰台の頂点へ。平昌から新たに独立(前回2014年ソチ大会ではアルペンスキーの1種目として実施)した同競技において、主役の一人となった。

2本目で唯一の50秒台切り

 バンクドスラロームは旗門の設置されたコースを滑り、その滑走タイムを競う種目。コースには傾斜のついたカーブ(バンク)やコブが複数設けられ、テクニックとスピードの両面が求められる。選手には3回の滑走機会が与えられ、その中で最も速いタイムが記録となり、順位決定がなされる。

 左ひざから下の感覚を失う「腓骨神経まひ」の障がいを持つ成田は、LL2クラス(ひざより下の障がいを持つ選手が対象)の1番滑走でコースに向き合った。バンクドスラロームという種目は一度滑走順が決まると、3本とも同じ順番で滑るのがルール。常に先行する形となった。

 前夜からの冷え込みと雪で、バーン状況は成田いわく「カチカチ」だった。実際多くの選手が、凍っていた雪質に足を取られ転倒。しかし、そのコースを成田は持ち前のバランス感覚で乗り切り、1本目、2本目とそれぞれ全体1位のタイムをマーク。特に2本目はそれまでの唯一となる50秒台を切る49秒61をたたき出した。

勝負の3本目でも守りには入らず

勝負の3本目でも守りに入らず、新たなチャレンジを選択。その攻めの姿勢が結果につながった 【写真は共同】

 ただ、この時点で1位に立っていたことを成田は不安視していた。

「1本目と2本目で1位のポジションだったのは、すごく嫌だったんですよね。なぜならば、3本目に巻き返される可能性があったから」

 バンクドスラロームは本来、1本目をピークにどんどんタイムが出なくなるようにセッティングされるのが通例だが、この日は本数が重なるごとにタイムが伸びていく状況だった。他のクラスでも同様の現象が見られたことを成田は確認しており、3本目は「パーフェクトなランをしないと表彰台に乗れない」と、アスリートとしての勘が働いた。大一番で新たなチャレンジを選択した。

「前半のバンクで、今までは乗りにいっていたところですけど、それを上から切りにいきました。成功する保証はなかったですね。1回もやったことなかったし。でも、他の選手の滑りを見て『あれはいける可能性があるな』と、少しでも可能性が見えた。別に守ることはないし、大会でのテーマが『常に挑戦』だから挑戦しました」

 バンクを上から切りにいくことで最短距離を走り、タイムの短縮を図った。転倒のリスクも背負うが、ここで守りに入らず、大会中のテーマに掲げる「常に挑戦」の名のもとに攻めにいく。実にらしい滑りを敢行した結果、2本目より1秒ほど速い48秒68をマーク。優勝をその手にたぐり寄せた。

 なお、成田の予想通り、ライバルたちも3本目でこぞってタイムを上げ、エバン・ストロング(米国)とマッティ・スールハマリ(フィンランド)の2人がそれぞれ49秒20、49秒51を記録。守りに入って2本目を下回るタイムだったら、頂点に立つことはなかった。

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