大野奨太、中日移籍で新発見の毎日「知らないって、もったいない」
日本ハムからFAで中日に移籍した大野。投内連係では声を張り上げ指示を出す。すでにチームの一員として溶け込んでおり、違和感は消えている 【写真=小山真司】
チーム変革のタイミングは今
──中日のユニフォームを着て約3週間が経ちましたが、チーム関係者の中でも、まったく違和感がないと評判です。
みたいですね(笑)。僕は最初、違和感はありましたけど、徐々に慣れてきて、チームに溶け込めているかな、と感じます。練習内容や流れなど、球団のシステムがまったく違う中、新鮮さを感じながらやれています。
──チームに溶け込むために心掛けていたことは?
みんなが声をかけてくれたから早かったですね。谷元(圭介/17年途中に日本ハムから移籍)さんがいてくれたのが大きかったと思います。それに、鳥取のトレーニング研究施設「ワールドウィング」で一緒に自主トレをやっている投手も多かったので、そこはまったく問題なかったですね。
──1月28日、谷元投手の誕生日祝いで、大野雄大投手、田島慎二投手と食事に出かけたそうですね。
僕の歓迎会も兼ねてもらいました。
──大野投手は「谷元さんの誕生日はついでです」と言っていましたけど(笑)。
そうなんですか? (谷元が)かわいそう(笑)。
──「チームのここを変えていきたい」などの話をしたとか。
いろいろと、チャンスだと思うんです。いいものは残しながら、良くないものは変えていく。それをいつやるかというと、このタイミングしかないと思うんですよね。いいときには変えようがないと思うし。ずっとBクラスのチームを、極端に変えることは難しいでしょうけど、ちょっとずつでも、選手やチームが変化することによって、まったく違うチームになる可能性はある。それはちょっとずつ、聞かれたら答えていこうと思っています。
──監督やコーチからのトップダウンではなく、大野投手、田島投手自身も「何かを変えていきたい」という思いがあるでしょうね。
う〜ん、それは僕には何とも。ただ、僕は初めてドラゴンズに来た立場なので、「ここがすごくいいな」と感じるところはあります。選手の中で決められる部分は決めていければいい。それがどこまでの範囲なのかというのは難しいですけど、やっぱりグラウンドでプレーするのは選手なので、本当に勝つためにどうすればいいかというのを選手同士で真剣に考えるのが一番いいと思いますけど。
──変化するために、大野選手がやってきたことはありますか。
「日本ハムってどんな感じですか」と聞かれることは多いです。やっぱり違う球団のやり方に興味はありますよね。「次々と若い選手が出てきて、結果を残せて……どうして?」って。それは知りたい人も多いでしょうし、僕が分かる範囲では答えています。
キャッチングを見直している最中
低くミットを構え、あらためてキャッチングを意識。自身のレベルアップにも意欲的に取り組んでいる 【写真=小山真司】
──大野選手のプレーについても聞かせてください。ブルペンを見ていると、ミットを非常に低く構えている印象です。
ここ数年、キャッチングが少しおかしくなってきた部分があって、昨季くらいからキャッチングを見直しながらやるという方向性を決めています。
──狙いとしては、投手に低めを意識させる?
それもありますけど、自分の中で良くないクセが出るようになってしまい、それを修正したかったのであえて下から構えて捕っています。ミットをボールの上からかぶせてしまうと、送球に悪影響を与えてしまうので、キャッチャーとして最も大切なのはキャッチングですから。そこを何とか修正しようと昨季から取り組んでいます。
──また、ブルペンでは受けている投手だけではなく、左右で投げている投手もよく見ているように感じました。
僕、人を見るのが好きなんですよ。受けている投手のことはもちろん気にしていますが、そこだけじゃ見えないものもある。隣の投手をパッと見て「今日はあまり良さそうな表情をしてないな」とか、逆に「めっちゃ良さそうに投げているな」という表情だったりだとか、「悔しがってるのかな。悔しがっていたらどんなボールを投げるのかな」とか。
──そこまで見ているんですね。
好きなんですよ。面白いじゃないですか。表情やしぐさはよく見ています。ボールに影響するというよりは、こちらが投手を把握できます。ここ一番で「このボールが使えるか」「低めに投げられるか」「冷静な判断で球を投げてこられるか」という場面があると思うんです。その状況でどういう言葉をかけるか。「ちょっと落ち着けよ」と言えるかどうか。ちょっとしたひと言があれば、投手が持ち直せるケースは結構出てきますし、反対に、淡々と投げている投手に「もっと投げてこい」と活を入れたら奮起してくれる場合もある。そこは一つひとつの表情、しぐさに現われるもので、そこを見るのが好きですね。
──これは表情ではないですが、例えばブルペンで木下雄介投手と組んだ際には、バランスについてアドバイスしたそうですね。
疲れてくるとピッチングの際に下半身がつぶれてしまい、そこで上半身がかぶさってきて、そうなるとあいつの良さが出てこない。最初に受けさせてもらったときに「すごくいいな」と感じたんです。でも、その良さが消えてしまう。どうしても低めに集めようと抑え込んでしまい、せっかく空振りやファウルを取れる高めのいい真っすぐがあるのに、自分を殺してしまうのは良くないと思ったので、見た感じを伝えました。まあ、2回目でしたからね。
──この短期間でそこまで観察しているんですね。
職業病ですね(笑)。
──ドラゴンズの黄金時代にリリーフとして活躍した小林正人広報の話ですが、谷繁元信さん(前中日監督)も非常によく周囲を観察していたそうです。投内連係などでもプレーだけではなく外野も含めて把握しており、そこが似ていると感じたとのことでした。
谷繁さんと通じるかどうかはおこがましいので、さすがに言えませんが、習慣でしょうね。グラウンドで一人だけ違う方向を向いているポジションなので、見渡したときにいろいろなところが見えるんですよね。自分のことで一生懸命になるところは絶対にありますが、そこでいかに冷静に、違うこと、違うことを考えられるか。集中し過ぎるとどうしても一本の線しか見えなくなるんですよね。そんなときにしっかり状況判断して、「この場面では何がある。何をしなきゃいけない」と考え出すと、ふと、一本だった線が広がるときがある。そうすることで「二遊間を締めないといけないな」とか「外野をもっと前に出さないといけないな」とか、どんどんいい方向に変わっていく、ということはあるかもしれません。まあ、それが正解とは言えませんし、あくまで可能性を潰していく作業です。
──ムダに終わってしまうこともあるけど……。
そうですね。でも、ムダなことはムダではないので。やる意義はあると思っています。