「高梨は元のジャンプを取り戻せた」 船木和喜氏が女子ノーマルヒルを解説
スキージャンプ女子ノーマルヒル個人では、高梨沙羅(右)が銅メダルを獲得 【写真は共同】
また日本の伊藤有希(土屋ホーム)は9位、岩渕香里(北野建設)は12位、勢藤優花(北海道ハイテクAC)は17位に終わっている。
今回の結果について、1998年長野五輪で2つの金メダルを獲得した船木和喜さんに解説してもらった。
高梨の2本目は「乱れのないキレイなジャンプ」
2本目のジャンプは高梨らしい乱れのないキレイなジャンプで、本来の形を取り戻したようだった 【写真は共同】
まずは前回取れなかったメダルを獲得できたということで、良かったなというのが第一印象です。私もうれしかったです。
――銅メダルを獲得した高梨選手についてですが、ジャンプの内容については?
技術的な面で見ますと、今シーズン序盤のW杯ではいろいろな狂いがありました。上半身の動きとスキーのバランスが悪かったりして、なかなか勝てない試合が続いていましたが、W杯蔵王大会(1月19〜21日)後の調整で、元の高梨選手のジャンプと言いますか、スキーと一緒にバランスよく飛んでいく、乱れのないキレイなジャンプに戻せたと思います。それは非常に評価したいです。
1本目で1位を取れないと、選手としてはどうしても攻撃的なジャンプになって焦ってしまったりするのですが、(高梨の2本目のジャンプは)そういうものを一切感じさせないものでした。前方に進むスピードや速さも空中でバランスを整え、「ここまで到着する」という場所を見据えて飛ぶことができたと思います。
2本目を飛び終えた時点でトップに立つのは、メダルを取るために必要な最低限のやるべきことでした。着地した瞬間にメダルが確定したというのは本人も分かったと思いますが、それは飛距離だけでなく、空中で何の障害もなく飛べて、自分の思った通りに飛べたからだと思います。
――前回のソチ大会では風に泣かされた面もありましたが、今回は条件面でもマイナス要素はありませんでした。
2本目は特に周りの選手と変わらない条件でした。それで自分らしいジャンプもできたのだと思います。金メダルはお預けになりましたが、その分、これからやっていくべきことが明確になりましたし、目標もできましたので、後は技術的に足りないものをこれから考え直していければよいと思います。
ルンビ成長の要因は男女合同のトレーニング
金メダルを獲得したルンビの強さは、空中での技術の高さにある 【写真:ロイター/アフロ】
技術的なものは変わらないです。ただ、体型による有利な点があって、筋力や正確性で上回っているぐらいです。ルンビ選手は、それにプラスして空中での技術を持っています。空中での飛型は高梨選手よりもキレイではないのですが、スキーが暴れても風に当てながら、風を巻いて浮力に変える技術です。ですので、見た目は高梨選手の方が良いのですが、肩も手も動かしながら浮力を得ようという技術が、今回の金メダルと銀メダルの差であり、金メダルと銅メダルの差であったと思います。
――ルンビ選手は4年前のソチ五輪では8位という結果に終わっています。この4年間で大きく成長したわけですが、この技術を身につけられたのにはどんな要因があるのでしょうか?
国柄があると思います。ノルウェーというのは、空中の技術に関して教える指導が強化されています。男子もそうなのですが、飛び出しの技術について、完成度はあまり高くありません。ですが、空中に出てからの技術は、ノルウェーのいろいろな選手が、いろいろな技術を持っています。これは聞いた話ですが、ソチ五輪後の4年間は、男子のトップチームと女子のトップチームが一緒に合同トレーニングをしていたそうです。
どうしても女子だけだとそれ以上の(技術を高めるための)材料がないので、維持したいという気持ちが強くなってしまうのですが、男子はパワーもスピードもありますし、さらに精密性もないとW杯で勝てませんので、常にレベルアップを目指さないといけません。そういう選手たちと一緒にトレーニングし、女子でも技術を高める材料がたくさんある環境の中でできたことで、ルンビ選手は技術を身に付けて成長したのだと思います。そして(身長173センチという)体格を利用した大きなジャンプができるようになっています。そのためルンビ選手の特徴は、後半で落ちずに伸びていくように見えます。最後に距離を伸ばす技術は、ジャンプの前半から中盤にかけての技術が物を言っていますね。
――そういう意味では、女子ジャンプの技術も男子に近づいてきているということですね。
さらに今年は男子のノルウェー陣も好調ですから、その調子の良い選手たちにけん引されて、トレーニングから一緒にやっているルンビ選手も強くなっているのだと思います。