金メダルが「欲しい」は弱い スノボ竹内智香が捨てた、日本人の遠慮

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 アジア人は勝てない、と言われたスノーボード・アルペン種目。そのなかで竹内智香(広島ガス)が獲得した2014年ソチ五輪の銀メダルは快挙だった。スイス代表チームへの練習参加など、常識にとらわれない異質とも言える選択でつかみ取ったメダルは、日本にとって同種目、また女子スノーボード界にとっても初めてのものだ。

 一方で、金メダルは目前に迫っていた。決勝の1本目でリードし、迎えた2本目も途中までリードしていたが、追い上げを受けてかわされたところでバランスを崩し転倒。逃した金メダルを手に入れるため、竹内は長い4年後の平昌五輪への挑戦を決めた。「一番調子が良いときであれば勝てる」と自信を持つ技術面に加えて、この4年間はフィジカルを重点的に強化してきた。34歳で迎える平昌五輪へどのように臨むのか、竹内に話を聞いた。

伸びしろをフィジカルに感じた

ソチ五輪で日本に初めてのメダルをもたらした竹内智香。平昌五輪では前回わずかに届かなかった金色のメダルを狙う 【スポーツナビ】

――銀メダルを獲得した4年前のソチ五輪後、フィジカルを重点的に強化されてきたのはなぜですか?

 前回の五輪を終えて、いくつか環境を変えるなどいろいろなことをしてきました。そのなかで、4年後を目指すと決めたときに何ができるんだろうと考えたら、今までフィジカル面で重点的に取り組んだことがなかったので、そこに対して興味もあり、伸びしろがあるかなと思って始めました。

――誰かからの助言もあったのでしょうか?

 ないですね。ちょっとやってみようかなって。あまり人の言葉、意見に耳を傾けるタイプではなくて、自分で気が付かないとやらないタイプです(笑)。よくこの体で銀メダル取れたね、と驚かれたこともありますが。

――トレーニングの効果はどうですか?

 一番分かりやすい「上げられなかった重さが上げられるようになる」ということ以外にも、目に見えないものもたくさんあります。フィジカルが強くなったことでけがをしにくくなるとか、雪上で多くのトレーニング本数をこなせる体力がついたとか、そういった数字としては結果に出せないものも良くなっていると思います。

――滑りのなかで感じる変化はありますか?

 それはあまり分からないですね。結局、パワーがなくても良い滑りはできると思っています。私はどちらかと言うと省エネな滑り方をするので、パワーがついたからボードの滑りがどうこうとは、あまり感じないですね。ただ今まで3日滑ったら3日オフにしていたサイクルが、3日滑ったら2日オフとかでも平気になって(練習の)量はこなせるようになりました。スタミナがすごく付いたと思います。

――フィジカル以外で取り組んだことは?

 食生活は非常に変わったなと思います。以前はお菓子主食でずっと過ごしていたので(笑)、ソチ五輪が終わってからはちゃんと口に入れるものに気をつけるようになりました。

――主食にしていたお菓子とは?

 もうなんでもですね。和菓子も洋菓子もスナック菓子も全て好きです(笑)。(今は)朝スムージーしか飲まないんですけど、昼は大体ここ(トレーニング施設)で食べて、夜は外食が多いですけれども、その場合は主にお肉か和食を食べています。

――ソチ五輪での滑りはあまり見返さないそうですね。

 あまり過去の映像を見ることはないんです。良い時の感覚というのはほとんど体に染み付いているので。それよりも、レース会場に行ったときに「この雪質、このコースセットならあの時の感覚に似ているな」と思って、その感覚を自分のなかに引き戻すという作業をします。滑った動画を何回も見るということはないですね。

――滑りにおける感覚や技術面の変化はいかがですか?

 あまり4年前と大きな変化はないですね。

見られることが力になる

ソチ五輪で銀メダルを獲得した竹内は、大舞台でのパフォーマンスに自信を見せる 【写真:ロイター/アフロ】

――「感覚の良い滑り」というのは明確なイメージがある?

 イメージもあります。それと、私はたくさん応援してくれる人がいてみんなに見られているとき、大きな大会があるときに力を発揮できるタイプです。例えば北米遠征ではマテリアル(用具)スタッフが10人くらいいたので彼らに「見られる」というだけで良い滑りになりました。

 ですから、トレーニングのときにピークな状態ではなくても焦りは感じないです。五輪というのは嫌でもみんなに見られている、その様子が日本に伝えられているというだけで、自分のなかでスイッチが入ってピークに持っていけるんです。無理やり、「あの時のようなベストコンディションに持っていきたい!」と思うことはあまりなくて、大事な舞台では自然とスイッチが入ると思っています。

――では、自身の最高の滑りはどの大会、もしくは練習でしょうか?

 練習ではいつも非常に良い滑りができていると思いますし、調子が悪いという日がほぼないと思っています。そのなかでソチ五輪は予選1位通過でみんなが調子良いなと感じたと思うんですけど、あの滑りがめちゃくちゃ良いかといったらそうではなくて、7、8割であの結果が出せるというのが自分の強さだと思います。

 今年は欲を言うなら、自分の100パーセントの力をちゃんとレースで出したい。それができたら一歩抜きん出た力を出せるのではないかなと思っています。自分の一番調子が良い状態の時は「勝てる」という感覚があるので、その良い状態を1日でも多く、高いレベルを何日間どれだけ表現できるかということが大事になってきます。

――7、8割から10割に持っていくには、どのような調整が必要なのでしょうか?

 それはメンタル、精神状態で持っていけるものだと思いますし、私の場合はそれが見られる、注目されるという大会になるとスイッチが入りますが、そうでなくてもその状態に持っていけるように準備できたらなと思います。

――ソチ五輪直後に「4年間は長い」とコメントされていました。それから4年近くが経ち、平昌五輪シーズンに入ってみて、長かったですか?

 長かったですね。「もう引退すれば良かった」と何度も思いました(笑)。やっぱりフィジカルトレーニングに取り組むようになって、今までなぜそこまで真剣に取り組んでこなかったかと言えば、やっぱり苦しいから、好きじゃないから、という理由からです。

 その苦しいことを4年間続けることのキツさ、特に五輪後の2年間というのはレース数も少なくて、特に2年前は5戦しかなくて、私の得意なGS(ジャイアントスラローム)は3戦しかありませんでした。そう考えると、たった3戦のために365日努力していることも苦しいですし、頑張っても表現する場がないというのはキツいんですけど、今考えるとそこを腐らずにやって良かったなと思いますし、それをいよいよ発揮できるときなんだなと思います。

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