メジャー挑戦する牧田和久の価値 海を渡る“絶滅危惧種”のサブマリン
パドレスの決め手は野茂氏ら
世界でも珍しいアンダースローを武器に、メジャー挑戦をするパドレス牧田 【写真は共同】
「大谷(翔平)には『対戦できたら楽しみ』と伝えました」
そう明かしたのは、埼玉西武からサンディエゴ・パドレスへの移籍が決まった牧田和久だ。23歳の大谷が大注目を浴びてメジャー入りする傍ら、33歳の“オールドルーキー”も新たな挑戦に踏み出していく。
今オフ、ポスティング・システムでのメジャー移籍を表明した牧田に対し、手を挙げたのはパドレスとテキサス・レンジャーズの2球団だった。二者択一の決め手について、1月10日に西武の球団事務所で会見を行った牧田はこう話した。
「環境もありますし、一番大きな点は野茂(英雄)さん、斎藤隆さん、3Aに大塚晶文さんが(コーチで)いるので、わからない部分をサポートしてもらえるという言葉をいただいてパドレスに決めました」
パドレスのA・J・プレラーGMは牧田を社会人野球の日本通運時代から視察しており、8年以上の時を経て獲得に至った。牧田は「見てくれていたチームに入れるのは非常にうれしい」と語り、相思相愛で結ばれた格好だ。
抑えとして70試合登板が目標
10日の移籍会見では「リリーバーとして70試合まで行けたら」と目標を挙げた 【写真は共同】
「おそらくリリーバーだと思いますので、40試合、50試合、60試合……70試合まで行ければ十分かな。数多く投げられたらなと思います」
牧田がメジャー挑戦の意思を強く固めたのは、2017年3月に行われた第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の2次ラウンド初戦、オランダ戦だった。9回に1点リードを追いつかれた直後、延長10回から登板した牧田は2イニングを完璧に抑えてチームを勝利に導いた。
「シモンズ選手(エンゼルス)、ボガーツ選手(レッドソックス)、プロファー選手(レンジャーズ)と戦って凡打にとれて、自分も(メジャーで)できるんじゃないかと思いました」
第3回(13年)、そして第4回のWBCともに牧田は日本代表のクローザーを任された。その理由の一つが、アンダースローという独特の投げ方だ。地面スレスレから高めにホップする球に対し、相手打者はタイミングをうまく取れない場面が目についた。世界的にも珍しい投球フォームについて、牧田は“絶滅危惧種”と自覚すると同時に、オリジナリティーに矜持(きょうじ)を持っている。
「アンダースローは自分にとってプラスになる部分が多いです。上手投げとかサイドの投手はいますけど、自分の代わりはいない、と」
130キロ台のパワーピッチャー
カーブ、スライダー、チェンアップ、シュートを巧みに使い、球速130キロ台のストレートをより速く感じさせる。相手打者が嫌がるほど早いテンポで投げていたかと思えば一転、ボールを長く持って焦らしていく。ストライクゾーンの上下左右だけでなく、スピード差による緩急や投球テンポのチェンジ・オブ・ペースで奥行きも使いこなし、「球速130キロ台のパワーピッチャー」と評されている。
そうしたピッチングを大舞台でもやってのけるところに、牧田の真骨頂はある。「心臓に毛の生えた」メンタルが存分に発揮されたのは、東京ドームが極限の緊張感に包まれた前述のオランダ戦だった。
「普段の試合だと相手の応援があるけど、今回はなく、シーンとしている中で観客の声が聞こえ、逆に自分のペースを崩されている部分が(1次ラウンドでは)ありました。だから今日はちょっと間を開けて、静まるのを待ってから集中して1球1球投げました。いつもはどんどん投げていくけど、投げ急いでの投げミスが一番ダメ。オランダは一発に一番怖さがあるので、逆に間をとって、しっかり1球1球ゆっくり投げることを意識しました」