“氷と対話する”感覚が優れる小平の滑り 長野五輪金メダリスト清水宏保氏が解説

構成:スポーツナビ

女子500メートルで金メダルを獲得した小平奈緒(写真)の滑りを、長野五輪金メダリストの清水宏保さんが解説 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 平昌五輪のスピードスケート女子500メートルが19日に行われ、小平奈緒(相澤病院)は五輪新記録となる36秒94をマークし優勝。14日に行われた1000メートルでの銀メダルに続き2度目の表彰台となった。

 また日本女子スケート陣としては初で、男子も含めると1998年長野五輪の清水宏保さん以来、20年ぶりとなる金メダル獲得だった。

 今回のレースについて、長野五輪スピードスケート男子500メートル金メダリストの清水宏保さんに話を聞いた。

序盤にバランス崩れるも滑り切る

スタートで出遅れたように見えたが、すぐに立て直した 【写真:ロイター/アフロ】

――小平選手が実力を発揮し、見事金メダルを獲得しました。この結果については?

 僕は正直、(小平選手のレースを)ドライに見られるかなと思っていました。それは、コメントする立場として、冷静に滑りを見なければいけなかったので、正直、感情移入はできないと思っていました。それでも、いざレースが近づいて来ると、心拍数も上がりましたし、見ている方が緊張しましたね。
(それまでのタイムを見ていて)小平選手が予定通り滑れれば優勝はできるかなと思っていました。ただスケートというのは転倒があったり、スケートのブレードが氷に刺さってしまったりと、その時点で終わりになってしまうアクシデントもあります。

 また彼女のスケート人生に対する思いや、この数年間の戦ってきた思いなどを僕の中で勝手に考えてしまい、それは小平選手に限らず日本選手全員ですが、その思いを走馬灯のように思いだして、自分が滑っていた頃の思いを勝手に重ねてしまい、その時点から涙が出そうでした(笑)。実際、小平選手がスタートしてからは興奮して立ち上がって応援していました。

――その小平選手の滑りについてですが、最初の100メートルの入りが10秒26。1組後に滑る韓国のイ・サンファ選手よりはやや遅いタイム(イ・サンファは10秒20)でした。スタートに関しては?

 最初、スタートの時に小平選手がピクッと反応している姿が見られました。あれは僕も見ていて「あ、フライングを取られるかも」と思いました。そういう時は選手も心境として、「(フライングを)取られるかな」「やり直しになるかな」と思ってしまうものです。ですから心の中では迷いが生じていると思うのですが、実際ピストルが鳴ってしまいました。その迷いというのは結局、10分の何秒ぐらいの出遅れになるのですが、そのまま50メートル付近まで行ってしまいました。これはスケート選手にしか分からないレベルなのですが、その間に一度バランスを崩しかけています。

 100メートルまではもたつきながら通過したように見え、僕のイメージにある小平選手からすると「遅いかな」とも思いました。スタートからの滑りの見た目は良くなかったように思えました。それでもそんなことは関係なく、10秒2台というとてつもないタイムが出ていたので、「これはいったな」と確信し、そこで興奮しましたね。

――もたついているように見えてもちゃんとタイムを出しているということで、レースの中で修正ができていたと?

 そうですね。今の彼女は(氷に)力を伝える能力が上がっているから(出遅れは)関係なく、その後の残り400メートルは完ぺきでした。

氷に力を加える感覚が研ぎ澄まされている

小平のスケーティングは「氷との対話」する感覚に優れている 【写真:ロイター/アフロ】

――小平選手の滑りに関して「氷に力を伝える能力が上がっている」ということですが、これはどのような意味でしょうか?

 着氷した瞬間に力が加わっているのですが、たとえば人が普段歩行する際、かかとから着地をして、つま先に体重移動をしてから力を乗せて前に進みます。ただ小平選手の滑りの場合、歩行で例えるならば、かかとで着地した瞬間に全身の体重を乗せて踏ん張って前に進んでいます。つまりスケートもかかとで着氷するのですが、体重移動の時間がないに等しいと言いますか、かかとで着地した瞬間に蹴り出して前に進んでいる状態なんです。

 分かりやすい言葉で説明するのは難しいのですが、(小平選手のスケーティングは)以前より一歩一歩のストライドが伸びています。一歩が長くなっているのですが、それはかかとに(体重を)乗せた瞬間から(氷を)蹴って、しかも彼女が良く言っている「氷と対話する」「氷とケンカをしない」滑りをしています。

 なぜそういう文言になるかというと、氷というのは、力を加え過ぎると割れてしまいます。例えばアイスピックで(氷に)力を入れてたたくと割れてしまいますよね? そのように氷が割れないように、1ミリのブレードで力を加えるのですが、すると氷も陸上のタータン(陸上用のトラック)のように跳ね返ってくる瞬間があります。それは下から(反発力が)突き上げてくる瞬間なのですが、それを足裏の感覚で瞬時に読み取らなければいけないんです。それを過ぎてしまうと氷が割れてしまうので。氷が割れてしまうということは、ブレードが埋まり込んでしまうことにつながってしまうのです。

――つまり小平選手の滑りというのは、その氷の跳ね返りをうまく感じ取って滑れているのだと?

 優れていると思います。それはスケーターに共通することだと思います。(フィギュアスケートの)羽生結弦選手もそうだと思いますが、足の裏の感覚がすごく研ぎ澄まされています。足裏で直接氷に触れるわけではなく、その間には分厚い靴とブレードがあって幅があるのですが、それでも足の裏からブレードまで神経が生えているのではないかというぐらい感覚が研ぎ澄まされ、力の加え方に敏感になっていると思います。

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