小平奈緒の強さを支えた“達観” マイペース貫き、悲願の金メダル獲得

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低地のリンクで史上初の36秒台

平昌五輪のスピードスケート女子500メートルで五輪新。圧倒的な強さで悲願の金メダルを手にした小平奈緒 【写真:ロイター/アフロ】

 普段はレース後もクールな女王が、この日ばかりはあふれ出る涙を抑えることができなかった。

「周りが見えなくなるくらいうれしいです。金メダルを考えないようにしていたこともありましたが、すべてが報われた気持ちです」

 平昌五輪のスピードスケート女子500メートルが18日に行われ、小平奈緒(相澤病院)が五輪記録を更新する36秒94をマークし、金メダルに輝いた。小平はこれで500メートルにおいて国内外25連勝。圧倒的な強さで3度目の五輪出場にして悲願を達成した。

 14組のインスタートで出た小平は、最初の100メートルを10秒26で通過。しかし、同走のカロリナ・エルバノバ(チェコ)が予想以上に出だしが良く、小平は「あれ、私遅いかな」と思ったという。それでも「スケートが体の真下に入ってくる感覚がすごく良かったので、あとはそれに任せて滑れば、私らしいスケートができる」と、その後はぐんぐん加速していった。電光掲示板に映し出されたタイムは36秒94。気圧が高く、空気抵抗の影響でタイムが出にくい低地のリンクでは、史上初となる36秒台だった。その瞬間、会場内はどよめきに包まれた。

 しかし、それを打ち消すかのように韓国人が多くを占めたスタンドからは、次の組で滑る「イ・サンファ」コールが起きる。小平の最大のライバルにして、過去2大会の五輪チャンピオン。イ・サンファは勢いよく飛び出すと、最初の100メートルを小平より速い10秒20で通過した。場内は歓声で沸いたが、約27秒後、それはため息に変わる。イ・サンファのタイムは37秒33。最終組の2選手も37秒台中盤のタイムに終わり、その瞬間、小平の金メダルが確定した。

オランダで学んだ“適当さ”

周囲の期待にも「マイペースにやるべきことをやれている」と小平は語っていた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 五輪シーズンの今季、連勝記録を続けていたとあって、小平はいや応なく注目を浴びていた。期待されるのは金メダル。ただそんな状況にあっても、小平は常に自然体だった。昨年10月に行われた初戦の全日本距離別選手権を国内最高記録の37秒25で制すと、ワールドカップは4連勝。年末に行われた平昌五輪の代表選考会でも37秒13と圧巻の滑りを見せた。プレッシャーで力むこともなく、勝っても喜びはしない。淡々と1つ1つのレースに集中し、スピードやタイムを追求していく姿は、求道者そのものだった。

「(2014年の4月から)2年間オランダに行きました。そこで考えたのは自分自身とは何かということ。型にはまらないオリジナリティーが必要だと思いました」

 ソチ五輪で36種目中23個の金メダルを獲得したスケート大国のオランダ。小平がそこで学んだのは、良い意味での“適当さ”だった。「それまでは『頑張らなくちゃ』という感じでしたが、今は『何とかなる』という心構えで、待てばそのうち良くなるという考えになりました」と小平は語る。

 実際、4年前は周囲の期待と自分の実力にギャップを感じて、息苦しさを覚えていたという。メダル候補でもあったソチ五輪は500メートルで5位、1000メートルでは13位に終わった。「実力を出し切った上での完敗だった」と小平は振り返る。

「逆に今は成績が伴っていることもありますが、自覚と責任を持ちながら、自分に向き合えています。そういう意味ではマイペースにやるべきことをやれているんじゃないかと思います」

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