反町監督が松本で“長期政権”を築く理由 7年目のシーズンは原点回帰の年に

元川悦子

今季のテーマは“堅守多攻”、分厚く多彩に攻める

過去に松本でプレーした経験のある岩上(右)、前田(左)らが復帰。今季は攻撃のタレントが格段に増えた 【(C)J.LEAGUE】

――過去に松本でプレーしたことがある岩上祐三、前田直輝、前田大然が復帰し、J2で実績のある永井龍、中美慶哉、藤田息吹らが加わるなど、今季は攻撃のタレントが格段に増えた印象がありますね。

 去年試合に出ていた選手のほとんどが「今年も指定席がある」と思っているかもしれないけれど、今年は本当にそうじゃない。去年までは「反町監督は試合途中で選手交代を早くすることがあまりない」と言われていたけれど、攻撃の選手層が苦しかった分、やむを得ないところがあった。けが人も多かったですし、なかなか思うようにいかなかったんです。でも今年は練習や試合でのパフォーマンスが悪ければ、すぐに他の選手が取って代わるような選手層になった。だからこそ、選手たちには日常からバチバチやってほしいですね。

 戦力が入れ替わったこともあって、自分自身にも日々新たな発見がある。それも前向きな要素ですね。祐三や直輝だったら「こういうこともできるようになったのか」と感じることがあるし、大然も新人だった一昨年とは違って自信を持ってやってくれている。永井には頭の良さを感じるし、中美も面白いプレーを見せてくれる。

 そういうことが増えてくるとわれわれ指導者も練習や試合を見ながらエンジョイできるし、刺激を得られる。実際はそんな余裕はないんですけどね(苦笑)。ただ、われわれがエンジョイし、選手もエンジョイすれば、お客さんもエンジョイできる。そういう状態になって初めて、チームは高い領域に達することができる。そう考えています。

――心機一転、フレッシュな気持ちで18年シーズンの開幕に向かっているようですが、反町さんの中での今季のテーマは?

 選手には“堅守多攻”と言っています。しっかり守るのは当たり前で、多彩に攻めることを目指したい。一例を挙げると、カウンターアタック。去年はほとんどそれがなかった。1トップの高崎(寛之)への1本目のボールを相手がファウル覚悟でつぶしに来て、そこで攻撃が止まってしまっていたから。

 仮に前線を2トップにすれば、1人が抑えられても、もう1人が残っているから、相手も抑えづらくなるし、攻撃の矛先も変わる。そういう戦略をいろいろ考えていかなくてはいけないと思います。去年と同じことをやっていたら、また8位で終わってしまいますからね(苦笑)。

――28日の浜松開誠館高校との練習試合でも、前線を2枚にし、アンカーを置いた逆三角形の中盤を採用する3−5−2システムにトライしていました。

 あの布陣はチェルシーが大いに参考になりますね。チェルシーはティエムエ・バカヨコ、エンゴロ・カンテ、セスク・ファブレガスの3枚が中盤に並ぶことが多いけれど、彼らは攻守両面で迫力を出せる。鍵を握るカンテの動きを勉強させるために、藤田に映像を渡したりして素地は作っているつもりです。チェルシーの前線はアルバロ・モラタに依存しがちだけれど、今年のウチは高崎だけじゃなくて永井もいる。永井はシャープだし、1トップも十分こなせる能力がある。そこは大いに期待したいです。

 もちろんヒントにしているのは、チェルシーだけじゃありません。ホッフェンハイムも3バックの前にアンカーを置いて2トップでやっているし、ナポリもそう。ナポリは攻撃のビルドアップの力、ボールの動かし方も非常に参考になる。保持率はそんなに高くないけれど、前に速く仕掛けてゴールを狙いに行くサッカーをしている。そういういろいろなチームの良いとこ取りをすればいい。われわれも自分たちの持っている武器を最大限生かし、分厚く多彩に攻めるスタイルを確立させていきたいですね。

「松本の流儀」を取り戻すべくハードワークを徹底

今季は「松本の流儀」を取り戻すべく、キャンプからハードワークを徹底している 【元川悦子】

――新たなヒントを取り入れつつ、アプローチを変えている部分はありますか?

 スタッフとのコミュニケーションをより多く取って、新たな方向性を目指しています。御殿場キャンプに入ってからは1日3回スタッフミーティングをしています。また今年はM−T−M方式(マッチ・トレーニング・マッチ/最初に試合をして、中間にトレーニングをし、最後にまた試合をするという練習方式のこと)で進めているから。ゲームで足りないところをトレーニングする、できない選手はセッションを1つ多くするといった工夫を凝らすようにしていますね。

 フィジカルトレーニングの負荷も去年よりは上げています。御殿場に行ってから雪が降って練習できない日もあったけれど、3部練習をやった日もあるし、すでに選手たちのフィジカル面は40〜50パーセントまでは来ています。それをこの先のJ−STEP、鹿児島合宿で上げていく。今までは、開幕時は80パーセントくらいで試合をしていたけれど、今年は最初から100パーセントでやるつもりなので、早めに準備をしなくてはいけない。昨年はパワー系の筋トレを一度もやらなかったけれど、今年はしっかり取り組んでいます。

 昨年はハードワークがあまりできなかったから、8位で終わった。その反省はきちんと生かさないといけない。「最後まで走り切ること」は松本のお客さんにとって、最大の魅力です。「松本山雅の流儀」をもう1回取り戻すべく、原点回帰を図るつもりでやっています。

――今季はJ1昇格がノルマだと思いますが、反町さん自身は今後も松本を長く率いて、ベンゲルような長期政権を築く考えはありますか?

 それは神田社長のみ知ることです。自分では決められないから。それに俺はフランス人じゃない。日本人だからね(笑)。ただ、与えられた仕事を一生懸命やっているからこそ、ベンゲルもアーセナルで長く監督をしている。それに関しては、自分も約束します。与えられた仕事は死に物狂いで、血まなこになってやっていきますよ。

 監督というのは、99.9パーセントは辞めさせられる仕事だけれど、そうならないようにベストを尽くして、刺激のある1年にしたいと思います。長く監督業をやっていると、どうしても視野が狭くなりがちだけれど、それを広げる努力もしていきたい。松本のお客さんの熱を下げないように、余計に沸騰させるようにやっていくことが、自分の大きな仕事だと思っています。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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