連載:TOKYOレガシー
東京2020を楽しみにしていた亡き妻 思い出の携帯電話をメダルに
携帯電話がメダルに変わり、選手の首から提げられたら妻も喜ぶだろう
【写真提供:田辺さん】
今年(2017年)の2月くらいに知って、いい企画だなあと思いました。実は2020年のオリンピック開催が東京に決まった数日後の9月13日の夕方に妻を病気で亡くしているのですが、それから3年以上経っても彼女の携帯電話を捨てられず、ずっと残してあったんです。でも、それを使うわけではありませんし、いつまでも手元に置いておくのもどうだろうという思いから、妻の携帯電話をメダルに変えていただいて、オリンピック、パラリンピックに出場する選手の首から提げてもらえたら、天国の妻も喜ぶだろうと思って、このプロジェクトに参加させていただきました。
2017年4月23日(日)放送 NHK BS-1「東京オリパラ団」より 【画像提供 NHK】
携帯電話ってほとんどの人が持っていますが、なんでもいいやと思って買った人って少ないと思います。人それぞれ目的が違うでしょうし、それによって選ぶ機種も変わってくると思うんです。色だって複数ある中で私はこの色がいいと思って買っているはず。そうやって自分が選んだ携帯電話を使って、好きな人の写真を撮ったり、家族と通話をしたりしながら日々を重ねていく。携帯電話は小さいものですが、その中には使う人のいろいろな思いがこもっていると思うんです。だからこそ、妻の思いが詰まった携帯電話が選手たちのメダルになるなら、それはとても良いことだと思いました。
――生前の奥さまはどんな方でしたか?
バスケットボールが得意で、大学時代は日本体育大学の女子バスケットボール部でレギュラーとして活躍し、キャプテンでもありました。卒業後は私立の中高一貫校で体育の教師をしながら、バスケ部の顧問として生徒たちにバスケットボールを教える日々。自らは神奈川県の教員チームに所属して、他県のチームと試合を行うなど、選手としても頑張っていましたね。当時の彼女は、平日は毎日部活で土日も練習や試合があり、さらに日曜日の夕方からは教員チームの練習に自分が参加するなどバスケばかりの毎日でした。子どもを授かってからは控えるようになりましたが、バスケットボールへの情熱は人一倍強かったと思います。
【写真提供:田辺さん】
私と妻はともに1964年、ちょうど前回の東京オリンピックの年に生まれたんです。だから親などから話には聞いていましたが、当然ながらリアルタイムで観られていないわけで、子どもの頃から東京オリンピックがずっと気になる存在だったんです。2020年の開催地として東京が立候補した時は、2018年にはお隣となる韓国の平昌で冬季オリンピックが開かれるし、招致のライバルとなる東京以外の正式立候補都市がマドリードとイスタンブールで、ともに選ばれたら初開催になるから、さすがに東京はちょっと厳しいんじゃないかってよくふたりで話していました。でも選ばれたらうれしいねと。
――2020年の開催都市が東京に決まった時、奥さまはなんとおっしゃっていましたか?
東京に決まった時、すでに妻は入院していました。私は早起きしてブエノスアイレスで行われていた国際オリンピック委員会総会の生中継をテレビで観ながら「東京に決まった! やった!!」とひとりで興奮したことを覚えています。その日は日曜日だったので、午前中に病院に行き、東京に決まったことを妻に伝えたら「えっ!? 東京に決まったんだ〜! よかった〜!!」とすごく喜んでいました。これからはこれまで以上にスポーツが盛んになるだろうねとも。本当にうれしかったんと思います。
妻のスポーツへの愛がメダルに。そう思えるのは素敵なこと
【写真提供:田辺さん】
選手たちはおそらく最初から上手だったわけではなく、小さい頃から厳しい練習を積み重ねて、努力の末に各国の代表に選ばれ、オリンピック、パラリンピックの舞台に立っている。その上でさらにメダルを獲得できたら、それはとてもすごいこと。うちの妻はバスケットボールを通じて、スポーツの楽しい部分と練習などの厳しい部分を両方知っていたと思うので、メダルの影にある選手たちの努力をすごく感じるんじゃないかと思います。だからこそ、自分の携帯電話のリサイクル金属によってメダルが作られることを誇りに思ってくれるはずです。
そして、メダルを授与された選手たちが、それぞれの国に帰って“メダルを獲ったよ!”と言って、みんなに見せたり、噛んでみたりする時に、そこに妻が抱いでいたであろうアスリートへの敬意やスポーツへの愛が入っていると思えたら、すごく素敵なことだと思いませんか。
――田辺さんご自身は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会を、どんな風に楽しみたいですか?
妻がいたら、女子バスケットボールの試合を一緒に観に行っていたかもしれませんが、私ひとりであれば、まずは日本の選手を応援したいと思います。その上で、世界中からスゴい選手がたくさん日本にやってきますので、どんなスポーツであれ、トップレベルの実力を競技場で観戦できたらいいですね。
あと私はマラソンとトライアスロンに励んでいて市民大会にも出場しているので、もしそのふたつの競技で自分にお手伝いできることがあれば、なにか力になりたいと思っています。せっかくマラソンに取り組んでいるので、もし聖火ランナーに選ばれるようなことがあれば、ポケットに忍ばせた妻の写真と一緒に走ってみたい。それが東京2020オリンピック・パラリンピックに向けた私の一番の夢ですね。
(文:石川博也)
◆「東京オリパラ団」BS-1 日曜 後7:00〜ほか
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田辺典一(たなべ・のりかず)
【1000 DAYS TO GO! COLLECTION 編集部】
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