銀でも渡部暁斗が示した“王者の戦い” 次こそ悲願金へ、雪辱の第2ラウンド

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戦い方を含めてのキング・オブ・スキー

渡部が目指す“キング・オブ・スキー”、この平昌の強風の中でもフェアに戦い抜いた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 渡部暁とフレンツェルを比較すると、ジャンプは渡部暁に、クロスカントリーはフレンツェルに軍配が上がる。そのことを考えると、ジャンプで引き離したいところだったが、実際には8秒しかあけられなかった。
「彼とは走力の差が確実にあるので、あの展開になったらちょっと厳しいです」

 しかし、渡部暁はレースをこう振り返る。

「他の誰かと戦うよりも、フレンツェルと戦うほうが僕は楽しかったですね。歳も一緒だし、前回大会でも戦っていて良い関係を築けている。そういう選手とまたこういう舞台でいい試合して、それをまた日本のみなさんに見てもらえたと思うので、それが良かった」

 王者との戦いを楽しめるのには理由がある。渡部暁は常々「結果だけでなく、フォームのカッコ良さや競技中の戦い方を含めての“キング・オブ・スキー”を目指している」と口にしている。それを体現してみせているのがフレンツェルなのだ。

「風が強いから(先頭で)引っ張らないわけにはいかなくて、僕ももちろん引っ張りましたし、彼も同じくらい引っ張りました。そのへんはフェアに戦えたと思います」

 この日も平昌は風が強かったのだが、そのなかで集団の先頭に立つことは「風よけ」となり、体力の消耗につながる。しかし誰かが引っ張らなければペースが落ちるため、あうんの呼吸で選手同士が先頭を入れ替えながらレースを進めることが多い。

「引いて守りに入るレースじゃなくて、ちゃんとフェアな戦いをして、ああやって最後に勝ち切るというところが自分の求めている理想です。僕はそういう選手が好きなので、ずっと後ろに下がって(勝負どころで)ひょいって出た選手が勝つよりは、彼が勝ってくれて良かったなと思います」

4年前とは違う銀メダルの意味

雪辱のラージヒルでは悲願の金メダルを! 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 フレンツェルに敗れての銀メダルは結果だけ見れば4年前と同じだが、持つ意味は異なるという。

「4年前とは今、確実に違う気持ちでいます。4年前は初めて(メダルを)取って、ある意味、僕の気持ちは切れてしまいました。今回は取るべくして取ったという感じなので割と冷静。あとは僕が目標としているものを、もう1個良い色のメダルを取ることに集中できるかな」

 ノーマルヒルでは「ナンバー2」にとどまったが、20日にはラージヒルが控えており、個人での金メダルという悲願達成のチャンスはまだ残されている。「

「(金までの)距離自体は近いと思うんですよ。ジャンプもいいし、距離も走れている。あとは、五輪には運がいるというか。今日も風が気まぐれで、ジャンプでは僕の前と2人前のノルウェー選手が(23位、31位と)飛距離を伸ばせませんでした。そういうのも含めて五輪。僕としては取れる準備はできているから、後は良い流れが自分に向いてくるように。チャンスは4年前より大きいなと思っているので、頑張りたいなと思います」

 この日、3位だったルーカス・クラプファー(オーストリア)は、集団の前にあまり出ず、勝利にこだわったような滑りを見せていた。渡部暁とフレンツェルは20日もそのような戦い方をせず、堂々とした滑りのなか無言で“会話”をかわすのだろう。王者と王者の戦いは第2ラウンドに続く。

(取材・文:藤田大豪/スポーツナビ)

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