サントリーを連覇に導いたキック戦術 敗軍の将も「これからの日本は明るい」
沢木監督「勝つチームはディフェンスがいい」
サントリーは激しいディフェンスでパナソニックを1トライに抑えた 【斉藤健仁】
昨年10月、リーグ戦でサントリーに21対10で勝利したとき「いろいろなエリアでプレッシャーを与えることができるのがラグビーの面白さ」と言っていたパナソニックのディーンズ監督は、松島らがいるサントリーのバックスリーを警戒し、自チームのBKの布陣やサントリーのディフェンスを見て判断したのだろう。後半は「修正してポゼッションを高くして戦った」と、パスとランで攻めるラグビーに活路を見出した。だが、後半はゴールラインをあと一歩のところで超えることができなかった。
もうひとつ、この試合ではサントリーの組織ディフェンスが光った。「勝つチームはディフェンスがいい」と沢木監督が語り、「いいディフェンスをしないと、いいアタックができない」とFB松島が振り返ったように、リーグ戦13試合で79トライ、580点と最多得点を誇るパナソニックを1トライに抑えたことは試合の趨勢(すうせい)を決めた。
それぞれの選手がパナソニックの攻撃に対応
試合終盤には連続攻撃で時間を使い、勝利を大きく引き寄せた 【斉藤健仁】
隙があればカウンターラック(相手を乗り越えてボールを奪う)やFL西川征克、ツイ ヘンドリック、松島がジャッカルを見せるなど個々の判断も光った。ただし、相手が端までボールを運び、さらにバックドア(ダブルラインの後ろのアタックライン)を使ってき場合は、CTB中村、村田大志が相手のパスが空中にある間に前に上がってプレッシャーをかけて、外に人数が足らないときはWTB中鶴隆彰、江見翔太が上がってディフェンスラインに参加し止めた。
流主将はディフェンスに関して「『トライを与えたくない』という気持ちがあったので、ゴール前に来られてもノックオンや反則などで追い込むことができた」。またチーム内には、昨季から使っている「プライドタイム」という言葉があり、苦しい時間帯やエリア、特に22mに入られた時に、スイッチが入るように声がけをしていた。「今日は僕から(この言葉を)発するのではなく、いろいろな選手が声に出していたので安心してプレーができていました」(流)
まさしく、「プライドタイム」だった後半ロスタイム、12対8で迎えた自陣ゴール前、相手ボールのラインアウトでも、相手のモールにサントリーFW陣が一気にプレッシャーをかけて、デリバリーミスを誘ったシーンの集中力も見事だった。
「自己満足のトレーニングはしないよう厳しく設定し、気持ちいいトレーニングはしない」と沢木監督が言うように、サントリーでは毎週火曜日に、試合の80分の強度を超える60分ほどにわたるアタック&ディフェンスを行いつつ、監督が選手たちと日々面談を重ねて、個々の能力を引き上げてきたことも功を奏した。
「成長が止まれば衰退の始まり」
沢木監督は「全員が信じながらハードワークができた」と語った 【斉藤健仁】
サントリーの2季連続2冠は、「インターナショナルスタンダード」を掲げてハードトレーニングを課す指揮官、それに応えた選手たちの日々の鍛錬、努力はもちろんのこと、相手チームにマークされながらも、組織ディフェンスを成熟させつつ、キックを使ったラグビーとボールを継続するラグビーを使い分け、しっかりとエリアと時間を意識したマネジメントができたからこその勝利だった。