金蘭会の強さを支える抜群の「対応力」 タレント軍団が悲願の春高バレー制覇

田中夕子

東九州龍谷のストロングポイントを封じた決勝戦

「過去最高」の攻撃力もさることながら、際立ったのは守備力。決勝では東九州龍谷の攻撃を完全に封じた 【坂本清】

 攻撃力では過去最高という今季の金蘭会ではあるが、やはり光るのは守備力。準決勝で下北沢成徳を封じたように、決勝では東九州龍谷の攻撃を完全に封じた。

 東九州龍谷はセッターの頭上に突くようにパスを返し、そこから速い攻撃を展開するのが持ち味である。レフトの中川美柚やミドルからの攻撃は高さがあるが、セッターの比金有紀が「エースの中川を生かすため、勝つために不可欠なチームの生命線」と話すのが、低い軌道でスピードのあるトスを託す、ライトからの攻撃だ。

 相手のマークがレフトやミドルに集まっている中、ピュッと突くようにライトへ飛ばし、その速いトスをポイントでとらえたアタッカーがクロス、ストレートに打ち分ける。準決勝の誠英戦でも、サイドアウト時だけでなく、ラリー中もライトからの攻撃を多用し、フルセット勝ちへと導いた。

 高いトスを高い打点から打つ下北沢成徳に対しては、トスを見てから3人の選手が動いてブロックをそろえれば対応できるが、東九州龍谷の速い攻撃に対して同様の策は取れない。相手にとって「勝利に不可欠」と言い切るストロングポイントをどう封じるか。相手の速さを速さとして生かすことなく封じる。それが決勝戦の1つのポイントであり、そのために有効な方法は何か。選手同士で話し合いを重ねた結果、「ライトに対して常に1枚ブロックをつける」という策を打ち立てた。

 ただアタッカーの前で真っ直ぐ手を出すだけでなく、序盤はわざとストレートを空け、終盤に「ストレートが空いているから抜ける」と打ってきたところを抑える。試合の中でアタッカーとブロッカーが1対1で駆け引きをして止めるべきところは止め、拾うボールは後ろで拾う。リベロの水杉玲奈だけでなく、セット中盤にピンチサーバーとして投入されるレシーバーの佐藤優佳に要求されることも、当然その都度異なるのだが、どんな状況でも対応できる力がある、と佐藤は言い切る。

「3枚でブロックした時に自分が拾わなければいけないところと、ブロッカーが止めないといけないところ、1枚の時に拾うところと止めるところ。それが全部はっきりしているし、全員が共有できています。だから『今のはブロックだよ』と言い合えるし、次に同じことをされないように、状況が変わってもどう動けばいいのかが分かる。

 普段の練習でも2枚、1枚、3枚とブロック枚数をその都度変えながらやってきたので、ブロッカーはレシーバーを信じて、レシーバーはブロッカーを信じて、全員がプレーできていたという自信があります」

目指す高みはもっと先、さらなる進化を――

優勝を決めた1点は宮部(写真)の1枚ブロックだったが、組織力の高さで得られた1点でもあった 【坂本清】

 優勝を決めたビクトリーポイントもそうだった。結果的に決めたのは宮部の1枚ブロックではあるが、抜けた場所に入る選手がいて、誰がどのボールを拾い、どこにつなげるかを明確にして共有する。守備力、組織力の高さで得られた1点であり、それぞれが結びついた結果が、3年ぶりの春高制覇でもあった。

 インターハイで敗れてから、ずっとこの日のため、ここで勝つためにやってきた。多くの選手が口をそろえる。3年生は抜けるが、主軸の2年生が最上級生となる来年も、おそらく“優勝候補の大本命”とされるはずなのだが、おごりはさらさらない。

 優勝が決まった直後のコートインタビュー、勝利した選手をたたえた後、これからに向け、池条監督が言った。

「まだまだバレーボールがヘタクソですから。もっともっと練習して上手になりましょう」

 目指す高みはもっと先。さらなる進化を経て、どんな武器が磨かれるのか。楽しみは続きそうだ。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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