札幌といわきが大会を通して得たものは? 第1回「パシフィック・リム」を総括する

宇都宮徹壱

「今後も参加したいと思える大会」か?

第1回パシフィック・リムカップで優勝した札幌。果たしてこの大会は来年以降も継続するのか 【宇都宮徹壱】

 Jリーグ開幕まであと2週間と迫った2月10日、ハワイはホノルルにあるアロハ・スタジアムで開催されていたパシフィック・リムカップ決勝は、北海道コンサドーレ札幌とバンクーバー・ホワイトキャップスが対戦し、1−0で勝利した札幌が栄えある初代チャンピオンに輝いた。日本からは札幌といわきFC(東北リーグ2部)、そしてMLS(米国メジャーリーグ・サッカー)からはバンクーバーとコロンバス・クルーSCが参加したこの大会。日本ではほとんど話題になることはなかったが、J開幕を前に、あらためて総括することにしたい。

「今年(の大会が)成功したら、19年はMLSとJリーグが提携するシンボルとなるような大会にしたい。そして20年には、メキシコや韓国やタイのクラブにも声をかけて、真の意味での『環太平洋の大会』にしていきたいんです」

 今大会をプロデュースした中村武彦氏(ブルー・ユナイテッド・コーポレーション代表)は、大会前のインタビューでこのように語っていた。非常に立派なビジョンだと思う。そこで総括の指標として、まず「この大会は今後も持続し得るのか?」という問題提起を掲げることにしたい。その前提条件となるのが、日本勢とMLS勢、それぞれにとって「今後も参加したいと思える大会」であること。この大会を継続的に参加する意義とメリットを感じられなければ、他の国々を巻き込むこともおぼつかないだろう。

 あらためて、パシフィック・リムの「セールスポイント」について考えてみたい。ポイントをまとめると、「シーズン開幕前の2月に、温暖なハワイでキャンプを行いながら、普段とは異なるタイプの相手と国際試合を行うことができる」ということになるだろう。シーズンが早春に始まり晩秋に終わるのは、日本もMLSも同じ。ハワイという立地も、日本と米国西海岸から見てちょうど中間地点だ。日米(そしてカナダ)の参加チームにとって、この時期にハワイでキャンプと試合を行うことは、決して悪い話ではない。

 とりわけMLS勢にとり、このパシフィック・リムはアジャストしやすい大会であった。ハワイは米国内なので、日本と比べて時差の影響をそれほど感じることはない。また、会場のアロハ・スタジアムは人工芝のピッチだったが、普段から人工芝でのプレーに慣れている彼らにしてみれば、これもまったく問題ではなかったはずだ。となると、「今後も参加したいと思える大会」なのかという問いは、むしろ日本側に向けられることになる。

「札幌よりもコロンバスと対戦したい」いわきFC

アマチュア唯一の参加となったいわきはフィジカルと走力でMLS勢に対抗できることを示した 【宇都宮徹壱】

 今大会、個人的に楽しみにしていたのが、唯一のアマチュアチームとして参加していた、いわきである。昨年の天皇杯でカテゴリーが6つ違う札幌に対し(当時は福島県1部)、延長戦の末に競り勝つ大番狂わせを演じたのは周知のとおり。「日本のフィジカルスタンダードを変える」というテーゼを掲げ、選手いわく「ボールを使った練習よりも、ダンベルを持ち上げている時間のほうが長い」というユニークなトレーニングを続けているいわきは、ことフィジカルと走力においてはJ1クラスにも十分に対抗できることを証明してきた。そんな彼らが、体格で勝るMLS勢とどれだけ戦えるか、密かに注目していた。

 とはいえ、このチームの選手たちは、外国人選手を除けば全員がアマチュア。練習以外の時間は、ドームいわきベースという流通倉庫で毎日5時間働いている。そんな彼らが、なぜパシフィック・リムに参加できたかと言えば、アンダーアーマーが今大会のスポンサーとなっているからだ。いわきの親会社は、アンダーアーマーの日本における総代理店である株式会社ドーム。およそ130億円を投資して、流通倉庫の隣に立派なクラブハウスと人工芝のピッチを作っているくらいだから、海外での大会に参加すること自体は高いハードルではなかったはずだ。

 いわきは8日の準決勝で、バンクーバーと対戦。昨年のウェスタン・カンファレンス3位の強豪に対し、チャンスこそ限られていたものの互角に近い戦いを演じていた。後半、バンクーバーがほぼメンバーを代えてテストモードになったが(この大会は10人まで選手交代ができる)、いわきはあくまで勝負にこだわる戦い方を貫く。結局、0−0で迎えた後半45分にPKを献上。これをしっかり決められて終了のホイッスルが鳴り、いわきは武運つたなく3位決定戦に回ることとなった(余談ながらいわきは、PK戦となることを見越してGKを交代した直後、PKで失点する不運に見舞われた)。

 興味深かったのは、試合後の選手のコメントである。「3位決定戦は札幌とコロンバス、どちらと対戦したいか?」と平岡将豪に尋ねたところ、「もちろんコロンバス」と即答した。「札幌とはまたいつか対戦できると思いますが、コロンバスとはなかなかやれませんからね。(準決勝第2試合では)札幌に頑張ってほしいです」と、いささか上から目線な発言となったのが面白い。結局、3位決定戦の相手はコロンバス戦となり、3−5という壮絶な打ち合いの末に、いわきは今大会を4位で終える。それでもデュエル(1対1の競り合い)の場面では、相手選手を吹き飛ばす力強さを見せて、スタンドからは何度も「いわき」コールが起こった。

1/2ページ

著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

新着記事

編集部ピックアップ

竹田麗央が初の首位発進 2週連続優勝へ「…

ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント