W杯で必要となる阿部勇樹の強靭な精神力 日本代表にこの選手を呼べ!<浦和編>

島崎英純

日本代表にはもう1人“闘士”が必要

浦和からは強靭な精神を持ち、チームのために戦う阿部勇樹を推したい 【(C)J.LEAGUE】

 2014年ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の日本代表はグループステージ初戦のコートジボワール戦で先制しながら、後半のわずか2分間に2失点して逆転負けを喫した。古くは06年のドイツ大会でも初戦のオーストラリア戦で逆転負けした日本代表は、ダメージを引きずったまま次戦以降に臨んでグループステージ敗退に終わっている。

 W杯はサッカー競技における最高のビッグタイトルだ。プレーヤーたちは自らの存在価値を示すだけでなく、国家を代表して戦う栄誉をも得て、心血を注いで覇権を目指す。その争いは苛烈で熾(し)烈で、あらゆるゲームが死力を尽くした魂のぶつかり合いになる。

 現代サッカーで試合に勝利するためには、知力を尽くした戦術の構築と対戦相手のスカウティング、そして各選手の高いポテンシャルが必須だ。だが、いかに知略に優れ、体力と技術を備えても、それを支える精神が強靭(きょうじん)でなければ、戦いに打ち勝つことなどできない。正念場を迎えたとき、窮地に陥ったとき、揺るぎない意志を保って勝利にまい進できる選手が、そのチームを栄冠へと導くのだと思う。

 ヴァイッド・ハリルホジッチ監督率いる日本代表を取りまとめているのはキャプテンの長谷部誠だ。彼には10年の南アフリカ大会、14年のブラジル大会と2度のW杯出場歴があり、08年から約10年に渡ってドイツ・ブンデスリーガでプレーしてきた豊富な国際経験がある。思慮深く冷静沈着な彼は傑出した統率力を備えており、ハリルホジッチ監督自身が「代えの利かない存在」として認知するのも当然だろう。他に吉田麻也や本田圭佑など、周囲を喚起してチームをけん引できる選手はいるものの、ピッチ上での姿勢や日常の行動を含めて、リーダーとして信任を受ける選手は、今の日本代表ではやはり長谷部しかいない。

 ただ、彼1人の力では世界の猛者が居並ぶW杯で敵の圧力に堪え抜くことはできない。今の日本代表にはもう1人、自ら率先して矢面に立ち、敢然とファイティングポーズを取り続ける“闘士”が必要だと思っている。

 選手は純然たる実力で評価すべきだ。大会時期に最もコンディションが良く、プレーパフォーマンスの高い選手が代表としてプレーすべきで、そこに年齢の隔たりはないと思う。もちろん長期的に見ればチーム全体の世代構成は大事だが、W杯タイトルを前にして結果を求めない道理などない。

 前置きが長くなった。本稿は浦和レッズに所属する者の中で「日本代表に招集すべき選手」という題目である。今の浦和からはGK西川周作、DF槙野智章、遠藤航、MF長澤和輝、FW興梠慎三らが選出されており、すでに十分な人数に達している。ただ、それでももう1人、今回のロシア大会で好成績を挙げるために是非とも招集すべき選手として、私はMFの阿部勇樹を挙げたいと思う。

W杯で重宝される“ポリバレント”な素養

W杯南アフリカ大会ではアンカーとしてプレーし、決勝トーナメント進出に貢献した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 阿部の実力はJリーグのファンや各クラブのサポーター諸氏ならば先刻承知済みだろう。ジェフユナイテッド千葉のアカデミー組織からトップチームに昇格してヤマザキナビスコカップ(現ルヴァンカップ)を2度制し、07年に浦和へ移籍加入してからは2度のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)優勝とルヴァンカップ優勝、そして2度のJリーグステージ制覇を遂げている。日本代表としても岡田武史氏が率いたW杯南アフリカ大会でアンカーを務めてチームの決勝トーナメント進出に貢献し、10年途中から12年まではイングランドのレスター・シティ(当時はイングランド・チャンピオンシップ)に在籍するなど、国際経験も積んでいる。

 ハリルホジッチ監督体制のチームで阿部が果たせる役割は「4−1−2−3」のアンカーが第一選択肢になるだろう。同ポジションのレギュラー筆頭格はもちろん現キャプテンの長谷部だが、膝に問題を抱える彼が有事の際に阿部が控える陣容は強固だ。また、ハリルホジッチ監督が過去に採用した「4−2−3−1」ならば、長谷部と阿部の共存も考えられる。攻撃に秀でるタレントが前線に並ぶ現在の日本代表では、中盤の底で下支えする選手が2人居てもチームバランスが保たれるだろう。

 また阿部はかつての代表や今の浦和でセンターバックを任されたこともあり、オプションとして彼をDFに据える選択肢も得られる。イビチャ・オシム氏に“ポリバレント”と評された素養は、短期決戦になるW杯のような大会では一層重宝されるだろう。

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著者プロフィール

1970年生まれ。東京都出身。2001年7月から06年7月までサッカー専門誌『週刊サッカーダイジェスト』編集部に勤務し、5年間、浦和レッズ担当記者を務めた。06年8月よりフリーライターとして活動。現在は浦和レッズ、日本代表を中心に取材活動を行っている。近著に『浦和再生』(講談社刊)。また、浦和OBの福田正博氏とともにウェブマガジン『浦研プラス』(http://www.targma.jp/urakenplus/)を配信。ほぼ毎日、浦和レッズ関連の情報やチーム分析、動画、選手コラムなどの原稿を更新中。

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