渡部暁のLH金はジャンプの出来次第 荻原健司氏が複合ノーマルヒルを解説

構成:スポーツナビ

ノルディック複合個人ノーマルヒルで、2大会連続で銀メダル獲得となった渡部暁斗 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 平昌五輪のノルディック複合個人ノーマルヒルが14日に行われ、渡部暁斗(北野建設)が2位に入り、2014年ソチ五輪に続く2大会連続の銀メダルを獲得した。優勝はソチ五輪金メダリストのエリック・フレンツェル(ドイツ)。そのほかの日本勢では、渡部善斗(北野建設)が12位、永井秀昭(岐阜日野自動車)が14位、山元豪(ダイチ)が33位に終わっている。

 渡部暁は前半ジャンプの最終滑走者となる48番目に登場。105.5メートルを飛んで123.7点をマークし全体3位となった。トップに立ったフランツ・ヨーゼフ・レアール(オーストリア)とは28秒差で、後半の距離(クロスカントリー)に臨んだ。

 クロスカントリーでは前を走る2人にレース中盤で追いつき、後ろから追ってきたフレンツェルらとともに先頭集団を形成。残り1キロを切ったところでフレンツェルが前に出ると、渡部暁は抜くことができず2位でフィニッシュとなった。

 複合個人ノーマルヒルの戦いについて、1992年アルベールビル五輪、94年リレハンメル五輪の団体メンバーとして金メダルを獲得、ワールドカップ(W杯)では3シーズン連続個人総合1位の偉業を達成し、今回はノルディック複合競技の放送解説を務めている荻原健司さんに話を聞いた。

力を十分に発揮できての銀メダルだった

前半のジャンプでは最終滑走者となったが、わずかなミスが出てしまった 【写真:青木紘二/アフロスポーツ】

――まず、今回のレースについて聞かせてください。

 渡部選手は本当に素晴らしい活躍をしてくれて、素晴らしい銀メダルだと考えています。彼の力を十分発揮できたレースだったと思います。ただ、やはり現在W杯総合ランキング1位ということ、あるいは本人が「金メダルを取るためにここに来た」と言っていることから考えると、惜しかったなという感想も同時にありますね。次(20日)の個人ラージヒル(LH)に向けては、まず一安心したと思いますし、さらに自信を深めた結果だったのではないでしょうか。

――ジャンプとクロスカントリー、それぞれについて伺います。前半のジャンプでは全体3位につけることができました。

 わずかなミスがありました。渡部選手がジャンプでミスをするというと飛び出しのミスがほとんどです。それは、前方向に少し突っ込みすぎてしまう傾向がありまして、それが唯一、渡部選手がミスをするケースです。今日のジャンプも、やや飛び出しが前方向にいきがちでした。ただ、これをうまく抑えられたので、結果的には良いジャンプになったと思います。今日のジャンプの内容で、どこが悪かったかは本人がよく分かっていると思いますので、ここを十分注意しながらラージヒルには臨んでくれるとは思います。

――前方向に突っ込んでしまうというのは、最終滑走だったということもあり、トップを取らなければという気持ちが表れてしまったのでしょうか?

 本人としては、正しい体の動かし方をしたつもりだったと思います。ただ、それが結果的に、実際の体の方が少し前に行ってしまったと。ですから、自分がやるべきことを分かっているのだけれども、実際には体が少し前側に動いてしまったということです。ですからやはりラージヒルに向けては、「もう少し意識を(前に突っ込まないように)持たなければ」と、良い反省につながっていると思います。

――ジャンプの出来としては、そのミス以外は問題がなかったでしょうか?

 そうですね。ほかはとても上手でした。しっかり飛んで、テレマーク姿勢もきれいに決めることができたジャンプでした。

クロスカントリーも戦略がうまくいった

クロスカントリーの戦略的にはうまくはまったが、混戦の勝負ではフレンツェル(右)の方が上だった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――その結果、全体3位で前半を終えましたが、この位置は渡部選手にとっては良かったのでしょうか?

 前半のジャンプで首位に立った選手と2番手についた選手(=ヤールマグヌス・リーベル/ノルウェー)は、クロスカントリーの走力は劣る選手です。ですから、渡部選手が首位から28秒遅れという結果で終えた時に、彼自身としては心配や不安はなかったと思います。前の2人の選手を見た時に、ある意味、結果的には自分が前半1位で終えたというような気持ちだったと思いますね。

 ただし、やはり後続から来る選手、特にドイツのエリック・フレンツェル選手、あるいは渡部選手とフレンツェル選手の間にいたルーカス・クラプファー選手(オーストリア)、この選手たちは走力があるので、やはり渡部選手が気になっていたのは後ろの2人だったと思います。「自分も含めた3人がメダル争いになる」と思っていたはずです。2人が追いついてくることを想定した上で、自分がどういうレース展開を組み立てていこうかと念頭に入れながらスタートをしていきました。

――クロスカントリーではその通り、後ろの選手に追いつかれ、集団で前の2人を追っていったわけですが、その点での渡部選手の作戦はうまくいったのでしょうか?

 要はですね、想定通りと言いますか、渡部選手としてはうまいレース展開が組み立てられたと思います。それというのも、レース前半に渡部選手自身が集団を引っ張っていく形になりました。実はそうなると、ほかの選手たちとしては「どこかで今度は自分が先頭を引っ張る番が来るだろう」と思うわけです。

 レースの中で追ってくる選手たちから逃げるために、ある意味助け合いをしながら走ることがあります。集団になって先頭を入れ替わりながらレースを引っ張っていくのですが、渡部選手は前半にレースを引っ張ったことで、後半にほかの選手たちが前に出なきゃというメンタル面の影響を与えていました。

 ですから、後半は渡部選手が後ろについたのですが、ほかの選手からしたら「渡部が前半ずいぶん引っ張ってくれたから、この状況でも仕方がないだろう」と思っていたと思います。この部分は、渡部選手の戦略的な良さが光ったところです。

――ただ最後にフレンツェル選手が前に出ました。展開としては4年前のソチ五輪と同じものだったと思いますが?

 やはりあの状況になった場合、フレンツェル選手の方が上と言わざるをえません。走力がありますので、混戦となったら渡部選手としては厳しかったです。

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