バイアスロンの日本代表はなぜ自衛隊? “精鋭”が挑む平昌五輪、その特殊な環境

平野貴也

スキー走行と射撃を組み合わせたのがバイアスロン

スキー走行と射撃を組み合わせた「バイアスロン」 【Getty Images】

 韓国の平昌で行われる冬季五輪が、まもなく開幕する。冬季競技は、プレー環境がどこでも整うわけではないため、夏季競技に比べると知名度が低く、よく理解されていない種目も少なくない。その1つが、スキー走行と射撃を組み合わせた「バイアスロン」だ。

 競技名は、ギリシャ語で「2つの(バイ)競技(アスロン)」という意味を持つ。銃を背負ってスキーでコースを走るクロスカントリーを行い、途中に設けられた射場で伏射、立射の射撃を行う。標的を外すと外した弾1発につきペナルティーループを1周するペナルティー滑走が加えられ、タイムを競う「スプリント」や、一斉スタートする「マススタート」、リレー形式の「リレー、(男女)混合リレー」、スプリントの上位成績者が順にスタートし、相手を追い、相手に追われる状況でタイムを競う「パシュート」、個人(外した弾1発につき走行タイムに1分が加算される)といった種目がある。

 冬季五輪で採用されたのは、1960年のスコーバレー大会からで、日本は64年のインスブルック大会から選手を派遣している。今季の平昌大会を含めて、選手はすべて自衛隊員だ。なぜ、自衛隊が競技者の強化を行っているのか、なぜ代表選手がすべて隊員なのか。2つの疑問が、日本におけるバイアスロンの環境を知るためのヒントとなる。

 まず、自衛隊は、61年に陸海空の共同機関として「部隊等における体育指導者の育成」「オリンピック等国際級選手の育成」「体育に関する調査研究」を目的として自衛隊体育学校を創設。現在は、第2教育課で陸上競技、水泳、ボクシングなど11の種目班で五輪でのメダル獲得を目指しており(※2016年リオデジャネイロ五輪の競泳男子800メートルフリーリレーで銅メダルを獲得した江原騎士などが自衛隊体育学校所属)、冬季特別体育教育室では冬季競技のバイアスロン、クロスカントリースキーの2種目で選手強化を行っている。

 バイアスロン連盟の関係者によれば、バイアスロンの選手はスキー競技の能力が高く、世界の舞台で活躍できる資質があると判断され、体育特殊技能者として体育学校のスカウトを受けて採用試験を受験し、競技を始めるケースがある。また、トップクラスの高校生や大学生は大学や企業に進むことも多く、次点クラスの選手は、地元採用などで入隊した後で体育学校に移るケースもあるという。平昌大会の代表選手は、いずれも北海道や東北、北信越などの雪国育ちで学生時代にクロスカントリーを始めており、自衛隊に入隊後にバイアスロンに転向している。

競技者が自衛隊隊員に偏っている理由は?

バイアスロン選手の多くが自衛隊所属であるのは射撃を行う競技の特性ゆえ 【写真:ロイター/アフロ】

 選手の多くが自衛隊所属であるのは、射撃に要因がある。日本では銃刀法(銃砲刀剣類所持等取締法)に触れるため、20歳未満で容易に競技を始めることができない。20歳以上でも競技用ライフルの所持と使用には、筆記および実射の試験に合格し、都道府県公安委員会の講習等を受けなければならない。

 民間人として競技経験を持つ日本バイアスロン連盟の関敏博理事の話によると、民間人が競技用ライフルを所持して競技を行うまで、かつては3〜6カ月程度で済んだが、現在では資格取得のために2年近くかかることも珍しくないという。バイアスロンに限らず、射撃系競技に共通する課題ともいえそうだ。

 東日本バイアスロン選手権大会を例にとると、かつては80名以上が参加していたが、競技者は50〜60程度に減少。それでも1月に行われた大会には27名の民間人が出場したが、高齢化が深刻だ。特に、近年は新たな資格取得者が激減し、年間に1、2人程度だという。競技を行える環境も少なく、国内で民間人に常時解放されているのは、岩手県八幡平市の田山バイアスロン競技場のみ。

 一方で、自衛隊で訓練を行う選手は、職務として銃を所持、使用できる。また、射撃が可能な施設も有しているため、日本国内では民間よりも圧倒的に練習環境が整っている。そのため、競技者が自衛隊隊員に偏っているのだ。体育学校以外でも北海道や東北地方を拠点とする部隊の中にはバイアスロンチームが存在し、全日本選手権(競技スキーの部、自衛隊スキーの部があり、自衛隊スキーは一般銃と迷彩服で競技を行う)に選手として出場している。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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