好対照な世界王者 拳四朗×京口紘人対談 日本人同士で対戦するなら王座統一戦で

船橋真二郎

サウスポー対策は死角からのボディ攻撃

左ボディが武器の京口。サウスポー相手では外からたたいていく 【写真は共同】

――技というか(笑)、京口選手は、辰吉さん直伝の左ボディが得意で。拳四朗選手の場合は、アマチュア時代はボディをあまり打ってなくて、プロでうまく使えるようになってきたと。

拳四朗 最近ですね。

京口 ゲバラ戦では、後半にボディを効かせて、最後は足止めて打ち合いましたもんね。僕としては、ゲバラのほうがロペスより強いイメージですけど。

拳四朗 うまさ、やりにくさはロペスのほうがあるかな。

京口 マジっすか。

拳四朗 サウスポーっていうのもあると思うけど。(プロで)サウスポーとある?

京口 あります。東洋の決定戦もサウスポーやったんですけど、それこそ左ボディ一発でもん絶やったですね、3ラウンドで。外からバコーン、ボディをたたいて。

拳四朗 サウスポーに外から左ボディって?

京口 外からたたく感じです。このへんを打つイメージですね(と拳四朗に実演)。

拳四朗 結構、後ろやな。

京口 (急所の)肝臓は、前からだけじゃなくて、後ろからたたいても有効ですからね。背中はダメ(反則)ですけど、ギリギリのところですね。

拳四朗 基本、後ろを狙うん?

京口 いや、そんなことはないですけど。サウスポーだったら、外からですね。見えない死角(背中側)から。

拳四朗 それは意識してなかったな。

――ロペスとの再戦に向けて、いいことを聞きましたね。

京口 引き出しとして。近い距離になったら、背中側からたたくとか。外側は見えないんで。

拳四朗 絶対に接近戦にはなると思うし。ほんまや。いいこと聞いたな。

内山直伝の教え「ジャブは目を狙う」

ジャブの質が上がってきた拳四朗。今のところはまず顔を狙ってというのが基本だと話す 【写真は共同】

――そういえば京口選手は、昨年大晦日のカルロス・ブイトラゴ(ニカラグア)戦の試合中、ジムの先輩の内山(高志)さんが、ジャブは目を狙うと言っていたのを思い出して、狙ったと。拳四朗選手はジャブを大切にしていますけど、どこを狙いますか?

拳四朗 いや、どこを狙うとか意識してないです。とりあえず、顔。

京口 空いてるところでしょ? 空いてるところもいいですけど、目を狙うのいいですよ。

拳四朗 へえ。効くんかな。

京口 いや、腫れますよね。三浦(隆司)戦の内山さんがそうでしたけど、そうだ、目を狙うと言ってたなと思って。ブイトラゴもめっちゃ腫れましたね。

拳四朗 どんな視界になるんやろ? 見にくいっていうもんな。メンタルやられそう。

京口 視界がさえぎられると、やっぱり動きも落ちますからね。

――動揺して、集中力も散漫になるでしょうしね。

京口 焦りますね。フェイントにも引っかかりやすくなるし、相乗効果が出ますね。

拳四朗 当たるもん?

京口 当たります。8オンスなんで。スパーの14オンスとかだと当たらないですけど、でも目を狙う意識づけをすれば、試合でも出るし、縦(拳)で打てば、ガードの間からでも入るんで。寺地さん、肩入れますよね?

拳四朗 うん。入れる。

京口 メキシカンも肩入れますよね。これで3、4センチ違うんで。伸びるから。

拳四朗 それデカいもんな。ちょっとの差が。

王者の試合前日の過ごし方は?

世界戦を戦うようになり、試合前日でも肉が食べられ、試合前も楽しめるようになったと話す拳四朗 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

――昨年はチャンピオンになって、また今年はチャンピオンとして新しい1年を迎えますね。

京口 大晦日はホッとしました。チャンピオンで年越せるって。

拳四朗 そうそう。それ大きい、大きい。

京口 負けて年越すのは嫌やなと思って。

拳四朗 嫌やな。めっちゃ分かるわ。

――そういえば前日に拳四朗選手が4ラウンドKOで勝って。

京口 そうです、そうです。4ラウンド終わったときに「寺地さん、ここで終わってたんや。くそーっ」と思って。

拳四朗 そんなん考えてたん? 逆にすげえな(笑)。

京口 韓国料理屋でサムゲタン食いながら見てましたよ(笑)。

拳四朗 それ、毎回行くん?

