メダル争いのカギとなった“表現力” 安藤美姫が平昌五輪の女子FSを解説
金メダルを獲得したのは、自己ベストを更新したアリーナ・ザギトワだった 【写真:ロイター/アフロ】
金メダルを獲得したのは、合計の自己ベストを更新して239.57点をマークしたショートプログラム(SP)首位のアリーナ・ザギトワ(個人資格(ロシア))。2位には238.26点のエフゲーニャ・メドベージェワ(個人資格(ロシア))、3位には231.02点のケイトリン・オズモンド(カナダ)が入った。
この女子FSの結果を受けて、2007年と11年の世界選手権を制し、06年トリノ大会、10年バンクーバー大会と2度の五輪に出場した安藤美姫さんに各選手の演技や、勝負を分けたポイントを解説してもらった。
上位3選手は自分のキャラクターを理解している
上位3選手は内側から出てくる自分のキャラクターを分かって演技している、と安藤さん 【写真:ロイター/アフロ】
メダルには惜しくも届きませんでした。フィギュアスケートは結果だけではありませんが、あえて上位3選手との差を挙げるとすれば、表現力やジャンプの質という部分になってくるかと思います。3選手は、内側から出てくる自分のキャラクターを分かって演技していると思います。
優勝したザギトワ選手は15歳と若いぶん、他の選手と比べてシニアらしい表現力では劣っていますが、その代わりにジャンプで表現してきます。すべてのジャンプを基礎点が1.1倍になる後半にきちんと跳んできます。また、彼女の若さを出すのに『ドン・キホーテ』という選曲も非常に良かったと思います。多くの人が知っている『ドン・キホーテ』の物語を頭に浮かべながら、彼女の演技を見る。そこにザギトワ選手の色があります。
メドベージェワ選手も18歳と若いですが、ここ2、3年トップに君臨していて、最終滑走の重圧の中、雰囲気を変えてしまう力があります。『アンナ・カレーニナ』を滑りこなすのは本当に難しいのですが、感情豊かな表現ができ、そこに彼女のキャラクターが垣間見えます。振り付けをこなすだけではなく、彼女の内側からは「私を見て」という思いがすごく出ていました。
一方、3位のオズモンド選手は正統派の演技をします。昔からの北米選手らしい演技で、『ブラックスワン』を女性らしく、映画を思い出せるように、最後に羽が開いて羽ばたくという背景が見えてきます。彼女の良い部分は力強さやダイナミックさで、それはザギトワ選手やメドベージェワ選手にない魅力です。それを存分に見せつけたFSの演技は圧巻でした。
宮原選手に必要な“新しい風”
安藤さんはGOE(出来栄え点)での加点が足りなかったことが、宮原がメダルに届かなかった要因の1つと分析 【写真:ロイター/アフロ】
ジャンプの質については、団体戦で回転不足を取られながら、この個人戦できちんと修正してきたのは素晴らしかったです。しかし、GOE(出来栄え点)での加点がFSでは特に大きく勝負を左右してきます。今回はその差が結果につながってしまい、メダルには届きませんでした。
内側からにじみ出てくる表現というのは簡単に身につくものではありません。それは宮原選手が普段の生活の中で得ていくものです。宮原選手はこれまでもストイックに体調管理をしてきたと思います。そのストイックにやってきた成果が、今回の演技には出ていました。コツコツ努力をして、それを自信に変え、この舞台で力を発揮したのは素晴らしいです。
さらに、スケーターではないところの普段の生活において、たとえば、以前にインタビューなどでケガをしている間に、映画を見たり、音楽をたくさん聴いていたと話していましたので、引き続き、そういう“新しい風”を入れていくと、演技にもつながっていくと思います。これまでの生活と少し何かを変えてみる。すると新たな発見があって、それが演技につながり、内側からもっと素晴らしいものがあふれ出る演技になるのではないでしょうか。
宮原選手とオズモンド選手はFSで差がつきました。疑問を感じた方もいるかもしれません。宮原選手からも素晴らしい世界観を感じられましたが、オズモンド選手の内側から出てくるもの、あとはジャンプの流れにわずかな差がありました。FSは技が増えるので、そのぶん点差がついてしまったというのが理由ではないかと思います。