失意の渡部暁斗「もう一回登る準備を」 団体メダル逃して見えた五輪への強い思い

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骨折抱えても「こういう展開で勝てなければ」

団体メダルも逃したノルディック複合の渡部暁斗、レース後には失意の言葉が並んだ 【写真:松尾/アフロスポーツ】

 94年リレハンメル五輪以来のメダル獲得を狙った日本は、22日の平昌五輪ノルディック複合・団体戦で4位に終わり悲願を果たせなかった。1位通過を狙った前半のジャンプで3位にとどまり、後半のクロスカントリーでは途中までメダル圏内を争う粘りを見せたが及ばず、表彰台から1分ほど遠い4位に散った。

 アンカー渡部暁斗(北野建設)はゴール後、5大会連続メダルに喜ぶオーストリアチームの脇を通過していった。その表情はゴーグルの下に隠れ分からなかったが、個人ラージヒルに続いてメダルを逃すこととなった結果に失意を隠せない。試合後は厳しい自己反省の台詞が相次いだ。

「僕がやろうとしてやった結果が出ている。ある意味金メダルを取るということに関して言えば、間違った選択をしてきてしまったのかな」

「ソチ五輪の前から数えれば8年間戦ってきて、結局、何も変わらなかった。山頂を目前にして一回引き返さないといけない。一度下山して、もう一回自分を見つめ直して装備を整えて、もう一回登る準備をしようかなという感じですかね」

「自分のレベルは確実に上がっていると思うんです。良いレースもできているし良いジャンプもしているし、確実に内容が形として、ジャンプのフォームだったり走るフォーム、タイムとして表れてはきている。ただそれ以上に海外の選手のレベルも上がっている。結局、縮まらない差だったのかな」

「今から成長することは不可能。でも試合は来るので、とにかく手を抜かないで懸命に戦うしかない」

 今月2日に肋骨を骨折していたと全日本スキー連盟が明かしたのはその後だった。日本のノルディック複合を背負う大エースは、骨折しながら翌3日のW杯白馬大会で勝利をあげ、2週間も空かない14日の五輪ノーマルヒルで銀メダルを獲得していたことになる。

 その後は20日のラージヒルで5位、この日の団体戦は4位と目標には及ばず。しかし渡部暁はこの間、体の不調や痛みを一切口にせず、痛がる素振りすら見せなかった。それどころか20日には「こういう展開でも勝てるようにならないと、本物のチャンピオンにはなれない」などと、高みだけを見据え続けた発言に終始していた。

 団体戦後の失意の発言の数々は、痛みに耐えながら張り詰めた気持ちのなかで試合を重ねてきた反動の表れなのかもしれない。

団体戦はライバルに完敗

メダル争いになんとか食らい付いた日本だったが……(手前が永井秀昭) 【写真:ロイター/アフロ】

 日本が思い描いていたのは、前半のジャンプで2位以下を引き離すトップにつけ、後半の距離で粘って3位以内に滑り込むレース展開。エース渡部暁を筆頭に日本勢は今大会の個人戦ではジャンプが好調で、十分実現可能な狙いのように思われた。しかし前半を終えて首位に立ったのは、日本と同じくジャンプ先行型でメダル争いのライバルだったオーストリア。日本は19秒遅れの3位にとどまる。

「僕たちの走力を考えれば、可能であれば前半1位で折り返したかったが、諦めずにがんばりたい」(渡部暁)

 必死に上位に食らいつく姿勢は後半のクロスカントリー(距離)序盤から表れていた。1周2.5キロのコースを1人2周、4人で計20キロで争われる。1走の渡部善が後続のノルウェーと一緒に前を追い、オーストリアをとらえて2位集団を形成。終盤こそ遅れたが、スタート時オーストリアと19秒あった差を10秒にまで縮めた。

 2走のベテラン永井秀昭(岐阜日野自動車)もすぐに集団に追いつき、また終盤で離される展開となったが3走山元豪(ダイチ)へ約5秒差にまで詰めてリレーする。しかし日本の踏ん張りもここまでだった。今季急成長中の山元は永井と同じくすぐ集団に追いついてレースを進めたが、序盤のオーバーペースがたたり後半一気に失速。「経験したことがないようなペースで入った。向こう(ノルウェーとオーストリア)も僕のことを離しにかかるようなレース運びで、まんまとそれにやられた」(山元)

 渡部暁にバトンをつないだころには前と1分ほど差が開き、エースは単独走で思うようなペースをつかめなかったのか、肋骨骨折の影響か、差は詰まらずそのまま4位でフィニッシュした。

「山元豪は最初から行かざるを得なかった。今日はオーストリアが完全に上でした。ジャンプが上手でしたし、オーダーの配置など作戦勝ちでもあります。完敗です」(河野孝典コーチ)

 自らのところで勝敗を決してしまった山元は「チームは良い状態で団体メダルが狙える状態だった。チームにすごい迷惑かけて申し訳ないです」と目を赤く腫らしたが、渡部暁は「誰があそこで走っても、走順を変えたところで順位は変わらなかったと思う。これが僕らの現状のレベルだと思って受け止めるしかないですね」とかばった。

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