京口 そうです。ないですか? 計量後の勝負飯。あ、肉食ってますよね。

拳四朗 肉食うな。

京口 肉食って、よう動けますね。

拳四朗 こだわりないから。前回は計量終わりが肉、夜もごりごりの霜降り食ったしな。

京口 絶対に食えないですけどね(笑)。しかも前日、(後楽園)ホールに観戦に行ってませんでした? どんだけ図太いんですか? びっくりですよ。ましてや世界戦の前ですよ。

拳四朗 世界戦から寝られるようになったし。

京口 え? 世界戦から寝られるようになったんですか? え? どういうことですか?(笑)

拳四朗 俺も分からへん。

京口 僕は世界戦から寝られなくなりましたよ。

拳四朗 逆やん。それまでは、前日は寝られなかったな。

京口 僕は7月に入ってから(世界初挑戦は7月23日)、不眠症が続きましたね。やっぱり、試合のイメージをするじゃないですか。興奮するんですよね。寝られないです。

拳四朗 何も考えてへんねん(笑)。入場とかも楽しめるようになってきたし。

京口 さすが北斗神拳ですね(笑)。

現実的なのはアジアで稼げるボクサー

ジムの先輩である田口(左)はライトフライ王座を7度防衛。京口は1度の防衛でもすごいとあらためて感じたと話す 【写真は共同】

――拳四朗選手は、4月15日に3度目の防衛戦(※)が決まっていて、京口選手の2度目の防衛戦は5月か6月頃の見込みです。今年1年は、どういうイメージを持っていますか?
(※3月8日に日程が5月25日の大田区総合体育館に変更と発表)

拳四朗 そこまで変わらないですね。1戦1戦、勝つぐらいの感じです。

京口 僕は、ミニマム級の価値を高めないとっていうのがあるんで。軽量級らしくない試合をするというか、迫力のある、見応えのある試合を見せないと。大吾なんか、すごいですよね。フライ級やのにばかばか倒して。

拳四朗 全部やもんな。え? KOは?

京口 7です。9勝7KO。

拳四朗 うわっ、(KO率)高いな。

京口 12勝6KOでしたっけ?

拳四朗 半分。でも、前までは、勝てばええかなと思ってたけど、最近、変わってきたかな。倒したほうが見てる人も楽しいやろうし、勝ち方を意識するようになってきた。

京口 KOは醍醐味じゃないですか? けど、KOだけがボクシングじゃないと言うボクサーがいるんですよ。それは逃げやって、思いますけどね。確かに何もさせずにフルマークもすごいんですけど、ベストではないと思うんですよね。なおかつギブアップさせる、倒すのが、僕は究極やと思うし、そこを追求して、結果的に判定はありだと思うんですよ。まあ、これが正解かどうかは分からないですけど、僕の持論はそうです。

拳四朗 それは分かるけどね。KOした方が見てる人もはっきりするし、人気も出るやろうし。

――その上で将来的には、どのようにというイメージは持っていますか?

京口 パッとは出てこないですね。世界チャンピオンになるまでが、すごい目標やったんで。その先って、まだ。

拳四朗 出てこないな。

京口 井上尚弥君ぐらいになったら、ラスベガスに出たいとか。僕らは現実味ないでしょう? ましてやミニマムは需要がないんで。まあ、海外ならアジアでスターになる、ですかね。

拳四朗 香港とか出たいよな。

京口 ヤバいですよ。ジムの先輩の河野(公平)さんがレックス(・チョー/香港)とやったときに行かせてもらって。会場は8000人やったんですけど、すごかったですよ。スーパースターが試合してるぐらいの盛り上がりで。僕をプロデュースしてもらって、あそこのリングに立ったら、スターになる自信ありますね。

――今、木村翔選手(青木/WBO世界フライ級王者)が中国で人気ですね。

京口 やっぱり、ゾウ・シミン(中国)を向こうでぶっ倒したのが大きいんじゃないですか。

拳四朗 へえ。向こうに行ったら、どんなんなるんやろな?

