頭角を現した“ヨナ・キッズ”たち 平昌五輪選考は「予想外」の結果に

李仁守

「1枠」を争う男子シングルは波乱の展開

ブライアン・オーサー氏(右)はチャ・ジュンファン(中央)を「まるで10代のころの羽生をみているよう」と評価する 【写真:アフロスポーツ】

 そしてその世代交代の動きは、男子でも起きている。韓国の男子シングル出場枠はひとつしかなく、その1枠を争う戦いでも波乱が起こった。第2戦まで首位を独走していた21歳のイ・ジュンヒョンが、最終戦で逆転負けを喫したのだ。

 振り返れば、男子の代表1枠はイ・ジュンヒョンが自ら勝ち取ったものでもあった。世界選手権で出場権を獲得できなかった韓国男子は、ラストチャンスとなった昨年9月のネーベルホルン杯でイ・ジュンヒョンが5位入賞を果たし、五輪出場権を獲得したのである。
 しかし、そのイ・ジュンヒョンがつかんだ出場枠で五輪出場の夢を叶えたのは、16歳のチャ・ジュンファンだった。チャ・ジュンファンは、昨季のジュニアグランプリ(GP)ファイナルで銅メダルに輝いた期待の新星。韓国選手が同大会で表彰台に上るのは、キム・ヨナ以来11年ぶりのことで、男子選手としては史上初だった。
 しかもチャ・ジュンファンを指導しているのは、かつてキム・ヨナを金メダリストに導き、現在も羽生結弦(ANA)らトップスケーターを教えるブライアン・オーサー氏である。

「チャ・ジュンファンを見ていると、まるで10代のころの羽生を見ているようだ。彼は羽生が同年代の頃にしていた演技をしている。これからが楽しみな有望株だ」

 こうしたオーサーのお墨付きと、幼少期には子役としても活躍した甘いマスクも相まって、チャ・ジュンファン人気は高まるばかり。メディアの間では“男子版キム・ヨナ”と称され、本格的なシニア・デビューとなった第1次代表選抜戦の前には、「平昌も私たちも君だけを待っている、チャ・ジュンファン」(『アジア経済』)、「“男子フィギュアの希望”チャ・ジュンファン、平昌五輪シーズンの新プログラムを公開」(『SBS SPORTS』)などと熱視線を送られるほどだった。

勝負強さを見せたチャ・ジュンファン

韓国男子選手として16年ぶりに五輪出場となるチャ・ジュンファンに期待がかかる 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

 ただ、代表選考レースでは苦戦が続いた。若き天才は、第1戦では3位、第2戦では2位と、イ・ジュンヒョンの牙城を崩すことができなかったのだ。その理由について、キム・ヒョンギ記者はこう分析する。

「本来ならばふたりの実力差は明らかでした。例えば “4回転競争”が激化しているこの時代に、チャ・ジュンファンは4回転ジャンプを成功させているのに対し、イ・ジュンヒョンは4回転ジャンプをプログラムに組み込んですらいない。その分、イ・ジュンヒョンは安定感のある演技を見せて選考レースでリードすることができたわけですが、実はチャ・ジュンファンの失速も関係していましたよね」

 確かに代表選抜レースが始まった時点での自己最高得点を見ても、イ・ジュンヒョンが203.92点、チャ・ジュンファンが242.45点と40点近くも差があったが、今季のチャ・ジュンファンは調子を落としていた。足に合ったスケート靴が見つからず、足首と股関節を痛めたことで、演技も不安定になっていたのである。こうしたトラブルによってチャ・ジュンファンの不振が続いたからこそ、イ・ジュンヒョンは首位をキープできたわけだ。

 ただ、それでもチャ・ジュンファンは、最終戦で平昌行きのチケットを自力で勝ち取る勝負強さを見せた。

 第三次代表選抜戦前まで、イ・ジュンヒョンとの間には27.54点の差があったが、チャ・ジュンファンは参考記録ながら自己ベストを更新する252.65点をたたき出し、1位に輝いたのである。最終戦ではオーサーコーチに自ら提案し、フリーのプログラムをジュニアGPで使用した『イル・ポスティーノ』に変更したが、その決断も奏功した結果だった。それまで2度飛んでいた4回転ジャンプを1回に減らした決断には、冒険よりも実利を取ったと言えなくもないが、その勝負強さには驚かずにはいられない。

「これまでのプログラムでけがが悪化したので、良い印象が残っている演目で心機一転したかったんです。正直、平昌五輪に出場できるとは思っていませんでしたが、五輪はすべての選手にとって夢の舞台。自信を持って臨み、僕ができる演技のすべてを出し切りたいです」

 あどけない表情ながら喜びを爆発させたこの言葉は、チャ・ジュンファンの底知れぬ可能性を感じさせるものでもあったが、スランプを克服し劇的とも言える大逆転勝利を収めただけに、国内でも韓国男子選手として16年ぶりに五輪に出場する16歳には大きな期待が寄せられている。

声援を力に地元ファンを沸かせられるか

高いパフォーマンスを見せたチェ・ダビン。開催国の強みを生かし表彰台を狙う 【写真:ロイター/アフロ】

 ただ、平昌での可能性について語るキム・ヒョンギ記者の目はシビアでもある。

「残念ながら、チャ・ジュンファンがメダルを獲得する可能性は高くはないでしょう。まだシニアではこれといった成績も残しておらず、日本の羽生結弦や宇野昌磨(トヨタ自動車)とは、比較もできないレベルです。彼らトップ選手と順位争いをできれば大成功といえます」

 もっとも、それでもチャ・ジュンファンにわずかな望みがあるとするなら、それは開催国としてのホームアドバンテージだろう。キム・ヒョンギ記者も期待を込めて、韓国フィギュアの行方を展望する。

「これはチャ・ジュンファンだけではなく女子選手にも言えることですが、開催国の強みは生かされるかもしれない。食事や生活環境もそうですが、やはり本番のリンクを経験していることが大きい。平昌の舞台となる江陵(カンヌン)アイスアリーナでは国内大会も開かれていますし、公表はされていませんが、すでに選手たちはここで練習も行っているのではないかと私は見ています。代表選抜戦の会場が満席だったように、国内のフィギュア熱も高まっているので、ファンの声援も力になるでしょう。いつも以上の力を出して、韓国を沸かせてもらいたいですね」

 男女ともに「波乱」が起きた韓国フィギュアの代表選考。長い道のりの末に出場権を手にした選手たちは、果たして本番でも「波乱」を起こし、地元ファンを沸かすことができるか。平昌五輪開幕まであと1カ月。冬季五輪の花形競技で開催国の期待を背負うスケーターたちは、着々と準備を進めている。

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著者プロフィール

1989年12月18日生まれの在日コリアン3世。大学卒業後、出版社勤務を経て、ピッチコミュニケーションズに所属。サッカー、ゴルフ、フィギュアスケートなど韓国のスポーツを幅広くフォローし、『サッカーダイジェストweb』『アジアサッカーキング』『アジアフットボール批評』『女子プロゴルファー 美しさと強さの秘密(TJMOOK)』などに寄稿。ニュースコラムサイト『S−KOREA』の編集にも携わる

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