2007年 浦和レッズのACL制覇<後編> シリーズ 証言でつづる「Jリーグ25周年」

宇都宮徹壱

重荷となったACL優勝と「世界3位」の称号

10年ぶりのアジア制覇を果たした浦和。そんな今だからこそ、07年の優勝は再評価されてしかるべきだろう 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 見事にアジア王者となった浦和は、その年に日本で開催されたFIFAクラブワールドカップ(W杯)にも出場。3位決定戦でアフリカ王者のエトワール・サヘル(チュニジア)に勝利し、「世界3位」の称号を得ることとなった。しかし浦和にとって、この07年というシーズンは両手を挙げて喜べるシーズンだったとは言い難い。ACL優勝から2週間後の天皇杯4回戦では、J2の愛媛FCに0−2で敗戦。リーグ戦の最終節でも、すでに降格が決まっていた横浜FCに0−1で敗れ、逆転で鹿島アントラーズに優勝シャーレを持っていかれることとなった。アジアとJリーグの2冠を達成できなかったことについて、鈴木はこう総括する。

「当然、両方獲りにいこうと思って(ACL優勝後も)100パーセントで臨んでいるつもりでした。でも精神的にも肉体的にもすり減っていたのは事実だし、認めたくないけれど僕自身も体が重かった。ただ、バルサ(FCバルセロナ)でもレアル(・マドリー)でも、チャンピオンズリーグとリーガで優勝するのは大変ですよね。それでも、スペインでそれができるのは、その2チームくらいしかない。日本の場合、当時のウチを含めて、そこまで抜けているチームはまだない、ということだと思います」

 アジアと国内の2冠達成の難しさは、監督であるオジェック自身もシーズン前から強く自覚するところであった。実際、ACLチャンピオンとなったJクラブが最後までリーグ優勝争いに加わったのは、現在のところ07年の浦和のみである。そして、アジア王者と「世界3位」の称号は、その後も浦和に重くのしかかることになった。翌08年、監督のオジェックはリーグ戦開幕2連敗で早々に解任。この衝撃的な人事は、結果として長い低迷期への入り口となってしまう。以降はクラブの強化方針が定まらず、再び国内タイトルを手にしたのは9年後(16年のルヴァンカップ)、そして2度目のアジアチャンピオンは10年後まで待たなければならなかった。

 07年の栄に浴した人々もまた、その後の人生は決して平坦なものではなかった。通訳の山内は、新シーズン開幕前に脳内出血を患い、懸命のリハビリで杖をつきながら歩けるようになったものの、現場から離れることを余儀なくされた。鈴木は、扁桃炎や不整脈などのアクシデントにたびたび見舞われ、15年にスパイクを脱ぐ決断を下す。34歳での現役引退は、決して早すぎるものではない。とはいえ07年の充実ぶりを思い起こすと、いささかの寂しさを禁じ得ないのも事実。「いずれはビジネスで成功して、浦和の社長になるのが夢」と語る当人は、自身のキャリアについてこう語る。

「06年から07年にかけて、チームでも代表でもハードスケジュールをこなしていたけれど、『やっぱり人間、休まないとダメだな』というのは、この年に感じたことですね(苦笑)。34歳まで(現役を)続けられたことについては、自分なりに納得はしています。ただ、あの時に自分のコンディショニング管理をきちんとやっておけば、もう少しいい時期が長く続いたかもしれない……。そう考えることはありますね」

 一方、「ACLの優勝によって、われわれが目指すのは、アジア、さらには世界なんだよ、ということを示すことができました」と言い切るのは山内である。そしてきれいに色分けされた当時の手帳に目を落としながら「あの年は激務でしたけれど、楽しかったですね」と、静かにほほえんだ。浦和にとっての07年は、確かにほろ苦い記憶とセットになっているのかもしれない。それでもこの快挙は、他のJクラブにもポジティブな影響を与え、当事者たちにとっては大切な記憶となっている。10年ぶりのアジア制覇を果たした今だからこそ、07年の浦和のACL優勝はもっと再評価されてしかるべきだろう。

<この稿、了。文中敬称略>

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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