京口 すごいらしいですよ。写真とか、サイン攻めで。卓球の福原愛さんの次に有名って言われてますよね。

拳四朗 マジで!? すげえな。向こうでやりたいな。

京口 僕らはラスベガスでやるとかより、そっちのほうが現実味あるんで。

拳四朗 アジアで稼げるんやったら、そっちのほうがいい気もするしな。

――木村選手がいるのは、日本人ボクサーにとっても大きいかもしれないですね。

京口 日本人ボクサーのパイオニアじゃないですか。アジアを開拓する。

――ところで、ふたりは階級も近いですが、プロで試合をするイメージはありますか?

京口 ないですね。2年後にまだ寺地さんがライトフライだったら、全然ありですけど。

拳四朗 2年後になってみないと分からへんもんな。

京口 でも、やるならチャンピオン同士でやりたいですね。日本人とは。

――王座統一戦という形で。

京口 日本人同士やったら、国内でサバイバルマッチしてからやればいいんで。今は4団体もあるし、だったら違う団体を獲って、統一戦のほうが構図的にはいいかなって。チャンピオンもチャレンジャーも日本人やったら、日本タイトルマッチと言われても。

拳四朗 一緒っちゃ、一緒やな。

京口 知名度がある同士ならいいですけどね。だから、WBOの山中(竜也/真正)選手にはまったく興味ないです。彼がもっと防衛して、僕も防衛してる状態やったら、いいけど。

――拳四朗選手の場合は、ここのジムに同じ階級の統一チャンピオン、田口良一選手がいますね。

拳四朗 すごいっすよね。いずれは僕も防衛を重ねて、挑戦できたら。

京口 そうですよね。価値が高まったときにやるのが。

拳四朗 それが一番、盛り上がるよな。

京口 この立ち位置になって、初めて先輩方のすごさが分かりましたね。僕は、まだ1回防衛じゃないですか。寺地さんは、2回じゃないですか。田口さんは、7回ですよ。内山さんは、11回ですよ。ヤバくないですか?

拳四朗 3年で7回?

京口 そうです。2014年(の大晦日)に獲ったんで。

拳四朗 3年間、負けてないんや。すごいな。

京口 自分は、まだ1戦ですけど、世界戦はいろんな人が動いてくれて、自分だけの問題じゃないし、いろいろなプレッシャーの中で1戦1戦やっていくんで。これを7回もこなしてるのは、すごいことですよ。世界戦ですからね。僕も、いつ負けるか分からないですし、防衛1回がやっぱりデカいです。

拳四朗 誰でもそうやんね。いつ負けるか分からないもん。1戦1戦、勝っていかんとね。

■拳四朗(けんしろう)プロフィール
1992年1月6日生まれ、京都府城陽市出身。12勝6KO無敗の右ボクサーファイター。奈良朱雀高3年時のインターハイで準優勝、国体3位。いずれも当時高校1年の井上尚弥に敗れた。主将を務めた関西大では国体優勝、全日本選手権準優勝の実績を残し、2014年8月にプロデビュー。2015年10月にWBC・ユース王座、同年12月に日本王座、翌年8月に東洋太平洋王座と着実にステップアップ。昨年5月、WBC世界ライトフライ級王者となり、現在2度防衛中。5月25日、大田区総合体育館で3度目の防衛戦を控える。

■京口紘人(きょうぐち・ひろと)プロフィール
1993年11月27日生まれ、大阪府和泉市出身。9勝7KO無敗の右ファイター。大阪・伯太高3年時に国体に出場するも初戦敗退。相手は当時高校1年の田中恒成だった。主将を務めた大阪商大では国体優勝、全日本選手権準優勝の実績を引っ提げ、2016年4月にプロデビューすると2017年2月に東洋太平洋王座を獲得。同年7月、国内史上最短期間となるデビューから1年3カ月でIBF世界ミニマム級王者に。同年の大晦日、ランク最上位の指名挑戦者カルロス・ブイトラゴ(ニカラグア)を8回TKOで退け、初防衛に成功。

3/3ページ

著者プロフィール

1973年生まれ。東京都出身。『ボクシング・ビート』(フィットネススポーツ)、『ボクシング・マガジン』(ベースボールマガジン社=2022年7月休刊)など、ボクシングを取材し、執筆。文藝春秋Number第13回スポーツノンフィクション新人賞最終候補(2005年)。東日本ボクシング協会が選出する月間賞の選考委員も務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント