フィギュア団体戦、問われるその意義 懸念される出場選手たちへの影響

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フリーでは他国との実力差が露呈

フィギュア団体戦はソチ五輪と同じく5位に終わった 【写真は共同】

 平昌五輪のフィギュアスケート団体戦は12日、カナダの優勝をもって幕を閉じた。2位は個人資格として参加したロシア、3位には米国が入った。ショートは10カ国中4位で通過した日本だが、フリーは出場選手全員が5カ国中5位に終わり、前回のソチ五輪と同様に5位だった。

 日本の5位は実力通りの結果と言える。男女シングルでは世界と渡り合える日本だが、ペアとアイスダンスではどうしても劣ってしまう。メダルを取るためには男女シングルでいかにポイントを稼ぐかがカギだった。

「フリーに進むことを大前提に」(小林芳子フィギュア強化部長)日本は男子ショートに宇野昌磨(トヨタ自動車)を起用。その期待に応えた宇野は103.25点をマークし、日本は首位スタートを切った。続くペアのショートでは須崎海羽、木原龍一組(木下グループ)も8位ながら、自己ベストを更新するなどいい流れを継続。アイスダンスのショートダンスでは村元哉中、クリス・リード組(木下グループ)が5位、女子ショートでも宮原知子(関西大)が4位に入り、日本は総合4位で上位5カ国が残るフリーに進んだ。

 しかし、ショートに宇野と宮原を投入したことで、実力差が出るフリーは一転厳しい戦いを強いられることになる。男子の田中刑事(倉敷芸術科学大)は予定していた4回転3本をすべてミスし最下位。女子の坂本花織(シスメックス)も冒頭の3回転フリップ+3回転トウループが単独になったうえ、その3回転フリップも回転不足を取られ得点が伸びず、田中同様に最下位となってしまった。ペアとアイスダンスは元より他の4カ国とはレベル差があったこともあり、最下位はやむを得ない結果だった。

「個人戦に向けて良い試合になった」

団体男子FSに出場した田中はSPで宇野がつくったいい流れに乗ることができなかった 【写真は共同】

 小林強化部長は団体戦が始まる前日、「表彰台のどこかに乗れれば」と期待を寄せていたが、それも他国のつまずきを前提にした話であった。優勝したカナダは唯一の懸念点だった男子にパトリック・チャンをショートとフリーに連続で投入。チャンはミスこそあったものの、ショートで3位、フリーで1位となり金メダル獲得に大きく貢献した。2位のロシア、3位の米国ともに、男女シングルだけではなく、ペアとアイスダンスにも強い選手がそろっている。4位のイタリア、5位の日本はいずれも弱点となる種目があったため、そこが上位3カ国との差になった。

 それでも日本の選手たちは、今回の成績をポジティブにとらえていた。チームキャプテンを務めた村元は「まずフリーに進めたことがうれしいです。クリスと(木原)龍一は前回のソチ五輪を経験していますが、他の選手は初めての五輪です。悔しい思いをした選手もいると思いますが、みんな落ち着いて滑っていたと思うので、結果を素直に喜びたい」と語る。

 さらに村元は「ショートとフリーを夢の舞台で滑れたことは、他のまだ滑っていない選手よりプラスになっている部分もあると思います。試合の独特な雰囲気や緊張感を味わえたので、個人戦に向けて良い試合になりました」と、団体戦における自身の収穫を挙げていた。

 選手たちにとって、個人戦の前に会場の雰囲気や、氷の感覚を実戦で確認できるのは確かに大きなメリットだろう。

団体戦の出場有無で差が出るのは……

団体女子FSの演技後、悔しそうな表情を見せた坂本 【写真は共同】

 ただ一方で、この団体戦が選手たちに与える影響も懸念される。いいイメージを持って勢いそのままに臨める選手もいれば、逆にミスしたことで悪いイメージを引きずったまま個人戦に入ってしまう選手もいるはずだ。田中や坂本は演技後、「チームの足を引っ張ってしまった」と沈んだ表情を見せていた。それを発奮材料にできればいいが、そうでなければ団体戦に出場したことが悪影響になったと言わざるを得ない。

 さらに調整の難しさも問題になってくる。団体戦があることで、出場選手たちは通常よりも早く現地入りする必要がある。特に大会終盤に競技が行われる女子シングルは、ここから約10日ほど時間が空くのだ。坂本は今回2月4日に現地入りしたが、いつもなら「着いてから3日後くらいに試合がある」という。会場のリンクは使用時間が制限されているため、わざわざソウルまで移動して3日ほど練習していた。

 団体戦が始まったのは4年前のソチ五輪から。そのときは個人戦の結果に大きな影響を及ぼした。女子シングルで優勝したアデリナ・ソトニコワ(ロシア)、2位のキム・ヨナ(韓国)はいずれも団体戦に出場しなかった。一方でロシアの優勝に大きく貢献し、個人戦でも優勝候補だったユリア・リプニツカヤや浅田真央らはメダルに届かず。男子でも団体戦でフル稼働したエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が負傷を悪化させ、個人戦は演技直前に棄権した。優勝した羽生結弦(ANA)や2位のパトリック・チャン(カナダ)もフリーでミスが重なった。

 これらすべてが団体戦の影響とは結論付けられない。しかし、多くの選手が調整の難しさを口にしていたのは事実。ましてや今大会は通常とは異なる午前10時からの試合だ。選手にはさまざまな対応力が求められるが、団体戦に出場した選手と出場していない選手で何らかの差が出るのは、やはりフェアではない。個人戦は選手たちが4年間積み重ねてきた成果を出す場所でもある。悪影響が出ないことを願うばかりだが、五輪後に団体戦の意義についてはあらためて問われるべきだと個人的には感じている。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)
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